医学界新聞

乳幼児におけるアレルギーマーチの現状から

寄稿 山本 貴和子

2021.02.01 週刊医学界新聞(通常号):第3406号より

 アレルギーマーチでは,さまざまなアレルギー症状が次々発症します。本稿では,乳幼児アレルギー疾患の実態や,原因となる食物を食べてすぐに症状が現れる即時型食物アレルギーの予防に関する報告をまとめます。

 子どものアレルギー疾患の増加が問題になっています。私たちの研究チームでは,大規模かつ全国レベルで10万人の子どもおよびその両親を出生時から追跡する「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」によって,3歳までの子どものアレルギー症状・疾患の実態や推移を明らかにしました1)。以下に調査結果の一例を示します。

・保護者の回答では,即時型食物アレルギー既往歴は1歳時7.6%,2歳時6.7%,3歳時4.9%。鶏卵アレルギーが最も多く,次いで牛乳,小麦アレルギー持ちの方が多かった。
・2歳以上では約4分の1の子どもに感冒(風邪)でない鼻炎症状があった。
・アレルギー疾患の発症併存は子どもごとのパターンがある(図1)。

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図1 3歳時のアレルギー症状併存状況(文献1より改変)
食物アレルギー症状,湿疹,喘鳴,鼻炎の併存状況を示す。例えば全ての症状が併存している子どもは321名。全ての症状の既往がある子どもがいた一方,鼻炎症状しかない子どももいた(n=38,007)。

 乳児期早期に発症しその後持続するアトピー性皮膚炎は,食物アレルギーや気管支ぜん息,アレルギー性鼻炎などのリスクとなります2)。アトピー性皮膚炎はアレルギーマーチの源ともされます。

 アレルゲンの影響は,経口か経皮かによって異なります3)。湿疹などでバリア機能が壊れた皮膚から,経口で摂取したことのない食べ物のアレルゲンが体内に入ることで,体はそれを異物と認識してアレルギーを起こす抗体(IgE抗体)を作ります。初めて食べた時に即時型のアレルギー反応が起こる場合は,食べる前からIgE抗体が作られていることが原因と考えられます。一方,口から食べることでその食物に対する免疫寛容(体がその食物を異物と認識しないで受け入れるようになること)ができます。しかし離乳食の開始時期が遅くなると,免疫誘導が遅れ食物アレルギーになる可能性が高まります。

 当センター受診の子どものカルテデータによると,早期にアトピー性皮膚炎に治療介入した子どもは,遅れて介入した子どもと比べてその後の食物アレルギーの発症割合は明らかに小さいものでした4)。また,アトピー性皮膚炎の子どもの皮膚をきれいにして6か月から鶏卵を少量で摂取し続けたほうが,1歳まで鶏卵除去した子どもよりも1歳児の鶏卵アレルギー発症が予防できました5)。英国の報告でもピーナッツを早期から摂取したほうがピーナッツアレルギーにならないとの報告があります6)。普通ミルクを乳児期早期から摂取するほうが牛乳アレルギーを予防できたという報告もあります7, 8)

 以上から,離乳食開始までに①乳児期にアトピー性皮膚炎を発症したらすぐに治療介入を行い皮膚バリア機能を正常化し,皮膚からのアレルゲンの影響を予防しIgE抗体を作らせないようにする,②アレルギーになりやすい食べ物を遅らせずに摂取して免疫寛容を誘導する,の2点が即時型の食物アレルギーの発症を予防する戦略といえます。他方,妊娠中や授乳中の母親のアレルゲン除去が子どもの食物アレルギー予防につながる根拠はありません。母親はバランスよく食事をするのがよいでしょう。

 離乳食開始後も油断はできません。アトピー性皮膚炎症状が続けばその後もIgE抗体が作られるためです。例えばアトピー性皮膚炎を有する子どもが1歳の時にピーナッツを食べたら症状が認められなかったものの,1年後に食べたら症状が出た(IgE抗体も陽性になってしまった)ケースもあります。

 また6歳時の鶏卵負荷試験(卵を食べて症状が出るか確認する検査)で症状が出た子どもは,鶏卵1個食べられるようになった子どもと比較して,血液検査の結果と関係なく6歳までの鶏卵完全除去率が有意に高く表れました9)。乳幼児期にアレルギー検査が陽性である場合も,少量でも食べられる食べ物は完全除去せずに摂取し続けたほうが将来の鶏卵アレルギーの改善にはよさそうです。

 食物アレルギー症状はぜん息や鼻炎など,他のアレルギー炎症があると症状が出やすくなるためアレルギー疾患のコントロールも大切です。図2に即時型食物アレルギーの予防法をまとめましたので,ご参照ください。

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図2 妊娠中から離乳食開始後まで時系列で見る,乳幼児期の即時型食物アレルギー発症予防に必要なポイント(筆者作成)
アトピー性皮膚炎を早急に寛解させて皮膚症状なしで維持することや,アレルギーになりやすい鶏卵などを離乳食の段階から導入し,開始を遅らせないことが大切になる。

 消化管アレルギーは1990年代の終わりころから急増している食物アレルギーの1つで,前述の即時型食物アレルギーと異なるタイプです。IgE抗体が関与しないとされ,通常のアレルギー検査(血液検査)では即時型食物アレルギーと異なりIgE抗体が陽性になりません。また初回摂取ではなく,何回か食べてから発症することが多いのも特徴です。このように診断が難しく,アレルギーと診断されないこともしばしばあります。

 冒頭に触れたエコチル調査で初めて1歳半までの消化管アレルギーの実態が明らかになりました1)。1歳半までに1.4%の子どもで消化管アレルギー症状がみられ,原因食物は鶏卵,牛乳,大豆の順番で多いとわかりました。日常診療でも消化管アレルギーの子どもの増加を実感しています。鑑別の1つとして本疾患を念頭に置いていただければ幸いです。

 乳幼児がさまざまなアレルギー疾患を持つことはまれではありません。即時型の食物アレルギーは速やかにアトピー性皮膚炎を寛解させること,アレルギーになりやすい食べ物も離乳食開始時期を遅らせないことで発症予防可能です。不要な食物除去はしないこと,アレルギー疾患の適切な診断,早期発見,早期介入,良好な疾患のコントロールをめざすことが大切です。近年増加している消化管アレルギーも鑑別に挙げられるようにしたいものです。


1)World Allergy Organ J. 2020[PMID:33204389]
2)JAMA Pediatr. 2017[PMID:28531273]
3)J Allergy Clin Immunol. 2008[PMID:18539191]
4)J Allergy Clin Immunol Pract. 2020[PMID:31821918]
5)Lancet. 2017[PMID:27939035]
6)N Engl J Med. 2015[PMID:25705822]
7)J Allergy Clin Immunol. 2021[PMID:32890574]
8)Clin Exp Allergy. 2021[PMID:33053241]
9)Miyagi Y, et al. Avoidance of Hen's EggBased on IgE Levels Should Be Avoided for Children With Hen's Egg Allergy. Frontiers in Pediatrics. 2021. in press.

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国立成育医療研究センターアレルギーセンター総合アレルギー科医長/同センター研究所エコチル調査研究部チームリーダー

2003年山口大医学部卒。日本小児科学会指導医,日本アレルギー学会指導医。博士(医学)。20年より現職。Physician―Scientistとして小児アレルギー診療や臨床研究,疫学研究に従事し,予防法の開発研究なども行う。本稿は個人の見解であり,組織や団体を代表する見解ではありません。