医学界新聞

寄稿 森岡 将大,金児 玉青

2021.03.29 週刊医学界新聞(通常号):第3414号より

 当院では,病棟看護師の業務過多や慢性的な残業労働などの現状の見直しを図るために,看護部と経営企画室が中心となり2013年に看護業務改善プロジェクトを実施しました。

 最初に現状把握を行うべく,内科系・外科系の一般病棟でそれぞれ1病棟を対象にアンケート調査を行い,その結果延べ213件もの業務改善案が寄せられました。その業務改善案を「業務をなくせるもの」「業務を減らすもの」「業務を変えるもの」「業務を他部署に移すもの」に分類し,現場の声をヒアリングしながら1つひとつの改善活動に取り組みました。今回はその中で,退院当日の看護業務削減に取り組んだ事例の紹介を行います。

 病棟看護師へのアンケートを通じて浮かび上がってきた課題のひとつに,「患者が退院する当日の業務が多いため,朝早くから出勤してその準備をする必要がある」というものがありました。退院当日に病棟看護師が行う業務をヒアリングすると,以下の通り多種多様な内容に看護師がかかわっていることがあらためて明らかになりました。

・退院薬の準備
・薬剤指導に入る患者の調整
・退院時の療養計画書や退院証明書の準備
・退院後の生活指導
・退院会計ができたかの電話確認
・退院後の再診日確認

 これらの業務ではそれぞれ,各診療科,薬剤部,医事課など他部署との連携も必要です。また当院では,午前中に入院および退院をする患者が非常に多いため,病棟では退院する患者への対応や業務記録に加えて,入院患者の対応も同時並行で進める必要がありました。

 病棟の看護師にヒアリングをする中で,「どの患者がいつ退院するのかが退院直前までカルテに入力されておらず,病棟側も退院患者の準備を計画的に行うことができない」という声が上がっていました。実際,電子カルテに入力されたデータをもとに2013年度上半期の期間における現状分析を行った結果,「退院前日の16時までに退院オーダが入力された割合」は49%であり,それ以外の退院オーダは退院前日の夕方回診,または退院当日の朝回診後に入力されていることが明らかになりました()。

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 退院オーダが電子カルテに入力された時間帯と累積入力率

 患者の退院日の業務を行うのは看護師が中心となりますが,退院を決めるのは医師の業務になります。退院オーダをカルテに入力する時刻が退院前日の夕方以降になると,その頃には日勤の看護師は夜勤の看護師に申し送りをして日中業務は終了しているため,人数の少ない夜勤帯スタッフや,翌日の日勤帯のスタッフが退院の準備に追われてしまうという負のサイクルが発生していました。

 医師が退院前日までに退院日を決定し,早いうちからカルテに退院オーダの入力と,退院にかかわる書類の作成や処方入力を完了しておけば,看護師が忙しい「退院当日の午前」に準備していた業務を,入院患者・退院患者の動きが少ない「退院前日の午後」に実施することが可能になります。病棟におけるピークタイムの業務量を減らしつつ,効率的に業務が行える仕組みを整えるべく,プロジェクトチームで検討を重ねました。そして,「医師が退院前日の所定時刻までに,退院オーダと退院にかかわるカルテ記載(必要文書の立ち上げ,退院処方のオーダなど)を入力する割合を高めること」という解決策を立てて,院内全体への情報発信と各現場への解決策の落とし込みを行いました。

 具体的な院内への情報発信として,診療科別にいつ退院オーダを入力しているかを調査した上で,医師・看護師の管理職が参加する会議体で全体に報告し,「退院オーダを早く入れましょう」というキャンペーンを院内全体で行いました。医師部門については,「退院オーダを前日16時までに入れなかった診療科のリスト」を院長自らチェックし,時には各科医師へ直接改善を求めるような働き掛けを行うという徹底ぶりで現場の行動変容を促していき,プロジェクトチームにとって大きな援護射撃となりました。

 その結果,2013年度下半期には「退院前日の16時までに退院オーダが入力された割合」が49%から60%まで上昇し,「退院予定がわからない」ことによって発生する退院当日の看護師業務に改善をもたらすことができました。

 なおこの取り組みは2014年度以降も継続して行われ,2020年度上半期では「退院前日の16時までに退院オーダが入力された割合」が70%にまで達しています。また遅くとも退院当日8時までには,退院オーダの入力がほぼ完了するようになりました(2013年度上半期78%→93%)。

 さらには,患者の退院予定が早くわかるようになったことで,薬剤部は退院前日に退院処方や退院時服薬指導の準備をすることができるように,医事課では退院前日に患者の入院会計を作成できるようになるなど,他部署にも業務改善の大きな成果をもたらしました。そしてなにより,退院当日の患者さんが病院側の準備の都合で必要以上に待たされずにご帰宅できるようになったことが,業務改善の最大の成果と言えるでしょう。

金児 玉青氏

 病院における看護師は,医療の調整役としてさまざまな業務を行っています。どれも必要性があって行っているはずですが,その中身は玉石混交の感があり,本来の看護ケアから乖離しているような業務も発生しています。「業務のための業務」の中に埋もれることもままあり,こうなってくると時には精査が必要です。しかしながら,看護師同士で議論した結果,ありがちなことは他の職種へ移譲をお願いすることです。他の職種も突然新しい業務を振られては,たまったものではありません。

 そのような中で,看護業務を客観的に精査し,必要性に順序を与え解決の糸口を見いだそうとしてくれる事務部門の力は,非常に大きなものです。近視眼的になりがちな状況から,俯瞰し忌憚のない意見をもらうことができ,より良い成果を得られることができます。業務改善だけでなく,患者に提供する医療の質改善にも事務職員と医療者が協働して成し得ることは数多くあるはずです。未来の病院のあるべき姿を,一緒に模索していきたいと思っています。

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聖路加国際病院 医事課入院係アシスタントマネジャー

2013年一橋大商学部を卒業後,聖路加国際病院に入職。経営企画室・医事課入院係・QIセンター(医療安全・品質の改善部門)への配属を経て,20年より現職。現在は医事課にて医事業務全般に加え,医事課スタッフの採用・教育,監査対応や各種委員会の事務局業務を担当する。

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聖路加国際病院 副看護部長

1987年京大医療技術短大看護学科卒業後,聖路加国際病院に入職。95年聖路加看護大科目等履修修了。病棟・外来勤務を経て2019年より現職。院内では,ペイシェント・エクスペリエンス(患者経験調査),フットケア等を担当。院外では,慢性皮膚病である乾癬の患者会,現・NPO法人東京乾癬の会を01年より支援している。