医学界新聞

寄稿 新居 学

2020.08.31



【寄稿】

AIによる過程評価支援とケアの質改善

新居 学(兵庫県立大学大学院工学研究科 准教授)


 看護ケアの質評価の研究は,看護QI研究会が1990年代から2001年にかけて看護の質評価指標を開発したことに始まる。看護ケアの質評価システムを運用するための仕組みづくりから質評価結果を改善につなげるシステムづくりまでの各段階を経て,現在は日本看護質評価改善機構において参加病棟を募集し,看護ケアの質評価が実施されている。

 看護ケアの質評価支援を人工知能(AI)で行う試みは,2008年に看護QI研究会にて「Web版看護ケアの質評価総合システム」が運用され始めた頃から検討が開始され,現在まで継続して研究開発を行っている1)

 本稿では,近年大きく進化するAIによる看護ケアの質評価の現状と展望を紹介する。

看護ケアの多様な文意をどう分類する?

 看護ケアの質は,構造(Structure),過程(Process),成果(Outcome)の3つの側面で評価している。これらの評価の特徴は,看護の「過程の質」を評価する点にある。看護過程は看護師の行為そのものである。しかしこれは,数値的に表現することが難しい。患者の社会背景や看護を取り巻く状況によっても要求される内容や水準が変化するためである。

 看護QI研究会によって開発された「Web版看護ケアの質評価総合システム」では,過程評価指標に基づく問い掛けに看護師が自由記述文章で回答する。その回答を評価者である専門家が精読し,実際に行われたケアの内容を評価することで過程評価が行われてきた。従来は現場に出向く参加観察などによる手段で看護ケアの情報を得ていたが,その代替であるWebシステムにより看護ケアテキストを得ることで過程評価を行うことが可能になった。

 過程評価支援で評価対象とするデータの収集は,6領域に分けた看護ケアの質「患者への接近」「内なる力を強める」「家族の絆を強める」「直接ケア」「場をつくる」「インシデントを防ぐ」について,複数の問い掛けに対する自由記述回答(以下,看護ケアテキスト)で構成される。この看護ケアテキストは,担当した患者に対して実施したケアの内容について,具体的な記述が求められている。

 に看護ケアテキストの例を示す。評価は質問項目により評価視点は異なるが,例えば「痛みの治療に対する医師への働き掛け」では,①医師には何も言っていない,②痛みの現状だけを述べている,③改善策は述べているが,根拠を述べていない,④現状・根拠を含めて改善策を述べている――の4つのクラスへ分類することで行われる。記載すべき内容の提示はあっても,収集される看護ケアテキストに制約がないため,文体や書式,文章の長さなどが異なる。それに,担当する患者の病状や背景についての回答も,ケアに当たる看護師ごとに違いが生じる。例えば,痛みの由来はケースバイケースであり,回答中には具体的な薬品名など多様な固有名詞が出現する。病院や病棟が異なれば用いられる略語も同様に多岐にわたる。こうした看護ケアテキストを評価するために4つのクラスに分類することが過程評価の位置付けとなっている。

 看護ケアテキストの質問項目とクラスごとの回答の一例(クリックで拡大)

テキストマイニングによる文書解析の仕組み

 自身の看護行為を客観的に自己評価し改善を図ることが求められる看護師にとって,AIを用い迅速に過程評価が行われるようになれば,看護師の自己評価を容易にし,日常的な看護の質改善へとつながることが期待される。

 人間の評価者は,文体や書式,文章の長さなどの相違や用語の「ゆらぎ」を把握し,背景を想定して文意を理...

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