MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.06.15
Medical Library 書評・新刊案内
宮入 烈 監修
大久保 祐輔 執筆
宇田 和宏 執筆協力
《評者》笠井 正志(兵庫県立こども病院感染症内科部長)
もっと勉強したくなる小児感染症の領域初の疫学学習書
著者である大久保祐輔先生,監修者である宮入烈先生,そして執筆協力者である宇田和宏先生は「小児における感染症対策に係る地域ネットワークの標準モデルを検証し全国に普及するための研究」という壮大なテーマの研究班の研究仲間である。本書の中心となるデータは,われわれの研究班において主に大久保先生が取り扱われたNDB(National DataBase)が用いられている。処方数十億という単位のすごいビッグデータである。が,しかし班会議の報告会では「へーそうなんだー」,「よくわからんけど,すごいなー」といったレベルの理解で3年間の研究を終えた(その後,2020年からも継続更新し,楽しく研究している)。
通読してよかったと思える医学書は一般的に少ないものだし,そもそも臨床医には時間がない。新型コロナウイルスまん延地域のためどこへも行くことができない5月のゴールデンウィークに何気なく読み始めたところ,一気に引き込まれた。「これが知りたかった」が満載である。自分の研究関連領域の知識だけではなく世界観そのものが新たにパーッと広がり,いつの間にか付箋と線引き用鉛筆を片手にじっくりと読み込んでいた(写真)。
本書は小児領域にかかわる全ての医療関係者(特に小児科医,薬剤師,感染症医)に新たな学びと視点を与える本である。本書と『抗微生物薬適正使用の手引き 第二版』(厚労省)があれば,こどもの外来診療の際に自信を持って抗菌薬を処方でき,無用な抗菌薬を出さずに済み,明るい未来を創る第一歩を踏み出せることだろう。
ぜひとも本書を読んでほしい方々は,以下のような医療従事者である。
①AMR対策の根幹は良いコモンディジーズ診療であると考え,実践している医師
②医師の抗菌薬処方行動を双方「納得」の上,変容させたいと願う門前薬局薬剤師
③疫学について知ったかぶりをしている(したい)感染症医師
④新型コロナウイルス感染症対策で疲れたICD
よく知っていると思っていたことが,全然知らなかったということを知る。これを知の喜びという。そしてわれわれがやるべきことはまだまだあると教示してくれる本書は,新型コロナウイルス感染症対策でささくれ立つ良き医療者の心を癒やしてくれることは間違いないだろう。
A5・頁256 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04164-5
矢吹 拓 編
《評者》平井 みどり(兵庫県赤十字血液センター所長)
薬の「上手なやめ方」へ一歩踏み出すために
この時期(2020年5月)だから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の話から入ろう。レムデシビル(ベルクリー®)が認可された。ファビピラビル(アビガン®)も,ノーベル賞受賞者が開発したイベルメクチン(ストロメクトール®)もと,さながら治療(の可能性がある)薬祭りの様相で,薬さえ決まれば大丈夫と政治家の方々は思っておられるようだが,感染症の専門家の話を聞いているのかしらと疑問に思ってしまう。頭痛にバファリンじゃないけれど,コロナにアビガンですっきり~というわけにはまいりません。さほどに,一般の方々の「薬」に対するイリュージョンは大きいわけである。
薬の「上手な出し方」は誰しも知りたいところであろうが,「上手なやめ方」について,興味を持ち始められたのはごく最近である。処方を見なおして,不要な薬を減らそうと提案したところ,「必要だから処方してるんだ! やめろとは何事だ!」と激怒されたことがある。それもつい最近のこと。前医の処方には手を付けない,という不文律(?)も,そういうところから発しているのだろう。
さて本書は三部構成になっており,1章は総論として処方上手になるためのコツが列挙されている。矢吹拓先生と,知恵袋の青島周一先生,すなわち医師と薬剤師の共同作業による処方見直しのポイントが列挙されている。患者とのコミュニケーションについては,行動理論に基づく不確実性と,そのための医療者と患者の話し合い・相互理解の必要性が強調される。2章は紙上カンファレンスで,あるある症例に基づき医師・薬剤師を中心とした座談会が,楽しく盛り上がる様子(時に鋭い突っ込み)が活写されている。このジャンルでは有名な先生ばかりが登場し,とても楽しく読めるのだが,ページごとに役立つ知識・知恵が満載で,読み返すたびに新しい発見がある。「とりあえず」の解説など,思わず笑ってしまった(詳しくは,本書p.123をお読みください)。3章は薬の始め時・やめ時について,各科の専門家からのアドバイスが,初心者にもわかりやすく解説されている。薬の選択も秀逸だし,薬を中止した後,どこに注意すればよいかが示されているので,読んだ後には処方を振り返って「一度やめてみようかな」と思えるのではないだろうか。
本書の編者である矢吹先生は,栃木医療センターの院長と相談してポリファーマシーの是正を開始した時に,地域の医師会の先生方の意見を聞きつつ,あいさつに回ったそうだ。パイオニアの矢吹先生も,最初はとても苦労されたのである。
医療に100%の正解は,まあ,ない。限りなくグレーの地平に道筋を付けるには,「コミュニケーション」が必要不可欠である。その意味で,本書の総論部分は全ての医療者に読んでいただきたいと強く思う。治療の過程で正解を決めるのは無理としても,そこにできるだけ近づこうと努力すること,それが患者さんに幸せをもたらし,患者さんの笑顔が医療従事者の(過酷な日々の中での)明日への頑張りにつながるのである。
A5・頁322 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03959-8
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