看護研究におけるリアルワールドデータの活用
寄稿 仲上 豪二朗,横田 慎一郎,真田 弘美
2020.07.27
【寄稿】
看護研究におけるリアルワールドデータの活用
仲上 豪二朗(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野/東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター)
横田 慎一郎(東京大学医学部附属病院企画情報運営部)
真田 弘美(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野/東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター)
医療において臨床研究が果たす役割は極めて大きい。一方で,研究のために取得したデータはある意味「人為的」であり,必ずしも現実の状況を反映したものではない。確かにランダム化比較試験(RCT)自体の価値は高いが,その結果が目の前の患者に一般化できるかと言われると難しい。また,高齢者を対象としたRCTは少なく,プロトコルに記載された方法と同じ介入ができるシチュエーションはそうそうない。そのため,臨床研究から得られた結論が直接医療サービスに適応できないエビデンス・プラクティスギャップが生じる。こうしたギャップに対する反省と,標準化されたデータベースの構築や情報処理技術の発展に伴い,ありのままのデータであるリアルワールドデータ(Real World Data:RWD)を利用した臨床研究に触れる機会が近年増加してきた。
では,RWDはどのようなデータを指すのだろうか。まだ明確な定義や分類があるわけではないが,RWDとは臨床で働く医療従事者が日々実践する医療行為や検査結果をありのままに収集したものを指し,最もなじみ深いものの一つが電子カルテデータである。英語で言うとroutinely collected health dataである。他に診療報酬請求情報(レセプト)データベース,DPCデータベース,調剤データベースなどが該当する。RWDの活用こそ,データに基づいた客観的かつ効果的な次世代の医療サービス構築への第一歩と言える。
看護学とRWDの親和性
医学の分野ではRWDを用いた研究が急速に発展している。RWDを用いた研究は観察研究であるが,RCTが実施できない集団や,そもそもRCTが組みにくい治療・ケアについて,その効果の推定を行うことで相補的役割を果たす。また,退院サマリーの自動生成,希少有害事象検出アルゴリズムの開発,機械学習による疾患予後予測,人工知能を用いた疾患の早期発見など,RWDの活用の幅は広い。
一方,看護学においては現状RWD解析が十分に取り入れられていない。その理由として,①RWDが看護学の研究で活用できることが浸透していないこと,②看護学に資するRWD解析を実施できる人材が不足していることが考えられる。
前者については,患者識別情報を削除した電子カルテ等のデータを後ろ向き観察研究として解析する場合,倫理審査委員会の承認の下,オプトアウトの形で研究利用が可能であることが十分に知られていない。RWDは,研究に関する情報を通知または公開し,さらに可能な限り拒否の機会を保障することで取り扱えるのである。また,DPCデータベースやレセプトデータベースなどは,それらを専門に取り扱う企業が存在しているものの,看護学研究者の中にRWDを研究対象とする機運が高まっていないのが現実である。
◆RWDを活用した褥瘡の実態調査
看護師が入力し形成するRWDを,看護学,看護サービスに還元しなければとの思いで筆者らはRWD研究に取り組んできた。この場を借りて筆者らの専門である褥瘡に関する解析結果を紹介したい。
褥瘡で苦しむ人を少しでも減らすためにはまず現状を正確に知ることが重要と考え,褥瘡がどれくらい患者にインパクトを与えているかをDPCデータベースを用いて検証した。褥瘡を保有していると在宅復帰が難しいという臨床的な感覚はあったが,定量的に検証されていなかったからである。そこで,2014年のある1か月の間に退院した約34万人(全国のDPC病院における患者の約半数)の入院患者のデータを用いて,褥瘡がない場合,院内発生した場合,入院......
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