MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.09.28
Medical Library 書評・新刊案内
川口 孝泰 著
《評者》若村 智子(京大教授・生活環境看護学)
看護研究の「これだけは知っておくべき」がつまった書
本書は,長年の看護研究や研究指導で得た著者のコツやエッセンスがつまった本である。分厚い看護研究の本は,気になるところ,調べたいところを読む,辞典的な使い方をする場合が多い。それに対して,この本は,看護研究に関して広く,最低これだけは知っておくとよいことが,平易な言葉で書かれている。研究法などの授業でのテキストや自己学習にとってもこの本は使いやすい。
看護学にかかわらず,どの分野においても,研究は,明らかでないことを,ある手法を用いて,答えを求めることに意味がある。一方で,看護学とは何か,看護の技術とは何かなどの,看護の本質をどれだけ深く考えているかということも,研究には重要である。この著者の研究に対する構えや,看護の本質のとらえ方が,この本の文章にちりばめられていることに読者は気付くであろう。臨床経験がある読者にとっては,その要素が文字によって目から飛び込んでくれば,過去に忘れ去った看護のかつて学んだことを思い出し,グレードアップした学び直しになることであろう。
本書は,「研究とは」「研究の種類と研究過程」「文献検討」「データ収集」「データ分析」「プレゼンテーションの技法」「研究倫理」の項から構成されている。看護研究で用いられることが多い質的研究と量的研究の解説が,バランスよく進む。「質的研究者なので,量的研究はわからない。量的研究者は,質的研究はよくわからない」という人は少なからず存在するが,いずれの場合も,自分が普段なじんでいない研究方法を自ら学び直す機会は,少ないのではないだろうか。しかしながら,この分量は,どの項目も読みこなすのにはちょうどよく,知らないことも負担なく読み進むことができる。
項の中で特筆に値するのは,「データ分析」である。質的研究のデータの扱い方,量的研究では,データの統計解析が,コンパクトにわかりやすく述べられているからである。特に,統計方法は,専門書で調べるとシグマなどの数式が,学習者のやる気を削ぎ,理解しようとしても途中でやめてしまうことも多い。使う統計ソフトが決まっていれば,その使い方の本をまねて,数値を出す程度での理解にとどまっていることもある。この本では,実際の入力を想像できるデータセットと,その代表的なグラフ例と,統計結果のはらわたに相当する部分を明示していることに意味がある。
付録として本文内のスライドの音声付きのデータがダウンロードできるが,一つひとつが短いので,空いた時間に,スマートフォンなどでも気軽に視聴できる。目から耳から学ぶことができる本書で,看護研究が,患者のため,働く看護者のための自由と創造性に満ちたものになることを期待する。
B5・頁168 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04179-9


松尾 宏一,緒方 憲太郎,林 稔展 編
《評者》坂本 節子(九大病院・がん看護専門看護師)
がんに興味を持つ全ての医療関係者に推薦したい
がん治療薬は,年々高度化・複雑化しており,薬物療法に関する最新の知識を得ることが,看護師にとって難しい状況にある。また,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療薬や支持療法薬の目覚ましい発展により,がん医療は外来治療が中心となり,生活の質をできるだけ落とさずに,外来治療が継続できるよう,がん患者の多様なニーズへの対応が求められている。
本書は,がん薬物療法に精通した薬剤師の知識が集約されており,「がん種の特徴」「疫学と予後」「治療方法」「治療による副作用対策」について,まさに業務で生じる課題や疑問を解決するための,腫瘍薬学についての情報が幅広く収載されている。また,チームマネジメントのポイントや疼痛コントロールに必要な基礎知識・麻薬性鎮痛薬における留意点など,実践的な内容も含まれている。
がん患者をサポートする看護師にとって,薬剤師に質問し,回答が得られるように,必要な情報がいつでもこの一冊から引き出すことができるのは便利である。
本書の構成を概観すると,以下のようになる(タイトルの「ひきだし」になぞらえて,普通は「章」と呼ぶまとまりが本書では「段目」になっている)。
・1段目:総論として,がんの疫学からがん治療の考え方,レジメン管理,曝露対策などがまとめられている。
・2段目:抗がん薬について作用機序,主な適応がん種と治療レジメン,特徴的な副作用,薬物動態・薬物相互作用,ポイントが丁寧に書かれている。分子標的薬は,抗体薬ごとに表でまとめられており,適応,服用タイミングなどの特徴が一目でわかるようになっている。
・3段目:がん薬物療法について各種疾患の疫学,診断,病期分類,予後因子,治療法が書かれている。代表的な治療レジメンは表形式で記載されており,投与間隔や使用する薬剤が看護師にもわかりやすく書かれている。
・4段目:がん薬物療法の副作用ごとに,その特徴と対処法が書かれている。また,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害反応(irAE)について,基礎的知識からアセスメントのポイント,早期発見・早期対応のための患者教育について書かれていることは,出色の内容である。
・5段目:疼痛緩和と鎮痛薬について書かれており,オピオイド鎮痛薬の特徴が,薬学的に詳しく書かれており,メリット,デメリットがわかりやすい。
本書には「スキルアップのひきだし」というコラムが各所にあり,一歩進んだがん患者サポートを志す医療者が知っておきたい情報も記載されている。基本から応用まで,指導的立場のスタッフが自身の知識を確認する際にも有用だろう。がん看護専門看護師,がん分野の認定看護師だけでなく,がんに興味を持っている全ての医療関係者に推薦したい一冊である。
B5・頁474 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04180-5


リーダーのための育み合う人間力
自分も周りも大事にして元気な職場をつくる
岡山 ミサ子 著
《評者》青木 美佐子(医療法人晶晴会入澤泌尿器科内科クリニック看護部長)
頑張りすぎのリーダーたちを楽にするメッセージとワーク
著者は長年にわたり,透析関連病院やクリニック,介護事業所など11施設,併せて300人の看護師のトップマネジャーを務め,また,認定NPO法人ビフレンダーズあいち自殺防止センターの創始者として約1500人の悩みを聞いてきた。その中で,多くのリーダーたちが責任感や使命感から自分を置き去りにして他者のために頑張っている姿を見てきた。著者はそんなリーダーたちに,「自分を優先して自分に愛とエネルギーを注ごう。自分で自分を癒やし,心をケアしよう」と述べている。このメッセージを読んだだけでも,現任リーダーたちは肩の荷が下り,気持ちが楽になるだろう。
2019年の...
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