医学界新聞

寄稿 宮脇 郁子

2020.09.28



【寄稿】

看護師に求められる心リハへのかかわり

宮脇 郁子(神戸大学大学院保健学研究科看護学領域療養支援看護学 教授)


エビデンスの蓄積が進む心リハの現状と課題とは

 心臓リハビリテーション(以下,心リハ)とは,心血管疾患患者の身体的・心理的・社会的・職業的状態を改善し,基礎にある動脈硬化や心不全の病態の進行を抑制あるいは軽減,さらには再発・再入院・死亡を減少させ,快適で活動的な生活を実現することをめざして,個々の患者の「医学的評価,運動処方に基づく運動療法,冠危険因子是正,患者教育およびカウンセリング,最適薬物治療」を多職種チームが協調して実践する,長期にわたる多面的・包括的プログラムである。1970年代に早期離床と社会復帰を目標として急性心筋梗塞発症後を対象に実施されるようになり,その後,急性心筋梗塞後のみならず,冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス手術後を含めた冠動脈疾患全般に対象が拡大された。

 現在は運動療法や患者教育,カウンセリングを包括的に行う心リハが,運動耐容能を改善するとともに二次予防にも有用であることが十分なエビデンスで示されている。また,心不全に対する心リハにおいても,運動療法が神経体液性因子や炎症性サイトカイン,血管内皮機能,骨格筋代謝等の改善を介して運動耐容能を向上させ,再入院率の低下や長期生命予後の改善にも有効であることを示すエビデンスが蓄積されつつある。

 一方で,入院中に開始した心リハが退院後も継続されることが少ないことは課題である。本邦における心不全患者の多職種協働ケアと心リハに関する全国調査では,外来心リハの実施率が56.5%であるにもかかわらず,心不全で入院した患者においては,外来での心リハを受けた患者が7.3%のみと極めて少ないことが報告されている1)。心不全の疾病管理プログラムとして心リハが機能するためにも,退院後の外来心リハを普及させることは急務である。こうした課題を背景に日本心臓リハビリテーション学会は,標準的な包括的心臓リハビリテーションプログラムを作成し(図12),心不全患者を対象とした心リハの適切な実施と普及を目標に掲げ,取り組みを進めている。

図1 心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(日本心臓リハビリテーション学会発行『心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版)』p.7より一部改変して転載)(クリックで拡大)
看護師は,患者が快適で活動的な生活が維持できることをめざし急性期から回復期,外来,在宅(慢性期)の全てにおいて,運動療法とともに療養行動支援を実践する。特に,「離床プログラム」「入院運動療法」「外来運動療法」「在宅運動療法」をはじめとした運動療法の場にこそ,看護師の配置が求められている。アウトカムは①生命予後改善,②再入院予防,③身体的機能低下予防に加え,日常生活における療養行動の継続である。

なぜ心リハに看護師の参画が求められるのか

 心リハは包括的なプログラムであり,その中でも看護師は疾病管理として急性期から前期回復期,退院後の社会復帰に向けた後期回復期までの全ての療養経過に携わることができる。これは他職種には無い強みであり,再入院予防や患者が快適で活動的な生活を維持するために必要な療養行動支援が行える。また,患者がセルフケア行動を日常生活の中に取り入れ実施・継続していくために,療養経過における準備状態(レディネス)に基づくセルフモニタリングの強化やセルフケア行動が負担なく継続できるための支援を行う役割も担っている。

 Davidsonら3)は,入院した中等度の心不全入院患者を対象に,外来心リハ(週1回の監視下運動療法,心不全専門看護師による心不全評価および多職種による教育指導,在宅運動療法指導,電話相談)を12週間実施した結果,QOL,6分間歩行距離,心不全重症度が改善し,12か月後までの再入院率が有意に低かったと報告している。こうした結果から,看護師が参画した心リハのプログラムは単に運動耐容能を改善するのみならず,QOL向上や再入院予防効果を有する疾病管理プログラムとして有用と言える。また,心不全の疾病管理に関するシステマティックレビュー4)においては,専門的な教育を受けた看護師によるケースマネジメントは心不全または何らかの原因による再入院を低下させる可能性が示唆されている。

 近年,急速な高齢化による心不全患者の増加,それに伴う医療費の爆発的な増加が指摘されている。心リハが心不全の疾病管理プログラムとしての機能をさらに高めるためには,効果的・効率的に急性期から回復期,外来ならびに在宅をつなぐ看護師の役割が期待されており,特に高齢心不全患者の再入院予防には,在宅で療養支援を行う訪問看護ステーションへの循環機能障害を中心とした病態生理に基づく身体管理技術の情報提供が求められている。今後ますます在宅との看看連携の必要性が高まるだろう。

運動療法が行われる場にこそ看護師の配置が必要

 図2は,数間5)による図をもとに心リハにおける看護師の療養行動支援によって患者にどのような成果が期待されるかを示したものである。運動療法に際して心リハの看護師は,まず安全な実施のために,患者の運動前のフィジカルアセスメントと運動中のモニタリングを行う。また同時に,運動前,中,後に患者がどのような身体的・心理的な反応を呈しているかに注意を払いつつ,患者が運動療法を通じて自分の「身体(からだ)」に関心が向くよう,患者の療養経験や病態等の情報を活用し,行動の意味と価値の変換の働きかけを行う。例えば,運動前に心電図モニターを装着しながら,患者と共に浮腫の観察(触れて圧痕を確認するなど)を行い,浮腫の評価の基準や出現要因を共有するといったことである。看護師が,患者に必要とされる行動と,その行動が意図する価値(効果)を伝えることで,患者の認知面・心理面が変化し,行動も変化する。その結果,病態が改善,維持され,患者は心不全を有しながらも対処できるコントロール感覚を持てるようになるのだ。心不全という病態を患者が理解することは非常に難しいため,こうした病態生理に基づく身体管理技術の提供は極めて重要である。「身体(からだ)」に関心が向きやすい運動療法の場で行われる療養行動支援(身体管理技術の提供)は,心不全患者のコントロール感覚の獲得に最もつながりやすいと考える。

図2 心臓リハビリテーションにおける看護師の療養行動支援によって患者に期待される成果(文献5より一部改変して転載)(クリックで拡大)

 現在,診療報酬の心大血管疾患リハビリテーション料(I)の施設基準において,看護師の配置は必須とはなっていない。今後看護師の配置が必須となれば,看護の視点からのケアが加わり,より一層安全に心リハが行えると考えられる。特に退院後における外来患者の回復期リハビリテーションでは,疾病管理のための療養行動支援が確実に行われることを期待したい。

参考文献・URL
1)Circ J. 2019[PMID:31189753]
2)日本心臓リハビリテーション学会.心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版).2017.
3)Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2010[PMID:20498608]
4)Cochrane Database Syst Rev. 2019[PMID:30620776]
5)数間恵子.第7章 外来での看護に必要な技術.数間恵子(編著).The外来看護――時代を超えて求められる患者支援.日本看護協会出版会;2017.p.149.


みやわき・いくこ氏
神戸大医療技術短大(当時)卒。京大病院での勤務を経て,神戸大医療技術短大助手,同大医学部保健学科講師,准教授を経て2008年より現職。その間,東京医歯大大学院医学系研究科博士前期,後期課程修了。博士(看護学)。現在,日本心臓リハビリテーション学会副理事長。日本循環器看護学会副理事長。

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