日本の科学を元気に! 「日本版AAAS」設立へ
寄稿 宮川 剛
2021.03.29 週刊医学界新聞(通常号):第3414号より
日本の科学を元気にするための組織「日本版AAAS(仮称)」を設立するための準備委員会が,2021年2月1日に発足しました。私は,この会の「研究環境改善ワーキンググループ」のリーダーを拝命しておりまして,簡単にこの委員会の紹介をさせていただきます。
日本に求められる分野横断的な科学コミュニティ
わが国の研究力の低下が指摘されるようになって久しいです。若手の研究職志望者の激減や論文数の低下など,さまざまな指標・エビデンスがこの状況の深刻さを示しており(註),これらが昨今における日本の国力低下の間接的・直接的要因となっている可能性もあります。このような状況が生じてしまった背景には,政治家・官僚などの政策の立案・決定にかかわる方々と科学コミュニティの対話,また科学コミュニティ内での対話が十分でないことが一因としてあると考えられます。
そこで2019年7月,日本学術会議の若手アカデミーの一部メンバーを含めた数人の有志で,自民党科学技術イノベーション戦略調査会・科学技術基本問題小委員会の取りまとめをされていた船田元氏と畑恵氏に相談に伺いました。お二人は,この危機的現状をよく理解されていて,3時間以上にわたる活発な議論がなされました。その議論の中で「日本には分野横断的で誰でも参加できる科学関係者の組織,米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science:AAAS)のような組織が存在しておらず,そういうものを日本でも立ち上げるとよいのではないか」との意見が挙がりました。また,国会議員の中にも科学技術の振興を支援したいというモチベーションのある方は党派を超えてどの党にもいらっしゃるとのこと。最終的には,そうした党派横断的な国会議員の方々,官僚や国民の皆さまと密接にコミュニケーションを行いながら,協力して日本の科学を盛り立てていく「日本版AAAS」のような組織を立ち上げましょう,と議論がまとまり,本設立準備委員会の発足につながりました。
一方向性の「提言」だけにとどまらず,実現に向けた積極的な「対話」をめざす
2月の発足時に各種マスメディアで報道されたように,この委員会には新進気鋭の若手・中堅の研究者が多数参加しています。しかし同時に,私のようなシニア研究者や,研究をサポートするさまざまな職種や企業の方々,初等中等教育の教員なども参加する,多様性に富んだ会となっています。現在,すでに700人弱の方々に賛同いただき,140人以上の委員によるいくつかのワーキンググループが少しずつ動き始めたところです。私がリーダーを務めている「研究環境改善ワーキンググループ」では,大学教員のみならず,大学院生から文科省の現役課長までを含む40人強のメンバーが,SlackやZoomを用いて,研究者のキャリアパスや基盤的研究費の在り方,理想的な研究環境のグランドデザイン等について,ざっくばらんな意見交換を行っています。
この会の目標は,一方向性の「提言」を発するだけでなく,政策の立案・決定にかかわる方々と密接に対話しつつ,個々の案の実現を通じて,日本の科学を元気にすることにあり,そうした目標を共有しながら活動が開始されています。先日,科学技術政策などを担当する井上信治内閣府特命担当大臣からも,「このような取組が科学コミュニティの中でもっと進むように,政府としても,しっかりその取組を応援していきたいと思います」とのお言葉(https://www.cao.go.jp/minister/2009_s_inoue/kaiken/20210212kaiken.html)をいただきました。科学コミュニティ・政策立案者・国民を結ぶ組織の誕生は目前に迫っていると言えるでしょう。
*
現在,本設立準備委員会の趣旨に賛同していただける方を募集中です。単に気持ちとして応援したい,という方から,積極的に活動に参加したい,という方まで歓迎です。詳細は本設立準備委員会ウェブサイトをご覧いただけますと幸いです。
註:詳細は,本紙3336号掲載の対談「研究に専念できる環境の構築を――科学技術立国再建をめざす」をご覧ください。

宮川 剛(みやかわ・つよし)氏 藤田医科大学総合医科学研究所システム医科学 教授/日本版AAAS設立準備委員会 研究環境改善ワーキンググループリーダー
1993年東大文学部心理学科卒。博士(心理学)。米国立精神衛生研究所ポスドク研究員,米マサチューセッツ工科大ピコワー学習・記憶センター主任研究員などを経て,2003年より京大医学研究科先端領域融合医学研究機構助教授。07年より現職。
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