医学界新聞

2020.06.08



Medical Library 書評・新刊案内


レジデントのための呼吸器診療最適解
ケースで読み解く考えかた・進めかた

中島 啓 著

《評者》皿谷 健(杏林大准教授・呼吸器内科学)

呼吸器実例を追体験できるクリニカルパール満載の良書

 本書は,読み進めると実際の症例の追体験が可能であり,症例に出合ったら「どう診断し,どう動くか?」という臨床の最前線に立つ医師のためのエビデンスと最適解を示してくれる。

 1章から7章まで系統立てて幅広く,かつ深くまとめてある良書である。各章のポイントやパールは痒いところにまで手が届く内容で,私が気に入った点の一部を独断と偏見を持って以下に示すが,1つでも“ビビッ”ときたら本書を手に取る価値がある。

【1章 呼吸器診療の基本】
・普段の血圧より30 mmHg低ければ低血圧,発熱の脈拍数は0.55 ℃ごとに10回/分増える。

【2章 呼吸器症候】
・喀血の起源は気管支動脈由来が多く90%を占める。
・パール:気管挿管を考慮していることが気管挿管の適応である。
・低酸素血症の定義:PaO2<60 mmHgもしくは臥位PaO2<100-0.4x年齢,立位PaCO2<100-0.3x年齢
・COPDの急性増悪で来院時の動脈血ガスから安定期PaCO2を予測する方法:安定期PaCO2=受診時PaCO2-(7.4-受診時/pH)/0.008
・咳嗽の分類,診断,治療までをcase-basedにより解説。

【3章 呼吸管理】
・人工呼吸器管理やNIPPVの適応,管理,酸素濃度とPEEP値の関係,抜管までの流れを概説。

【4章 感染症】
・SOFA,q-SOFA score,CAP,NHCAP,HAP,VAPについての概念の整理,理解が深まり,免疫不全者における感染症など種々のセッティングが想定された記載。
・パール:MAC抗体はM. abscessusM. fortuitumでも陽性になる。

【5章 閉塞性肺疾患】
・気管支喘息のステップ分類,治療方法,ステップアップとステップダウンの方法,気管支喘息発作,COPD分類,診断,治療と急性増悪への対応,ACOの大枠をとらえマネジメントできる。
・パール:COPDの発症率は20 pack-yearsの喫煙者では20%, 60 pack-yearsでは70%に及ぶ。

【6章 間質性肺疾患】
・特発性肺線維症を主体に,考え方,治療へのタイミングまでを網羅。

【7章 肺がん】
・一般的な肺がんへの対応,化学療法,放射線照射,手術の選択の他,昨今のデュルバルマブによる地固め療法まで理解できる。肺がん診療で頻用される免疫染色の表,TMN分類も載っていてうれしい。

 ざっと述べたが,本書の真髄は,著者のコラムにあるように,「教えることは学ぶこと」という医学教育にかける想いが症例を介したコメントの随所に出ている点だと考える。研修医から指導医まで,ぜひ手に取って読んでいただきたい一冊である。

B5・頁392 定価:本体5,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03668-9


緩和ケアレジデントの鉄則

西 智弘,松本 禎久,森 雅紀,山口 崇,柏木 秀行 編

《評者》木澤 義之(神戸大病院特命教授・緩和支持治療科)

「臨床ではこう考えている」という知恵が詰まった実践書

 本書は緩和ケアの専門家の中でも,アクティビティが高い緩和ケア病棟,緩和ケアチームに勤務していて,現場で主戦力として働いている医師が「臨床ではこう考えている」という知恵を上手に集めた良書です。言うまでもなく,緩和ケアの基本としている軸は丁寧な病歴聴取と身体診察,そして内科的な診断学であり,その重要性が強調されていることには強く共感します。また,それだけにとどまらず,精神症状とコミュニケーション,私たちの専門性とも言える終末期における対応についても,そのTipsにとどまらず,最新の知見に基づいてどのように考え,患者さんにアプローチしたらよいかが,長くもなく短くもない適切な量で書かれています。

 編集者や執筆者を見てみると,「ああ~いいメンバーを集めて書いたな~」「ちょっと悔しいくらいだな~」と感じました。臨床がちゃんとデキる人を集めて書いたんだな,と思います。担当者が得意な分野を上手に振り分けて書かれていて,その内容にも人柄がよく表れています。臨床にすぐ役立って,患者さんやご家族のQOLや満足に直結するものとなっていると思います。

 この頃,立場上というか,年回り的なものなのかと思いますが,「緩和ケアを学ぶためにはどうしたらよいか」とよく質問されるのですが,その度に大学2年生の時に日野原重明先生から車の中で授けられた一言を紹介しています〔あるセミナーのために新神戸駅から1時間程度の道のりを車で送迎させていただきました。私は当時喫煙者で,相当タバコ臭かったんだと思います。日野原先生から厳しく禁煙指導を受けたことを思い出します,余談です(笑)〕。

