がん領域におけるオンラインピア・サポートの意義と今後の在り方
寄稿 小杉 和博
2020.10.19
【寄稿】
がん領域におけるオンラインピア・サポートの意義と今後の在り方
小杉 和博(国立がん研究センター東病院緩和医療科)新型コロナウイルス感染症の流行は,がん患者・経験者が集うピア・サポートの場にも変化をもたらしている。がん患者は感染による重症化リスクが高いため,対面を中心としたピア・サポートを受けづらくなってしまったからだ。こうしたハードルを乗り越えるために考えられる対策の一つはオンライン上でのピア・サポートである。われわれはコロナ禍以前より,子どもを持つがん患者を対象としたオンラインピア・サポートグループ「キャンサーペアレンツ」と共同研究を実施してきた。
本稿ではこれまでに得られた知見と併せて,がん患者・経験者によるオンラインピア・サポートの意義と今後の展望について概説したい。
オンライン上のピア・サポートがなぜ求められていたのか
ピア(peer)とは,同じような立場や境遇,経験等を共にする人たちを表す言葉であり,ピア・サポート(peer support)とは,ピア同士が相互に支え合うことである。経験者だからこそわかる実体験に基づいた情報によって病気にまつわる悩みや不安を共有できたり,気持ちのつらさが和らいだりする。がんに限らず,依存症をはじめとした精神疾患や,教育現場といった幅広い領域で行われており,活動形態はさまざまである(表1)1)。
表1 ピア・サポートの活動形態(文献1より一部改変) |
国が作成したがん対策推進基本計画では,ピア・サポートの普及が取り組むべき施策として掲げられている2)。しかし,全国の都道府県を対象とした調査では,ピア・サポートを事業として行っているのはわずか19県,うち15県では実施を他機関(多くは患者団体)に委託していた3)。つまり,施策として推進されているものの全国的にはあまり普及しておらず,がん患者へのピア・サポートの多くは患者団体の自主的な活動によって提供されていることが浮き彫りとなった。
また,がん患者団体にはさまざまながん種を対象に活動している団体もあれば,特定のがん種に限定している団体もある。そのため住む地域によっては近くに参加可能な患者団体が存在せず,希少がんの場合ではその可能性がより高まる。加えて,参加者はがんの好発年齢である高齢者が多く,若年者は近い立場や境遇の患者に出会えることが少ない。そして,病状が進行してしまうと参加が難しくなってしまう現実もある。
対面型のピア・サポートにはこうした課題がある一方,オンラインでのピア・サポートは,24時間どこからでも利用できることや,参加可能なグループが多いこと,匿名で参加できること,などが利点として挙げられる4)。また,特に39歳以下の若年者は,半数近くがインターネットやSNSを通じてがんの情報を得ていると報告されており5),オンラインピア・サポート活動が,希少がんや若年者を中心にみられるようになってきた。
孤独感の低さとオンラインピア・サポートの利用が関連
われわれは,子どもを持つがん患者がつながることを目的に2016年4月に設立されたオンラインピア・サポートグループの一つである「キャンサーペアレンツ」と共同で研究を行っている。創設者の西口洋平さんは2015年,35歳でステージIVの胆管がんと診断された。当時,西口さんはまだ小さいお子さんに病気のことをどう伝えればいいのか,自身の仕事はどうなるのかなど悩んでいたものの,同じ年代や立場の人が周囲におらず,強い孤独を感じたという。氏は小さな子を持つがん患者は年間約6万人ずつ増え続けている推計6)を目の当たりにしたことで,「孤独を感じながら闘病しているのは自分だけではないはず」と考え,キャンサーペアレンツの設立に至った。会員数は2020年9月現在,3800人を超える。われわれは会員の皆さまに協力いただき,医療関連領域の調査を専門とする株式会社メディリードと共同で調査を行った。
まず,設立のきっかけにもなった「孤独感」に関する調査を行った。孤独感はUCLA孤独感尺度を用いて評価し,上位50%を高孤独群と定義,関連する因子を多変量解析にて探索した。結果,オンラインピア・サポートの利用(週1回以上のログイン)と孤独感の低さが有意に関連していた(表2)7)。同年代の患者とつながりを持つことで,孤独感を和らげられた可能性が示唆されるが,横断研究の結果であり因果関係はわからないため,現在さらなる研究を計画中である。
表2 高孤独群と関連する因子(文献7より) |
子どもへの伝え方の調査では,回答者の69%が子どもにがんと伝えており,子どもの年齢と性別が伝えることに関連していることが明らかになった8)。また,がんが及ぼす経済的な問題では回答者の34%が経済的に困窮していると回答し,進行がんであること,抗がん薬治療中であること,がん診断後の就労の変化などが困窮と関連していることがわかった9)。サポートニーズに関する調査では,回答者の58%が子どものことを相談できる相手を希望し,医療者よりも同世代のがん患者との相談を希望すると回答した患者が多かった10)。
