医学界新聞

2020.08.03



Medical Library 書評・新刊案内


Dr.セザキング直伝!
最強の医学英語学習メソッド[Web動画付]

瀬嵜 智之 著

《評者》押味 貴之(国際医療福祉大医学教育統括センター准教授・医学英語教育学)

「最強」級に丁寧な筆致の「最弱」だった著者からの応援本

 英語の対策本は数多くあり,その中には本書のように「最強」をうたっているものも少なくない。そのため「最強」といううたい文句に眉をひそめる方も多いことだろう。しかし本書は「最強」の英語強者によってではなく,「最弱」の英語弱者であった著者によって丁寧に書かれた医学英語学習の解説本である。そしてその丁寧さのレベルはこれまでに出版された医学英語関連の書籍では間違いなく「最強」といえる。

 著者は医師として働きながら米国医師国家試験(USMLE)のコンサルタントとしてこれまでに1000人以上の医学生・医師の指導に従事し,数多くのUSMLE合格者を生み出してきたUSMLE受験対策の専門家である。こう聞くと「最強」の英語強者を想像すると思うが,著者は学生時代,英語が「トラウマレベルで苦手」な英語弱者であった。本書はそんな「最弱」であった著者が,USMLEの試験を高得点で合格するまでの体験とあまたの指導経験から得られた医学英語学習方法を,文字通り「最強」レベルで丁寧に解説している。

 どのくらい丁寧かというと「英語を学ぶ前にまずは日本語から」というテーマで1つの章を使うくらいである。外国語学習において,「母国語を正しく使うという姿勢」は軽視されがちである。しかし,「テンポラールにツモールを認めます」のような「医師のルー大柴化」は英語学習においては非常に問題であり,正しい英語を使える日本人医師はこのような日本語を使うことはない。この章で紹介されているさまざまな具体例を通して「医師として日本語を正しく使う」という意識を持つだけで英語力が向上する読者も数多くいることだろう。

 また,文法や読解といったこれまでの医学英語教材では見過ごされがちだったテーマにも本書は正面から向き合っている。そして,そこに徹底されているのは英語が「最弱」であった著者の学習者としての視点だ。英語塾の選び方や英語試験の対策方法に至るまで,著者は「自分が医学生時代に知りたかった」という情報を厳選し,「最弱」であった過去の自分を想定し,導くような語り口で丁寧に解説している。

 もちろん英語が得意な医学生や医師にとっても本書は宝の山といえる。特に後半のUSMLE対策は著者が最も得意とする領域であり,日本において本書ほど丁寧にUSMLE対策を解説している書籍は存在しない。試験情報や勉強方法はもちろん,合格に至るまでのさまざまな状況をシミュレーションして丁寧に解説している。USMLE受験を考えている医学生・医師にとって,本書は必携の書といえる。

 ただ,本書の読後感は医学英語学習の解説本のそれではない。「最弱」であったコンプレックスを大きな力に変えた著者から,英語を苦手とする日本人医学生に贈られた「温かい応援本」というのが本書の本質であり,英語を使って新たなことに挑戦したくなる,そんな一冊である。

A5・頁264 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04174-4


臨床泌尿器科 2020年4月号(増刊号)(Vol.74 No.4)
特集 泌尿器科診療の最新スタンダード 平成の常識は令和の非常識

「臨床泌尿器科」編集委員会 編

《評者》伊藤 明宏(東北大教授・泌尿器科学)

泌尿器科診療全般にわたり知識のアップデートが可能な一冊

 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります。教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います。

 一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います。インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか。

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています。セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています。これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます。そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います。診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です。本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です。そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります。また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています。診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です。

 医療は日進月歩であり,油断しているとすぐに置いて行かれます。本書を常に手元に置いておき,自分自身をアップデートするきっかけとして,利用していただきたいと思います。

B5・頁256 定価:本体8,200円+税 医学書院


地域医療構想のデータをどう活用するか

松田 晋哉 著

《評者》仲井 培雄(医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院理事長)

地域医療の未来予想図

 本書は地域医療構想の基礎データ策定に携わられた松田晋哉先生の著書である。2015年10月に地域医療構想の意義や歴史的背景等を記した『地域医療構想をどう策定するか』(医学書院)を出版されて5年が経つ。この間に社会医学研究の新知見や先行事例の経験値を集積されて,今一度「このツールやデータはこう活用していただきたい」という思いが続編である本書に込められている。

 地域医療構想は,2025年をめどに医療提供の適正化による効率的な医療提供体制をめざしている。「地域医療構想」と「医師の働き方改革」,「医師偏在対策」を三位一体とした改革や「診療報酬改定」,「地域包括ケアシステムの構築」等と共に推進される。しかし,2019年9月26日に病床機能の見直しが必要とされた424の公立・公的病院が公開されると,将来の社会保障制度の議論よりも地域とのコミュニケーションの重要性が浮き彫りになった。どのような「まちづくり」をするかという基本構想が,地域医療計画や地域医療構想に反映されない限り,地域住民からの理解は得にくい。

