卒後教育のNew Normal
教育を受ける機会が減った研修医たちを救え!
対談・座談会 小坂 鎮太郎,橋本 忠幸
2020.09.14
【対談】
卒後教育のNew Normal
教育を受ける機会が減った研修医たちを救え!
小坂 鎮太郎氏(板橋中央総合病院総合診療科 医長)
橋本 忠幸氏(橋本市民病院総合内科 副医長)
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大を受け,3密を避けた臨床研修の実施は困難を極めており,全国の臨床研修病院は試行錯誤の日々を送る。こうした状況下での卒後教育はどうあるべきなのか。ICTを用いた教育システムの開発に取り組む小坂氏,橋本氏との対話から,卒後教育のニューノーマルを考えたい。
COVID-19で失われた教育機会を取り戻すために
小坂 卒後教育のメインはこれまで,ベッドサイドティーチングと集合型研修から構成されていたと思います。けれどもCOVID-19によってそうした教育スタイルは実施困難になりました。また,課題はそればかりだけでなく,2020年度より初期臨床研修において必修化された一般外来研修の実施方法も懸案の1つです。実際当院では今年の4~5月の間,外来研修を実施できず初期研修医が暴露する患者数が減り,教育機会のロスが増えています。橋本先生の施設ではどうだったのでしょう。
橋本 当院ではCOVID-19の感染拡大を受けて,診療科を一般チーム,COVID-19チーム,休憩の3チームに分けてローテーションを組み,万が一診療科内に感染者や濃厚接触者が現れても診療科全員が出勤停止となる事態を避けるよう工夫していました。初期研修医は一般チームに配属され,原則COVID-19疑いの患者や確定診断を受けた患者との接触は避けさせてきました。休憩に割り当てられたチームの指導医は,Web会議システムを用いてレクチャーをしたり,カンファレンスの司会を務めたりと,可能な限り研修医の教育機会のロスを補うようにしています。
小坂 ICTをうまく活用して対応したのですね。
橋本 ええ。昨年よりレクチャー等のオンライン化を推進してきたために,少ない指導医数ながら今回のコロナ禍においても教育の質を維持できています。小坂先生の施設でも卒後教育にICTを活用していると伺いました。
小坂 当院でもかねて課題としていた指導医数不足等の解決のために,本年2月より「Tele-GIM」と名付けた遠隔コミュニケーションシステムを総合診療科に導入しました。期せずしてコロナ禍に陥る前にシステムを導入できたので,3密を避けて回診したり,遠隔から症例プレゼンのフィードバックをしたりするなど,一時期の教育機会のロスをリカバーしつつあります。
橋本 レクチャーの配信やカンファレンスの代替だけでなく,回診にもICTを活用しているのは驚きです。
小坂 患者さんには教育のために行っている旨を事前に説明の上,書面にて同意をいただき,診察室をタブレット端末で撮影,医局でスタンバイしている指導医にいつでもアドバイスをもらえるよう常時Zoomでつないでいます(写真)。撮影機器を2台設置することで,研修医の視線や態度,患者の表情などもチェックできるよう工夫しました。こうした取り組みにより,多忙な指導医を捕まえて相談する時間を短縮でき,また指導医自身も効率的に時間を活用できる状態になっています。
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写真 板橋中央総合病院で取り組まれるICTを活用した外来指導のイメージ |
診察室には2台のタブレット端末を配置し,研修医の視線や態度,患者の表情を確認できるよう工夫する。常時Zoomで指導医とつながっているために,外来研修における直接観察指導も容易となる(写真左)。また,画像コンサルテーションで指示を仰ぐことができるため,診療方針を共有できることもメリットの1つだ(写真右)。 |
橋本 研修医指導に当たる指導医は多忙なために,常時アドバイスをもらえる状況は研修医にとっても安心ですね。
小坂 回診時にはカルテを確認しながら検査や処方のオーダーを指導医が代行できたり,画像コンサルテーションをして指示を仰いだりできるのもメリットの1つです(写真)。さらに,回診中にはリアルタイムでレクチャーを行い,文献や資料を共有できるので,小さな疑問もその場で解決できます。
橋本 外来指導等に遠隔による教育システムを導入した際の有効性に関するエビデンスはあるのでしょうか。
小坂 海外の文献ではICTを用いた診療評価が複数個所を効率的に指導できる方法であること1),また対面診療と診療内容に有意な差は生まれなかったこと2)が示唆されています。しかしながら,日本ではエビデンスが十分に確立されていません。今後は医学教育のスペシャリストと協働しさらに質を向上させ,エビデンスを創出していきたいと考えています。
真に意義のある教育コンテンツの開発に向けて
橋本 小坂先生のように現場のニーズに合わせてICT技術を導入する方もいる一方で,シミュレーターを使えばシミュレーション教育,Webを使えばオンライン教育,のように技術をそのまま転用するだけで満足される方がいるのも事実です。レクチャーをWebにアップすれば遠隔教育なのかと言われると,やはり疑問が残ります。学習者にとって本当に有用な技術なのかを検証し,改善していく必要があると思うのです。
小坂 新技術の導入に際し,具体的にはどのようなことを検討しなければならないのでしょう。
橋本 まずはICT技術をどのように活用するかを,SAMR(Substitution,Augmentation,Modification,Redefinition)モデルに従って分析してみることです3)。分析の一例として,対面で行っていたレクチャーにICT技術を導入するケースで考えてみます。
SはSubstitution。つま...
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