 「木澤くん,まずは多くの医師の診療を見てみるといいですよ。そして,この先生のようになりたい,と思った医師がいたら,その先生にどうしたら先生のようになれますか? と真摯に尋ねてみなさい」

 まさにこの本は,そのような優れた指導者の一言一言を集めたものではないか,と思います。

 おそらく本書は,緩和ケアに興味があって,少し深く学んでみたいと思った人たちにピッタリだと思います。医師はもちろん,認定・専門看護師の皆さんの学習の助けにもなるのではないでしょうか。恵まれた研修環境にある人には,OJTの補助教材として,そしてあまり恵まれない研修環境にある方や,場合によってはいきなり1人医長になってしまった方には,指導医の代わりになるかもしれません。ぜひ手に取って,日常臨床の一助にしていただきたいと思います!

B5・頁250 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04128-7


スパルタ病理塾
あなたの臨床を変える!病理標本の読み方

小島 伊織

《評者》中山 祐次郎(総合南東北病院外科)

写真と絵でいっぱいの,病理のことを知る「読み物」

 この『スパルタ病理塾』は,新進気鋭の若手病理医による病理診断の入門書である。なるほど著者は研修医を終えた後も病理医をやりながら月2回の内科救急当番を続けていただけあり,病理医以外の臨床医が「何に悩んでいるのか」「何を知りたいのか」を存分に熟知している。そのコンセプトは本書にも随所に生かされている。本書は病理学の体系的な教科書ではなく,「読み物」として読者が読みやすい流れを意識してまとめてあり,病理への苦手意識がある医師・医学生にはとてもよいだろう。写真が多いのもありがたい。卒後14年目の消化器外科医である私も,歯ごたえを感じつつ面白く読めた。

 まず第1章では「病理所見で何を認識し,どう診断に至るのか」という,病理医の思考の道筋を丁寧になぞってくれている。私が膝をたたいたのは,臨床医の診断の進め方と病理診断の進め方を,フローチャートにして対比させている図であった。無学な外科医である私のイメージでは,「病理医はプレパラート数枚からバシッと病気を診断する魔法使いのような存在」であったが,その図によれば患者背景,病歴,身体所見,画像検査所見などと共に組織を観察し,必要に応じて特殊染色を追加し診断を絞っていくという。これには衝撃を受けた。研修医の頃習った「tissue is issue」というpearlを金科玉条とし,思い返せばただtissue(生検組織)を提出するだけで後は自動的にチーンと診断が出てくる,そんなふうに考えていた自らを恥じた。

 第2章では弱拡大での観察がいかに大切かを,美しい病理写真とカラフルなシェーマでかみくだいて教えてくれる。それ以降の章では,緩やかに各論が示されていく。特に臨床医の最も関心事であるだろう「腫瘍」と「感染症」については,まるで一緒に顕微鏡をのぞいて著者がレクチャーしてくれるような読み心地である。続いて,なんとなくわかった気がしていたPAS・Azan・EVG染色などの特殊染色や免疫染色についても,「そうだったのか!」の連続であった。さらには最終章で病理所見のプレゼンテーションのやり方をひもといており,これでカンファレンスの病理医の発表の意図がわかってきた。最後につけられた付録もぜいたくで,「検体はどのように提出したらよいか」「病理診断の依頼には何を書いたらよいか」など,臨床医が日々疑問に思うことに明快に答えてくれている。

 本書は『スパルタ病理塾』という書名ではあるが,著者の読者へのまなざしは春の日だまりのようにあたたかい。若手医師教育を続けてきた著者の高い教育的技量に裏打ちされた熱意が,紙面に横溢しているようだ。「はじめに」に書かれた著者の言葉「病理と臨床の間に壁はない」は,本書を読み終えた今となっては強く同意できるものである。この本を読めば,病理医―臨床医間のコミュニケーションエラーも減りそうだ。来週あたり,病理室に行ってみよう。

A5・頁206 定価:本体3,600円+税 医学書院刊
ISBN978-4-260-04130-0


Dr.セザキング直伝!
最強の医学英語学習メソッド[Web動画付]

瀬嵜 智之 著

《評者》山本 健人(京大大学院・消化管外科学)

予想の斜め上を行く新スタイルの医学英語学習本

 『Dr.セザキング直伝! 最強の医学英語学習メソッド[Web動画付]』は,USMLEコンサルタントである「セザキング」こと瀬嵜智之医師が書き下ろした医学英語学習の教科書である。瀬嵜氏は学生時代にUSMLEのSTEP 1に最高スコアで合格し,その後も最難関とされるSTEP 2 CSを含め全STEPに一発合格。現在はUSMLEに特化したオンラインサロンを主宰し,指導した人数は1000人を超える。

