医学界新聞

心身二元論からの脱却を図る

寄稿 宮内 倫也

2020.09.21



【寄稿】

心身二元論からの脱却を図る
「とらわれ」から考えるリエゾン的身体症状症

宮内 倫也(精神科医)


“身体症状症”の背景には何がある?

 2013年,精神疾患の診断基準がDSM-5に改訂されました。この寄稿では“身体表現性障害”から“身体症状症とその関連症群”への変更に着目します。変更点はいくつかありますが,身体表現性障害は「身体疾患ではないこと」が条件だった一方,身体症状症ではそれが外れたことが大きなポイントである点は疑いようがありません。これは,身体疾患であってもその症状に対する認知・行動・感情面でのマイナス変化が大きく「とらわれ」が生じているのであれば,身体症状症と診断されることを意味しています。

 この変更は,他の変更点も含めて「精神疾患の過剰診断を生む」と批判されることもありますが,筆者は好意的に受け止めています。従来の身体表現性障害は心身二元論を体現したものであり,「身体疾患か,精神疾患か」の判断を医療者にも患者さんにも迫るものでした。もちろん,その疾患の経過や治療において特異的な部分があるため,精神症状を来たす身体疾患の鑑別は重要です。しかしながら「身体疾患なら身体の治療をすれば万事解決」と言えるほど単純ではありません。例えば慢性疼痛には病態メカニズム,社会・生活,認知的要因,感情的要因などのさまざまな因子が絡み合っており(図11),種々の身体症状にまで拡張できるでしょう。

図1 慢性疼痛に関する多様な因子(文献1より作成)

 一方,DSM-5の定義する身体症状症は心身二元論からの脱却を図る重要な布石になっており,リエゾン的であると表現できます。精神科医は内科医や外科医と協力すべきであり,同時に内科医や外科医もまた精神科医と協力すべきです。心不全か肺炎かで揉める某科 vs. 某科に代表される,“うちじゃない症候群”に陥ることなく,科の垣根を越えてより良い治療を提供することが求められます。

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