被災地から学生の地域医療マインドを養う
東北医科薬科大学の授業実践から
寄稿 住友 和弘,古川 勝敏
2021.03.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3411号より
2011年の東日本大震災では太平洋岸の医療機関が大きな被害を受けた。そのため同地域では医療提供機能が大幅に低下し,一時的に医療関係者の都市部への流出が起こった。これまでも地方医療機関で,医師は厳しい労働条件の下で大きな心理的負担と責任を負って診療に当たってきた。東日本大震災という大災害により地方の医療提供機能の問題が顕在化したと言える。
10年間の災害復興の中で,沿岸部の基幹病院の再建は進み,医療提供体制は災害前と同水準に戻りつつある。一方で,若い世代が戻らず高齢化に拍車がかかっている地域もある。それに伴い老々介護や高齢者の閉じこもり,生活習慣病の悪化,認知機能の低下など,新たな健康課題が浮上している。
これらの健康課題に対処するため,各自治体では地域包括ケアシステムの整備が進められ,在宅支援はシステム化されつつある。しかし老人保健施設や特別老人ホーム,療養型病院,訪問看護ステーションなどのハコモノや人的な医療資源は地域ごとに大きな偏りがあるのが現状である。制度の隙間からこぼれ落ちることのないよう,地域を診る医師が患者をサポートする体制構築が望まれている。
地域医療に関する一連の流れを実習で理解する
被災地を含む地域医療の再生に向けて,2016年に東北医科薬科大学医学部が誕生した。本学では,将来東北で医師としての勤務が期待される医学生を積極的に受け入れている。そして現在,東北各県の修学資金を得て,将来はその県で勤務することになる学生が1学年の半数ほど在籍している。
本学がめざす医師像は①地域医療を担う総合診療医,②災害医療に対応できる医師,③薬剤・薬学の基礎知識を持つ医師,である。これらのミッションを達成するために,先進的かつユニークな地域医療実習を数多く実践している。これら地域医療実習の中で重要な位置を占めているのが,2年前期の必修授業である「僻地・被災地医療体験学習I」だ。
本授業では,東北6県の19の中核病院で1泊2日の実習を行う。将来自分が勤務する県が決まっている学生はその県内の病院で実習し,勤務する県が決まっていない学生は希望を聞きながら大学が実習先を割り振る。学生は高齢化率や人口,病院の特徴などその地域について事前に学習した上で実習に臨む。実習では院内見学や病棟実習に加えて被災地訪問と被災者へのインタビューを実施し,その地域に望まれる地域医療に関して一連の流れを理解することができる。
以下に,過去に本授業に参加した学生の声を紹介する。
学生A 実習先:秋田県
私は秋田出身ではないのですが,1年の時に秋田の話を聞く機会があり,今回の事前学習や現地での実習を通して秋田の医療を知る機会になりました。来年以降も再び同じ地域で実習を行う予定なので,この経験が役立つと思います。
学生B 実習先:宮城県
事前学習では...
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住友 和弘(すみとも・かずひろ)氏 東北医科薬科大学医学部地域医療学教室 准教授
1996年獨協医大卒。博士(医学)。旭川医大第一内科,同大循環呼吸医療再生フロンティア講座特任講師などを経て,16年より現職。東北医薬大登米地域医療教育サテライトセンター長を兼務。

古川 勝敏(ふるかわ・かつとし)氏 東北医科薬科大学医学部地域医療学教室 教授
1988年山形大医学部卒。博士(医学)。東北大医学部神経内科助手,米国立加齢研究所研究室長,東北大病院老年科准教授などを経て16年より現職。同大病院総合診療科長を兼務。
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