医学界新聞

寄稿 秋田 由美

2021.02.22 週刊医学界新聞(看護号):第3409号より

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で,現在多くの小児病棟では家族との面会が制限されている。特に長期入院を要するがんなどを抱える子どもたちにとっては,心理的につらい状況だと思われる。

 子どもたちの心のケアを担うことの多い看護師だが,学童・思春期の子どもの気持ちを理解するのは困難であるとの認識を持っていることが明らかになっている1)。一方,子どもの側も医療者に「気持ちを打ち明ける状況になかった」との報告がある2)

 筆者は以前,小児がんの子ども,特に学童・思春期の子どもの気持ちを看護師がどう理解し関わっているかの記述を目的に,研究を行った3)

 この研究では,小児がんの子どもが多く入院する病棟を対象として,Leiningerの民族看護学4, 5)を参考に参与観察とインタビューを中心としたフィールドワークを実施した。小児病棟を1年2か月にわたり訪問し,病室やプレイルームにおける子どもへの看護師の関わり,同席の許可が得られたミーティングでの情報共有の様子を観察した。そして,観察した看護師の行動について,その意図や背景をインタビューすることを繰り返した。これらを質的に分析した結果,経験豊富な看護師が子どもの気持ちを理解する関わりがいくつか明らかになった。研究論文3)の中では6つのテーマ()として報告した。ここではコロナ禍で困難な状況にある子どもたちのケアにも役立つエッセンスを3点紹介したい。

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 「子どもの気持ちに対する看護師の理解と関わり」のテーマとポイント(文献3をもとに作成)

 「子どもの世界」とは,子どもが入院する前の子どもの生活,入院中も続いている入院前の仲間関係,子どもが考えている自分の将来等を示して看護師が語った言葉である。年齢的な特徴から自ら語りたがらないこともある。「子どもの世界」は看護師からは見えにくく,治療に直接関わりのない場合もある。中には,自分の世界に踏み込んでほしくない子どももいる。その場合にはあえて踏み込まなくても,その世界が子どもの闘病を支えていると意識できれば,子どもの理解や意思決定の支援は変わってくる。

 子どもの体調が落ち着いている時は「子どもの世界」を知る良いタイミングである。体調が悪い時は子どもの関心が自身の身体に向きがちになる。体調が落ち着いている時は自身の生活や人間関係の心配事,将来の希望に関心が向く。子どもの性格や行動特性,雰囲気などの「キャラクター」を日頃からとらえておくと,いつもと違う様子に気付ける。行動や発言がいつもと違う場合,それは子どもが何らかのサインを発している時でもある。

 「子どもの世界」や個々の「キャラクター」は,治療に直接関係のない「余計な話」かもしれない。しかし,余計な話をあえて申し送りなどで共有すれば,子どもが見せる多様な面を統合するきっかけになる。経験の浅い看護師が子どもを理解することにもつながるだろう。

 短縮化されている申し送りに「余計な話」の要素を加えるのが難しければ,ふとした日常会話で「あの子がね,こんなことを言っていた」と共有するだけでも,子どもが自分だけにしか見せていない一面や,自分には見せない態度があることに気付けるだろう。学童・思春期の子どもは相手の立場によって見せる面や態度を変えることがある。看護師間はもちろん,他職種とも情報を共有して子どものさまざまな面を知ることが,子どものより多面的な理解につながる。

 観察していると,目的を持たずに子どもと話せる「余白の時間」を大切にする看護師が見られた。「余白の時間」とは,その時すべきことを頭の中で考えていない時間,具体的には夜勤の落ち着いている時や病棟から出るまでの時間などである。業務に追われていない看護師は子どもにとって話しやすい。余白の時間に「子どもの世界」が語られることもある。そこでポロッと漏らされる子どもの本音を逃さないことが重要になる。

