プライマリ・ケア医のCOVID-19対策
インタビュー 大橋 博樹,北 和也
2020.06.15
【interview】
プライマリ・ケア医のCOVID-19対策
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で,地域の開業医や診療所医師はCOVID-19を疑う患者への対応と感染対策が迫られた。
収束を迎えたものの再流行の懸念は消えない。プライマリ・ケアの現場でできる中長期を見据えた備えは何か。長年地域で診療に当たる2氏に聞いた。
オンライン診療の意義と注意点は
大橋 博樹氏(多摩ファミリークリニック院長)
当院のある神奈川県を含む1都1道3県の緊急事態宣言が5月25日に解除されたが,再流行への警戒が欠かせない。感染者数が急増した4月,当院も発熱や呼吸困難を訴え来院する患者が増え始めたため,発熱外来を設置した。それまで動線を分ける空間的分離を行っていたものの,院内感染を防ぐために時間的分離も行い,発熱患者に接するスタッフを分けた。同時に,スタッフが抱く心理的不安の軽減にも努めた。
地域で初期診療に当たるプライマリ・ケア医は,感染対策への備えが必ずしも十分でない診療環境の中,短期間にさまざまな対応を迫られたのではないか。その一つに,オンライン診療導入の判断もあっただろう。日本プライマリ・ケア連合学会「プライマリ・ケアにおけるオンライン診療ガイド Version 1.0」(以下,オンライン診療ガイド)の作成に関与した立場から,活用のポイントを示したい。
定期通院患者の院内感染を防止し,感冒様症状の患者の受診機会を確保する目的で,厚労省は初診からのオンライン診療を特例的に認めた。非対面の診療は感染予防に有効であり,受診をためらう患者にもメリットがある。時限措置による今回の実施は好意的にとらえている。当院も,発熱外来で診た患者のフォローについて,重症者でない限りオンライン診療で行うことにした。ただし,医師―患者関係の築けていない初診患者も含め,多くをオンライン診療に切り替えることには慎重でなければならないと考える。
かかりつけ患者の新規症状への対応について「オンライン診療ガイド」では,①かかりつけ医が患者の病歴や対応能力に信頼がおけると判断できること,②患者が医師や支援者との良好な関係に基づいて方針決定ができること,③オンライン診療による問診と視診で軽症と判断できること――の3点がそろえば,時限措置によるオンライン診療が可能であると示した。かかりつけ患者の容態が安定していても,来院できない事情がある際に補完的に利用するには有用なツールだろう。
在宅医療にオンライン診療を組み込む際はどうすればよいか。在宅患者のオンライン診療は,既に計画的に訪問診療をしている居宅の高齢患者に対し行うことが望ましい。在宅医療におけるオンライン診療には,オンライン在宅管理料という算定用件がある。在宅時医学総合管理料(在医総管)の算定患者が対象となり,当該の管理料を初めて算定した月から3か月以上経過し,直近3か月の間オンライン診察を行う医師と同じ医師が毎月訪問診療を行う場合となっている。
COVID-19対応では具体的に,在医総管を月に2回算定している患者のうち,月1回をオンライン診療に置換して対面訪問を減らす方法が考えられる。「少し調子が悪いから診てほしい」と訴えるかかりつけ患者に対し,往診の要否を判断するステップとしてオンライン診療を活用するのも一案ではないか。
オンライン診療の開始には,さまざまなシステムを選択できる。患者のアクセスに負担が小さく,なおかつ情報セキュリティの担保されたシステムを自施設の診療環境に合わせ選択したい。コロナ禍の収束後,オンライン診療に対する懸念が生じないためにも,プロフェッショナル・オートノミーによる運用が重要になるだろう。
プライマリ・ケアの現場では,状況に応じた最善のプラクティスの実施が求められる。本学会が公表している「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引きVersion 2.0」は,理想的な感染対策と現実の妥協点を例示すると共に,オンライン診療についても概説している。こちらも併せて,活用していただきたい。
おおはし・ひろき氏
2000年獨協医大卒。10年に多摩ファミリークリニックを開業。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長,同学会認定家庭医療専門医。
持続可能性を意識した診療の見直しを
北 和也氏(やわらぎクリニック院長)
COVID-19の第1波を何とかしのぎ,ホッとしている診療所の医師は多いのではないか。当院のある奈良県では,都市部ほど感染者数は増加しなかった。とはいえ,現場に少なからずインパクトを与えたのは確かで,診療の在り方を変革する必要に迫られた。
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
対談・座談会 2025.03.11
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
最新の記事
-
対談・座談会 2025.03.11
-
対談・座談会 2025.03.11
-
対談・座談会 2025.03.11
-
FAQ
医師が留学したいと思ったら最初に考えるべき3つの問い寄稿 2025.03.11
-
入院時重症患者対応メディエーターの役割
救急認定看護師が患者・家族を支援すること寄稿 2025.03.11
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。