医学界新聞

臨床疑問が研究の出発点になる

寄稿 西山 菜々子

2020.10.05



【寄稿】

臨床疑問が研究の出発点になる
がんリハビリの有効性を明らかにする意義

西山 菜々子(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科臨床支援系領域 助教)


 近年,がん患者にリハビリテーション(以下,リハビリ)が提供される機会が拡大しています。がん患者の診断時から終末期までのあらゆる時期にリハビリ専門職がかかわっており,より質の高いリハビリを提供するために臨床研究も各所で取り組まれています。

 昨年度まで市中病院に勤務していた私は,一作業療法士としてさまざまな時期のがん患者のリハビリを担当してきました。中でも,緩和ケアチームや緩和ケア病棟を通じて,緩和ケアが主軸となるような時期のがん患者に対してリハビリを提供する機会が多くありました。その経験から作業療法士の得意とする,患者の残存機能を活かす視点やアプローチが緩和ケアに合うと感じたことなどから,特に「終末期がん患者に対するリハビリ」や「緩和ケア」に興味を持つようになり,臨床実践と研究に取り組んできました。

 本稿では,緩和ケア病棟におけるがんリハビリに関する臨床研究に取り組むようになった背景を振り返りながら,がんリハビリの役割を紹介します。

がん患者の生活を支えるリハビリの役割とは

 がん診療におけるリハビリの役割は,心身機能や日常生活活動(ADL)を支援することによって患者のQOLを高めることにあるとされます(1, 2)。身体機能やADLの維持向上,外出・外泊や自宅退院を目標とした内容が介入依頼の多くを占める中,心理的なサポートも私たちリハビリ専門職には期待されていると感じます。

 がんリハビリの代表的な概念(文献1より作成)

 緩和ケアが主軸となる時期のがん患者は,病態はもちろん,それぞれが生きてきた人生や価値観,自身を取り巻く環境も多様です。そのため,患者のニーズに基づいたテーラーメイドによるリハビリの個別性はさらに高まります。苦痛症状を和らげるためのリラクゼーション,少しでも動きやすくなるよう身体のコンディショニング,環境や遂行方法の工夫の提案など,その患者の「普段の生活」が可能な範囲で維持できるようリハビリ専門職がかかわります。難しさはありますが,その分,患者・家族の喜ぶ姿や笑顔が見られたときには大きなやりがいを感じられる領域です。

 同じセラピストと患者が毎回一定時間を過ごすリハビリの特性が影響するためか,リハビリ中の患者との何気ないやり取りから「具体的に何に困っていて,本当は何をしたいのか」という重要な語りやサインが示されることがあります。これを医師,看護師らと共有し,ケアの質向上に努めることもリハビリ専門職の大切な役割だと感じています。

効果を明らかにしたい緩和ケア病棟のリハビリ

 がん患者に対するリハビリとして一般的にイメージされやすいのは,がん治療中や治療後のサバイバーを対象に実施される運動療法ではないでしょうか。代表的なものとして,筋力訓練などのレジスタンストレーニングや有酸素運動などが含まれます。がんと共に生きる・働く時代となりつつある今,がん患者が自宅退院や社会復帰を果たし「自分らしく」生活することをめざす上で,リハビリは欠かせない存在となっています。その科学的根拠となる研究報告も年々増加しており,がん治療中やサバイバーに対するリハビリの質は日々向上しています。

 緩和ケアが主軸となる時期のがん患者に対してもリハビリは推奨されており,実際にリハビリを希望する患者が多いこともよく知られています。緩和ケアにおけるリハビリ研究も散見されるようになってきましたが,機能低下が避けられない終末期がん患者に対象を絞ると,リハビリの有効性を探索するような介入研究は無く,その実態を調査した観察研究もほとんどありません。そのため,「どのような患者に,どのようなリハビリを提供すると,どのような効果が見込めるのか」という具体的な内容については十分に明らかにされていないので...

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