 また,子どものささいなこだわりを把握し,それを知っているのだと子どもにアピールする看護師もいた。こだわりとは具体的に,「お風呂に入る時にはお湯をためてほしい」「お湯はためずにシャワーチェアを出しておいてほしい」など,入浴前に準備しておいてほしい内容などである。子どもの好みやこだわりを「ちゃんとわかっているよ」「あなたに関心を持っているよ」と言葉だけでなく行動で示し,「この人なら話しても良いかもしれない」と思ってもらえるのを待つと看護師は語っていた。

 次に大切になるのが,子どもが自分のタイミングで話すのを静かに「待つ」ことである。子どもは大人の様子をよく見ている。前述の「話しても良いかな」と思ってもらえることが,この「待つ」に生きてくる。

 経験豊富な看護師は,「子どもが何か言いたそうな感覚」があると語っていた。子どもの視線や引き留めるような言動から気付くこともあれば,子どもの置かれた状況から推察される場合もあった。「何か言いたそう」と看護師が感じても,あえてすぐに質問を投げ掛けず,入浴や創部処置など二人きりになる時間を作ったり,「余白の時間」を活用したりして,子どもが話しやすい環境を用意することがあった。そうして子どもが自分のタイミングで気持ちを話すことを看護師は待っていた。看護師があらたまって質問すると,子どもが余計な気を遣い,看護師の意図を先回りした回答をすることがあると考えているからであった。

 終末期の子どもの場合,時間が限られている焦りから待つのが難しい場面もある。それでも子どものキャラクターを考え,あえて質問しない場合があった。子どものことを知りたい時に「待つ」のは難しい。「話しても良いかな」と思ってもらえる関係を作りながら待つことで, 子どもが話したい本音を聞くことができるのかもしれない。たとえそれが聞けなくても,話したくない子どもの気持ちを理解した看護は可能であろう。

 学童・思春期の子どもの気持ちを理解する関わりは,意識せずに行われていることも多いだろう。しかし,COVID-19で医療体制が逼迫する中,余白の時間や余計な話,待つ時間はないかもしれない。大変な時ほど子どもは周囲の状況を敏感に感じ取り,いつも以上に口を開かなくなってしまう場合もある。いつもと違う状況に皆が置かれた時だからこそ,「余計」と「余白」をあえて意識した関わりを持っていただきたい。そうすれば,子どもたちが気持ちを語るきっかけも生まれるのではないだろうか。

 今回,小児がんで長期入院中の子どもへの関わりから紹介したが,他の疾患や長期のフォローアップを必要とする外来でも活用できると考える。困難な状況の中,第一線で尽力する全ての方に敬意を表すとともに,病いによって生活に制限が生じ,不安や疑問,戸惑いを抱える子どもたちの気持ちが看護の力で軽くなることを願っている。


1)三澤史,他.小児がんをもつ子どもと家族のケアに関する看護師の認識――ケア29項目の実施の程度と難しさの認識.小児がん看護.2007;2:70-80.
2)前田陽子.思春期に小児がんを発症した患児の入院体験:小児がん経験者の語り.日小児看護会誌.2013;22(1):64-71.
3)秋田由美.小児がんにより長期入院している学童・思春期の子どもの気持ちに対する看護師の理解と関わり.日看科会誌.2018;38:299-308.
4)Leininger MM, 稲岡文昭監訳.レイニンガー看護論――文化ケアの多様性と普遍性.医学書院;1995.
5)McFarland MR, et al. Leininger's Culture Care Diversity and Universality:A Worldwide Nursing Theory. 3rd ed. Jones & Bartlett Pub;2014.

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駒沢女子大学看護学部看護学科 講師

2002年茨城県立医療大保健医療学部看護学科卒。茨城県立こども病院勤務後,沖縄県立看護大大学院保健看護学研究科博士前期課程修了。東京都立清瀬小児病院(現東京都立小児総合医療センター)などの勤務を経て,首都大学東京(現東京都立大)大学院人間健康科学研究科看護科学系博士後期課程修了。博士(看護学)。18年より現職。

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