災害医療支援者に向けたメンタルヘルス支援をどう行うか
寄稿 池田 美樹,河嶌 讓
2021.03.01 週刊医学界新聞(通常号):第3410号より
昨今,緊急事態および災害時における「支援者支援」の重要性が謳われています。本稿では,地震や風水害等の自然災害,そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)下においても,最前線で支援活動を行っている災害医療支援者に対するメンタルヘルスの問題に焦点を当てていきます。
災害医療支援者はどのようなストレスを受けやすいのか
従来「災害医療支援者は強くあるべき」という風潮から,災害医療支援者は自身の心身の不調について声を上げにくい状況がありました。しかし,1995年の阪神・淡路大震災以降,災害医療支援者が業務を通じて体験する強い精神的ショックによる「惨事ストレス」の問題が注目されるようになり,災害医療支援者であっても強いストレス反応を生じることが知られるようになってきました。
災害医療支援者の中でも,DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム),およびDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team:災害派遣精神医療チーム)は,有事の直後からおおむね48時間以内に現場へ急行し,医療活動に従事することを任務としています(写真)。活動に際して,隊員が自身の安全を確保することは原則です。しかし,いわゆる「惨事ストレス」に当たる,自身もしくは仲間の命の危険が脅かされるような場面に直面することや,不眠不休で活動を続けるといった過酷な労働環境になることもまれではなく,メンタルヘルス支援を要することもあります。

災害初動から時系列で,医療やこころのケア支援を多職種で連携して提供することを想定した訓練。
DMAT・DPAT隊員への調査結果から見えた傾向
以下に, 筆者らがDMAT隊員,およびDPAT隊員に研究協力を依頼して実施した調査結果1, 2)をご紹介します。
東日本大震災時の調査結果
本研究調査では,2011年4月に東日本大震災の被災地に駆け付けて支援活動に従事したDMAT隊員1816人に協力を依頼し,254人中188人(回収率74%)から得られたデータを分析しました。その結果,普段の仕事や家庭などにおける派遣前のストレスが,派遣4年後の「燃え尽き状態」と統計的に有意に関連することが明らかになりました(p<0.05)。また,派遣直後の無力感や罪責感などの「精神的苦痛(PDI得点)」(註)は,派遣4年後のPTSD症状や燃え尽き状態にも関連しました1)(いずれもp<0.01)。
COVID-19対応時の調査結果
2020年2月から3月にかけて,DMAT・DPAT隊員はCOVID-19にかかわる救援活動に従事しました。2月3日に横浜に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」において,DMAT隊員はCOVID-19感染者の検疫・治療,DPAT隊員はメンタルヘルスケアニーズへの対応を含む救援活動を行いました。一方で,派遣活動後には,感染防御対策のために自身の所属病院で働けない期間が生じるなどの問題が起こり...
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池田 美樹(いけだ・みき)氏 桜美林大学リベラルアーツ学群 准教授
1993年早大大学院人間科学研究科健康科学専攻修士課程修了。2015年同大大学院人間科学研究科博士課程単位取得満期退学。武蔵野赤十字病院精神科臨床心理係長などを経て19年より現職。日本赤十字社こころのケア指導者やDPATインストラクターも務め,東日本大震災や熊本地震災害などの災害医療支援者への心理・社会的支援に従事。

河嶌 讓(かわしま・ゆずる)氏 国立病院機構本部DMAT事務局員/DPAT事務局次長
2005年日医大卒。博士(医学)。07年同大精神神経科に勤務。国立病院機構災害医療センター救急救命科などを経て14年より現職。半蔵門のびすここどもクリニック副院長,日本赤十字社医療センターメンタルヘルス科非常勤医師を務める。DMAT・DPATとして多数の災害支援活動に従事。
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