医学界新聞


日本の医師養成の在り方に一石を投じるのか?

取材記事

2021.02.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3407号より

 海外医学部出身者は日本の医学に対する「黒船」となるのか――。海外医学部を卒業して日本で医師をめざす医師国家試験合格者の増加を受けて,厚労省の医道審議会や医師需給分科会では海外医学部の存在が大きな注目を集めている。

 今回本紙では,謎のベールに包まれている海外医学部の制度を明らかにすべく,特集を組んだ。また海外医学部卒業後,日本の医師国家試験に合格して現在国内で活躍する臨床医のインタビューを通じて,海外医学部の在り方を多角的に探る。

 「グローバル教育を掲げる高校で学生生活を送るうちに,世界共通言語である英語で医学を学びたいと強く思うようになった」。2020年12月末にハンガリーに渡り,21年9月に同国デブレツェン大医学部への入学を控える皿谷悠さんは,海外の医学部をめざした理由をこう語る。将来の目標は「日本と海外どちらでも即戦力の医師になること」。現在履修中の医学部プレメディカルコースには日本各地から7人もの学生が集まっており驚いたと話す。

 医師になるため「日本の医学部に入学する」という,これまで当然であった道は,今揺らぎつつあるのだろうか。

 海外医学部出身者の医師国家試験合格者数は年々増加傾向にある。2018年度は日本国籍者と外国籍者を合わせて95人となり(図1),同年度の合格者数(9029人)の1%を占める1)。これは国内医学部1校の入学者数に相当し,決して小さな数字とは言えない。

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図1 国籍別海外医学部卒業生の医師国家試験合格者数の推移(文献1より作成)
日本国籍者・外国籍者ともに海外医学部卒業の医師は増加傾向にあり,2018年度の医師国家試験総合格者数9029人のうち,海外医学部出身の合格者数は95人だった。

 海外医学部卒業後に日本の医師免許を取得するためには図2の流れで厚労省の個別審査が必要となる2)。海外医学部出身者の増加を受けて厚労省は審査基準の検討を重ね,20年11月に「医師国家試験改善検討部会報告書」として報告をまとめた。ポイントは以下の通り。

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図2 海外医学部卒業後に医師免許を取得する流れ(文献2より作成)
書類審査の結果,本試験認定,予備試験認定,いずれも認められない,の3ルートに振り分けられる。なお日本の医師法に基づく個別審査が行われるため,医師法に変更が加えられた場合は必ずしも医師国家試験の受験資格認定が保証されない点に注意が必要。本試験認定や予備試験認定を受けるための書類審査認定基準は厚労省が発出する「医師国家試験等の受験資格認定の取扱い等について」に記載されている。
  • ①現時点では海外医学部出身者に対しても国内医学部出身者と異なる基準は設けない
  • ②今後も海外医学部出身の医師国家試験受験者が増加する場合は医師の需給バランスの観点から受験資格認定の調整を検討する可能性がある
  • ③将来的には世界医学教育連盟公認の認証を受けた大学の卒業を要件とすることが望ましい
  • ④予備試験・日本語診療能力調査を共用試験CBT・Pre-CC OSCEに代替する

など

 この報告書で,厚労省の海外医学部制度に対する方針は示されたが,検討は今後も続けられる見通しである。

 先述の報告書の②にも記載の通り,海外医学部の在り方をめぐる議論では海外医学部出身者の増加が医師の需給バランスに与える影響という観点が不可欠だ。そして海外医学部出身者への医師国家試験の受験資格認定に対する調整がなされれば,海外医学部出身者の在り方も再考を迫られるだろう。その意味で,海外医学部への進学は必ずしも安定した道ではない。

 しかし本紙のインタビューで語られたように,海外医学部に進学して初めて見える景色がある。臨床医の沼田るり子氏は「英語で医学を学ぶことで,世界とつながる大きな可能性の扉が開ける」と海外医学部で掴めるチャンスを語った。同じく臨床医の宮内亮輔氏は「何にでも好奇心を持って飛び込んでほしい」と海外医学部をめざす学生にエールを送る。海外医学部という異なる文化での日々が,自己の可能性や視野を広げてくれること,将来グローバルに活躍するチャンスへとつながる道となることは確かだろう。


1)厚労省.海外医学部を卒業した医師の動向.2019.
2)厚労省.外国医学部卒業者の医師国家試験受験資格認定等について.2019.

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