医学界新聞

FAQ

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

寄稿 野村 章洋

2021.04.05 週刊医学界新聞(通常号):第3415号より

 2020年9月,Apple Watchの心電計で得られた心電図の測定プログラム,ならびに心房細動の自動判定・通知プログラムが日本においても医療機器として認定され,2021年1月末より一般利用が可能となりました。テレビコマーシャル等においても心電計機能がアピールされ,医療者の中にも既に自分の心電図を測定してみたり,あるいは心房細動が疑われる不規則な心拍通知を受けた方もいるのではないでしょうか。本稿では,一般のApple Watchユーザーに対して,医療者がどのように向き合い,これら機能を活用していくのが良いかの私見を述べます。

 今回Apple Watchで開放された機能は①家庭用心電計プログラム②家庭用心拍数モニタプログラムの2種類からなり,いずれも家庭用プログラム医療機器(クラスII)として承認されました1)。この2つは似たような名前でありながらその内容と機能が若干異なっており,1つずつ説明をいたします。

 まずはいわゆる心電図測定アプリであり,Apple Watchを装着した手首と反対側の手でデジタルクラウン(竜頭)に触れることで,第I誘導に相当する心電図を30秒間計測することができます。このプログラムは測定された30秒間の心電図から心拍数を算出するだけでなく,心拍のリズムから「洞調律」あるいは「心房細動」かどうかを自動で判定します。さらにその心電図はPDF形式でiPhone内に保存されるため,記録として残しておいたり,後で医師などに提示することで情報を共有することも可能です。

 注意点としては,この洞調律か心房細動かのリズム自動判定については,心拍数が50~120拍/分までの間に限定されていることです。ちなみに洞調律の判定はさらに範囲が狭く50~100拍/分であり,その範囲を逸脱するような,例えば40拍/分台の洞性徐脈や110拍/分の洞性頻脈,50拍/分を下回る徐脈性心房細動や120拍/分を超える頻脈性心房細動,あるいは心房細動以外の不整脈やノイズ等で判定に足るクオリティを満たさない心電図は,「50拍/分より下」「120拍/分より上」「分類不能」といった形で提示され,洞調律あるいは心房細動とも判定されません。特に,120拍/分を超える発作性頻脈性心房細動は日常臨床においてしばしば遭遇すると思われ,このような方々に対して現在のApple Watchの心房細動判定プログラムは自動判定の対象外である点は注意が必要です。

 なお,家庭用心電計プログラムによる洞調律ならびに心房細動判定の精度に関して,未分類や判定不能なども考慮した洞調律判定の感度は90.5%,心房細動判定の感度は85.2%とされています1)。ただし,たとえ本プログラムが心房細動と自動判定しなくとも,その30秒間の心電図は前述のとおりPDFとして保存されますので,後から医療機関において専門の医師がその心電図を再確認したり,追加検査を行うかどうかの判断材料の1つとすることができるようになったのは画期的かと思われます。

 一方のは,前述の心電計ではなく,以前からApple Watchに搭載されていた脈拍数測定機能を用いて,心房細動と考えられるような不規則な脈拍を検出して,Apple Watchユーザーに通知するプログラムです(ということは厳密には本名称は家庭用“脈拍数”モニタプログラムとしたほうが良いのかもしれませんが,便宜上ここでは心拍≒脈拍としてご理解ください)。つまり,どちらも心房細動の検出を目的としたプログラムであるものの,前述ののプログラムはユーザーが能動的に測定した30秒間の心電図から心房細動の有無を自動判定するのに対して,のプログラムはユーザーが日常的に装着することで受動的かつ断続的(連続的ではないことに留意)に測定された脈拍数データの推移や変動から心房細動の有無を自動検知し通知を出す,という違いがあります。そのため,本プログラムはApple Watchを装着し,ペアリングしたiPhoneにおいて「不規則な心拍の通知」を受け取ると選択しさえすれば,心房細動と判定されるような脈拍数データが得られた際に自動的に通知がなされます。

 これまでもApple Watchユーザーの中には,脈拍数が極端に高い場合に「高い心拍数」通知,低い場合に「低い心拍数」通知を受け取った経験がある方がいらっしゃると思いますが,そのような通知の1つとして「不規則な心拍」通知が追加されたと考えていただければ良いと思います。

2つの機能があり,どちらも心房細動の検出を目的と

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金沢大学附属病院先端医療開発センター/循環器内科 特任准教授

2006年金沢大医学部卒。米マサチューセッツ総合病院/ハーバード大医学部Center for Genomic Medicine Post-doc Research Fellowなどを経て,19年10月より現職。一般社団法人CureApp Institute共同代表。循環器ゲノム医療およびデジタル医療の臨床応用をめざしている。

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