 これに対して松田先生は,データに基づく冷静な議論と丁寧な説明が重要だと説いている。地域医療構想策定の要である病床機能別病床数推計の前提条件を理解し,人口変化や医療施設・医療職の状況に鑑みて,地域医療アドバイザーと共に地域概況分析を行うことを勧めている。使用される各種データやツールには,DPCやNDB等に加えて年齢調整標準化レセプト出現比(SCR),地域別人口変化分析ツール(AJAPA)等がそろっている。これらを駆使した急性期・回復期の定量基準の導入,慢性期必要病床数と外来医療計画等のアイデアが盛り込まれており,424病院をはじめ全国の構想区域にエールを送られている。

 日本は爆発的に高齢者が増える大都市部と,高齢人口は維持・減少して支える人口が減少する地域に大別される。松田先生は,いずれにおいても軽症急性期・急性期後の医療に加え在宅医療も支えられる地域包括ケア病棟と,同病棟を擁する急性期あるいは慢性期ケアミックス病院の活用を期待され,総合診療医や看護師特定行為研修修了看護師の活躍を予想されている。そして,各地域の先進事例や地域課題に真摯(しんし)に取り組んでいる病院を訪問されて,社会的包摂を礎とする地域共生社会を見据えた人づくり・まちづくりが重要だと結論付けている。本書は構想区域内の各施設の計画立案にも随分と役立つであろう。

 松田先生の夢は,超高齢社会に対応した地域包括ケア体制の創出において日本がアジア諸国のモデルとなることである。その第一歩として,コロナの時代にこそ必要な地域住民とつくる地域医療の未来予想図に,読者の皆さまと思いをはせたい。

B5・頁144 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04252-9


AO法骨折治療[英語版Web付録付] 第3版

田中 正 日本語版総編集
澤口 毅 日本語版編集代表

《評者》中島 康晴(九大教授・整形外科学)

骨折治療の必読バイブル

 このたび,田中正先生と澤口毅先生の編集による日本語版『AO法骨折治療 第3版』が上梓された。われわれにとって読みやすい日本語版を世に出していただいた両氏,および翻訳・編集に携わられた皆さんにまず敬意を表したい。

 AOグループ(Arbeitsgemeinshaft für Osteosynthesesfragen)は,1958年にスイスにおいて少人数で設立され,現在では外科的・科学的財団として発展している。AO Foundationは骨折治療学における臨床的・基礎的研究のメッカとして有名で,さらに教育面ではAOコースを世界中で展開している。本書“AO Principles of Fracture Management”はそのAOグループが総力を挙げて完成した骨折治療マニュアルであり,2000年に初版が発行され,2003年には日本語訳『AO法骨折治療』が出版された。私も整形外科医の端くれとして,本書を通して骨折治療のいろいろなことを学ばせていただいた。骨折の手術の前には必ずといってよいほどひもといた座右の書である。日本語版第2版は2010年に出されているので,今回の改訂は約10年ぶりということになる。まさに待ちに待った改訂である。

 本書の魅力の1つは豊富な写真やイラストであろう。視線に合わせた三次元的なイラストやCT,MRIのような断面図のイラストを用いて,読者が骨折の形態,周囲の解剖,そしてAOの治療原則(principle)を理解しやすいように工夫されている。テキストも長過ぎず,覚えておくべき重要な点は色を変えて強調されている点も,メリハリが効いていて読みやすい。加えて各章のQRコードから250以上もの動画にアクセスできるようになっており,インターネット時代の世代にも使い勝手のよい工夫がなされている。

 時代の変遷とともに疾患構成も変化している。田中先生も序文で触れられているように,超高齢社会では骨粗鬆症に起因する骨折が多発し,世界中で大きな社会的問題となっている。加えて,高齢者の多くは合併症があり,筋力も低下しているため,術後のリハビリテーションを含めたケアも欠かすことのできない重要な点である。本書では「脆弱性骨折と老年整形外科ケア」として独立した章として詳述されている。また,イメージを使用する機会の多い分野でもあり,放射線被曝のリスクは決して少なくない。その点は「画像検査と放射線の危険性」として述べられており,放射線被曝を最小化する実際的な注意点についてわかりやすく記載されている。

 本書は1016ページに及ぶ大書であるが,決して教科書のような隅から隅までの長い記述ではない。むしろ,記述は簡潔で,実践的で効果的に骨折治療の実際を学ぶことができる書籍である。すでに多く骨折治療を経験された先生にも,今から経験を積もうとする若い整形外科医に対しても,必読のバイブルとして自信を持って推薦したい。

A4・頁1016 定価:本体40,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03943-7

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