Withコロナ時代における介護・高齢者支援の在り方
対談・座談会 堀田 聰子,金山 峰之,猿渡 進平,山岸 暁美
2020.08.31
【座談会】
Withコロナ時代における介護・高齢者支援の在り方
堀田 聰子氏(慶應義塾大学大学院 教授/人とまちづくり研究所代表理事=司会)
金山 峰之氏(介護福祉士・社会福祉士)
猿渡 進平氏(白川病院医療連携室室長/医療ソーシャルワーカー)
山岸 暁美氏(コミュニティヘルス研究機構理事長/慶應義塾大学/在宅看護CNS)
新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)は介護・高齢者支援の現場にも多大な影響を及ぼしている。その影響の実態と現場のさまざまな取り組みや工夫を把握することを目的に,5月中旬に行われた「新型コロナウイルス感染症が介護・高齢者支援に及ぼす影響と現場での取組み・工夫に関する緊急調査」(MEMO,以下,本調査)の結果が6月に報告された。
今回,本調査を実施した「人とまちづくり研究所」代表理事の堀田氏を司会に,介護福祉士・社会福祉士の金山氏,医療ソーシャルワーカーの猿渡氏,在宅看護専門看護師の山岸氏の4氏が,本調査結果から見えてきた新型コロナ禍における介護・高齢者支援の抱える問題点やその解決の方策について語り合った。
堀田 新型コロナ禍で介護サービス利用者や高齢者の虚弱化,家族や介護職員への負担増,管理者のストレス増,事業経営への打撃などが懸念されます。しかし,利用者や高齢者への生活支援を止めるわけにはいきません。そこで新型コロナが介護・高齢者支援に及ぼす影響の把握,また新型コロナに対応する現場の知恵の共有が不可欠との思いから,川越雅弘さん(埼玉県立大)をはじめ30人の有志による自主調査として本調査を実施しました。
本調査には大きく2つの目的があります。1つは新型コロナの影響を全国で事業を通じて明らかにしつつWithコロナ時代の生活支援の在り方を探ること。もう1つはそれを支える地域や社会の備え,基盤につなげて各自治体での次期介護保険事業計画等に反映させることです。全国から集まった現場での取り組みや工夫についての膨大な文字回答は,本日お集まりいただいたお三方をはじめ多くの専門職を含む有志の方々に一つひとつ吟味・分析していただき,短期間で結果を公表できました。本調査を足掛かりとして,介護・高齢者支援の「いま」と今後に向けた展望を議論したいと思います。
新型コロナ禍の支援現場で何が起きていたのか
堀田 はじめに,皆さんが調査結果を分析する中で感じた新型コロナの影響や印象的な現場での工夫をお話しください。医療ソーシャルワーカーの猿渡さんから,地域包括支援センター/在宅介護支援センター調査結果を踏まえてお願いします。
猿渡 地域包括支援センター(以下,センター)業務のうち,訪問による相談業務は大きな部分を占めます。今回の新型コロナでは,この訪問業務が多大な影響を受けました。56%ものセンターでの訪問業務が全てないし一部中止され,利用者や家族,地域住民などからの相談が多く寄せられました。
具体的には,利用者から新型コロナに対する不安や集いの場であるサロンなどの縮小に対する困り事,家族からは利用者の生活機能低下への不安,家族の介護や支援の負担の問題が寄せられました。地域住民からは集いの場の再開目処や支援者の負担に関する相談が多く寄せられました。これらの相談に対し,センターでは訪問時の感染予防の徹底や訪問業務の電話による代替などの対応を行いました。
堀田 テレワークやオンラインでの支援にかかわる環境整備の要望も多く挙げられましたね。
猿渡 ええ。以前からオンライン環境を整えていた一部の市町村では,利用者とオンラインで対面しての会話を行いました。しかし介護業界のオンライン整備は十分とは言えず,環境が整備されていれば対応できた相談も多かったのではないかと感じました。
堀田 介護保険サービス事業所調査の分析をされた金山さんの印象はいかがでしょうか。
金山 調査結果の中で良いと感じたものに,利用者の安否確認の工夫が挙げられます。災害を契機に連絡先の一覧を作成していたことで電話での迅速な連絡が可能であったほか,聴覚や発声に障害のある利用者にはメールで確認を行う,との回答がありました。
堀田 過去の経験に基づく備えがうまく生きたケースですね。
金山 はい。一方,再度検討を要すると感じたものもありました。それは認知症の方に対する見守りを手厚くするために人手や時間を増やすという回答です。慢性的に人手不足の介護業界でその対応は難しいと感じました。
堀田 ありがとうございます。在宅看護専門看護師としても活動する山岸さんはCNSの皆さんと介護保険サービス事業所調査の解析にご参加くださいました。気になった点はいかがですか。
山岸 4月7日に緊急事態宣言の対象となった7都府県では,「事業所に新型コロナ感染が疑われて対応が必要になった利用者がいた」と,訪問看護と訪問介護では36%が回答しました。そのうち「利用者・家族希望による利用控え・キャンセル」は77.2%と,深刻な影響を受けています(図1)。
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図1 新型コロナの事業所運営への影響(複数回答,訪問系・7都府県抜粋)(「介護保険サービス事業所調査」より作成) |
堀田 介護保険サービス事業所全体でも51%が「利用者・家族希望による利用控え・キャンセル」を経験しています。ケアマネジャー調査では居宅のケアマネジャーの66%が「訪問(モニタリング等)が利用者に拒否された」,75%が「利用者の現状把握が難しくなった」との結果が示されました。
利用者の現状把握に基づいて,自立と尊厳の保持に必要な介護保険サービスを提供するために,新型コロナに対する利用者の不安を軽減する働き掛けや情報提供が急務だと感じました。
山岸 多くの事業所が受けた影響を数値として示せたことは,現在起こりつつある新型コロナの第2波,続く第3波への対策を打つための布石になると考えています。
調査結果の中には,課題に対する対応策が具体的に書かれた回答が多くあり,利用者に応じて新型コロナの情報提供方法を工夫しているとの回答が印象的でした。厚労省や県からのリーフレットなどは文字が多いため絵に描き換えて配るなど必要な情報がその人に届くような工夫や,不安に陥っている人には理解度や不安に配慮した情報を提供するなど「キラリと光る」さまざまな取り組みが見られました。
堀田 ありがとうございます。マスメディアの情報が利用者の不安を増幅している場合も多くあります。細やかに情報提供を行うことは,利用者が外に出掛ける背中を押すためのとても重要な取り組みだと思います。
継続的に支援を提供するために必要なこと
堀田 今回行った4つの調査では厳しい環境や多くの制約の中でもさまざまな取り組みや工夫が行われていることがわかりました。これらの支援を継続して提供するためにはBCP(Business Continuity Plan)と資金繰りについて考える...
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