 さて,ここまで読んだ方は,まさに才能あふれる超人的な男の遍歴を聞いた気になるかもしれない。だが実は「そうではない」ところが本書の最大の特徴であり,傑出した点である。まず,瀬嵜氏が「トラウマレベル」と語るほど英語が苦手だった過去を披露するところから本書は始まる。むろん,優秀な人物はすべからく謙遜が得意だ。ところが,彼の語る英語遍歴は確かに,想像以上である。高校3年生時の英語の偏差値は30台,現役時代のセンター英語は58%と6割を下回っており,二次試験にわざわざ英語の“ない”医学部を選んだ,という有様なのである。

 つまり本書に貫かれているのは,「英語を得意としない人が,米国で日常臨床を行えるレベルの英語力に到達するまでに一体どのような策を講じるべきか」を徹底的に追求する姿勢である。

 優秀な業績を持つ人に高みに至るまでのコツを問うても,凡人には容易に真似できない回答が返ってきて思わず頭を抱える,というのはよくあることだ。しかし瀬嵜氏はむしろ「凡人がどのような努力をすべきか」というノウハウを極めて具体的に語るのである。

 また,こうした観点から英語学習指南のアプローチも新しく,上記の英語遍歴に引き続き「日本語学習の重要性」が語られるのもユニークである。私も過去に6年間,塾講師として大学受験生に英語を教えた経験があるが,瀬嵜氏と同様に「日本語ができない人は英語もできない」という感覚を持っている。だが彼はこのことを非常にユニークな手法で解説しており,これには誰もが度肝を抜かれるであろうと思う。ネタバレになるのであえてここでは書かないが,ぜひ本書を手に取り,内容を確認していただきたい。むろん,この軽妙な語り口が説得力を持って読者の心をつかむのは,他でもない瀬嵜氏の「日本語力」の高さ故である。

 また,当然ながら本書はUSMLE受験を想定した英語学習のための教科書と銘打っている以上,具体的な学習ノウハウに全体の約半分を費やしている。TOEFLの受験テクニックから,USMELのSTEPごとの具体的な対策まで,非常に明快に,かつ具体的に解説される。

 だがここでも「英語が得意でない人が難関を前に“どう立ち回るか”」というコンセプトが貫かれている点は秀抜だ。

 私が瀬嵜氏に初めて会った時,彼が話したことが印象に残っている。「僕は本を出版することを目標に掲げ,その目標に向けて学生時代から手を打ってきました。だから計画通りです」。本書は,目標に向けて綿密な計画を立て,一つひとつ歩みを進めてきた彼のノウハウを余すことなく知ることができる,貴重な一冊なのである。

A5・頁264 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04174-4


《ジェネラリストBOOKS》
薬の上手な出し方&やめ方

矢吹 拓 編

《評者》宮田 靖志(愛知医大特任教授・地域総合診療医学/医学教育センター副センター長)

患者中心の処方思考プロセスが披露された逸品

 本書は臨床の最前線で実際にポリファーマシー対策に取り組む医師たちによって,医師の総合的臨床能力を可視化した秀逸な書籍である。ポリファーマシー対策は近年特に注目を集める重要なテーマであり,これまでさまざまな書籍が出版されているが,その多くは医学的エビデンスに基づいた薬剤の効果や相互作用だけを中心に解説されている。しかしながら,臨床の最前線で患者とともにポリファーマシーの課題に取り組む医療専門職は,医学的エビデンスだけでは課題が解決されないことを身に染みて知っている。長年服用してきたベンゾジアゼピン系薬剤を一方的に中止され,医療機関をさまよう患者。初診時にどのような評価がされて処方されたのかが不明な薬剤を長期にわたって服用し続けている患者。複数の医療機関から何剤もの薬剤を処方されるも自分で服用を調節する患者。臨床の最前線では,薬剤の医学的エビデンスとは全くかけ離れた課題に満ち溢れている。

 本書はこのような実際の臨床場面で遭遇するさまざまな課題を取り上げ,課題解決に取り組む医師・薬剤師の思考プロセスをカンファレンスでのディスカッション形式で可視化してくれている。カンファレンスでは豊富な医学的エビデンスはもちろんのこと,行動経済学的視点,心理学的視点からの考察が織り交ぜられており,著者らの知識の豊かさに感心せざるを得ない。「かぜ処方に正解はあるか!?」「病気さえ治せば,それでいいのか!?」「“2人主治医”の処方整理は!?」「薬は死ぬまで飲み続けるのか!?」などなど。どのカンファレンスも,真に患者中心の医療を考える臨床医なら思い悩むテーマばかりである。「医療者も患者も納得して『上手な処方だな』と思えるようにかかわるプロセス」が重要ではないか。「薬の処方を通して見えてくる一つひとつのかかわりを大事にしながら,迷いながら,話し合いながら進んで」いく。これらの言葉に,著者らの強い思いが込められている。本書を手に取り,著者らの処方思考プロセスに触れることで,ポリファーマシー対策のみならず,患者中心の医療はどうあるべきかを深く考えさせられるに違いない。

A5・頁322 定価:本体4,000円+税 医学書院刊
ISBN978-4-260-03959-8

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