2019年『胃と腸』賞授賞式
取材記事
2021.03.15 週刊医学界新聞(通常号):第3412号より
2019年『胃と腸』賞の授賞式が2021年1月20日に開催された。本賞は『胃と腸』誌に掲載された論文から,年間で最も優れた論文に贈られるもの。これまで早期胃癌研究会の席上で授賞式が行われていたが,新型コロナウイルス感染症の影響で同研究会がWeb開催となり,授賞式もWeb上で行われた。
今回,対象論文134本の中から,佐野弘治氏(大阪市立十三市民病院)らによる「小腸の非腫瘍性疾患――サイトメガロウイルス(CMV)小腸炎の臨床像と内視鏡像」[胃と腸.2019;54(4):505-14.]が受賞した。当日は選考委員の松本主之氏(岩手医大)から選考経過の説明とお祝いの言葉が述べられた。
CMV小腸炎の臨床像・内視鏡像をCMV大腸炎と比較検討
近年,後天性免疫不全症候群(AIDS)や臓器移植の増加,悪性腫瘍に対する強力な化学療法の普及などの影響で,免疫不全患者が増加している。それに伴いサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)腸炎と診断される症例も増加しており,CMV大腸炎に比べて予後が不良とされるCMV小腸炎の臨床像・内視鏡像の詳細な検討が求められていた。
そこで佐野氏らは,自験CMV小腸炎7例の臨床像と内視鏡像について,自験CMV大腸炎53例と比較検討した。結果,CMV大腸炎に比べてCMV小腸炎では,絶対的免疫不全の割合および大量出血と穿孔の割合が高い傾向がみられた。また,CMV小腸炎の臨床症状は出血と腹痛が多いのに対して,CMV大腸炎では出血と下痢が多かった。加えて,CMV小腸炎の緊急手術率は43%と,CMV大腸炎の9%に比べて高率であること,CMV小腸病変は輪状傾向潰瘍と不整形潰瘍が多く,CMV大腸病変で多数認められる類円形潰瘍は少ないことが明らかとなった。
受賞のあいさつで佐野氏は,恩師への感謝を述べるとともに「われわれのグループは,これまで広義の炎症性腸疾患(IBD)の内視鏡診断,その中でも特に感染性腸炎の内視鏡診断の確立に力を入れ臨床研究を行ってきた。今回,感染性腸炎であるCMV腸炎の論文で『胃と腸』賞を受賞することができ,喜びもひとしお」と受賞の喜びを語った。今後については「症例を重ねていき,診断や治療につながる知見を見つけていきたい」と抱負を述べた。
*授賞式の模様は『胃と腸』誌(第56巻4号) にも掲載されます。
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