オンラインならではの工夫も必要
オンラインピア・サポートグループの多くはメッセージや日記などテキストを中心に経験の共有がなされる。しかし,テキストだけでは感情が伝わりにくく,自分の意図とは異なる意味で他人に受け取られてしまう場合がある。また,ピア・サポートは経験の共有が目的であり特定の治療を勧めることなどは禁止の場合が多いものの,利用者が記載した内容を管理者が全て確認することは難しく,誤った医療情報が記される危険性がある。そのため適切な利用規約の作成が推奨される11)。
最近ではコロナ禍によりZoomなどのビデオ会議システムが普及し,対面型と同様の面談がオンラインで行われるようになってきた。こうした技術に対し好意的な評価もある一方,画面に映る範囲が狭いため,服装やジェスチャーなど非言語的なコミュニケーションが制限されるといった問題点も指摘されている。オンラインでよりよいピア・サポート活動が行われるためにも,全国がん患者団体連合会が作成した『オンラインでのピア・サポート留意事項の手引き』をぜひご参照いただきたい。
*
コロナ禍によって今後ますますオンラインでのピア・サポート活動は拡大していくだろう。がん患者は経験の共有がしやすくなり,多くの情報が得られるようになる。その一方で,コミュニケーションをとる上では直接の対話よりも気持ちが伝わりにくい点には注意が必要だ。また,インターネットの利用に慣れていない高齢者へのサポートも必要である。厚労省が行うピア・サポート研修事業にも,オンラインでの活動を踏まえた内容を取り入れていただきたいと考える。ピア・サポートを必要とする人が容易にサポートを受けられる体制が実現し,一人でも多くのがん患者の生活の質が向上できるようわれわれも尽力していきたい。
◆参考文献・URL
1)令和元年度厚生労働省委託事業 がん総合相談に携わる者に対する研修事業.ピアサポーター養成テキスト2019年度版.2020.
2)厚労省.がん対策推進基本計画(第3期).2018.
3)日本サイコオンコロジー学会.平成30年度がん総合相談に携わる者に対する研修事業 事業報告書.2019.
4)Patient Educ Couns. 2013[PMID:23928354]
5)内閣府.令和元年度がん対策・たばこ対策に関する世論調査.2019.
6)Cancer Epidemiol. 2015[PMID:26651443]
7)Kosugi K, et al. Association between loneliness and the frequency of using online peer support groups among cancer patients with minor children: a cross-sectional web-based study. J Pain Symptom Manage. 2020. DOI:https://doi.org/10.1016/j.jpainsymman.2020.09.035.
8)Terada T, et al. Determinants of cancer patients revealing their own cancers to minor children:A cross-sectional web-based survey in an online cancer community. J Clin Oncol. 2019;37(Suppl_31):23.
9)Yuki M, et al. Factors associated with economic burden among cancer patients with minor children:A cross-sectional web-based survey of an online cancer community. Ann Oncol. 2019;30(suppl_9):120.
10)井上裕次郎,他.18歳未満の子どもをもつがん患者を対象とした,子どもに関する相談相手の現状と追加で相談したい相手に関するウェブ調査.日本緩和医療学会第3回関東・甲信越支部学術大会.2019.
11)Support Care Cancer. 2020[PMID:31720804]
こすぎ・かずひろ氏
2011年獨協医大卒。太田西ノ内病院にて初期研修,聖路加国際病院にて内科後期研修了後,15年より川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンターに勤務。17年より現職。『緩和ケアレジデントの鉄則』(医学書院)を分担執筆。
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