医学界新聞

患者や医療者のFAQに,その領域のエキスパートが答えます

寄稿 吉野 広美

2020.05.25



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
小児看護における緊急事態を見抜く視点

【今回の回答者】吉野 広美(東京都立小児総合医療センター 総合診療外来ER病棟)


 「看護実習の時,バイタルサイン(以下,VS)測定で泣かれてしまい大変だった」「自覚症状を言えない子どもの観察やアセスメントが難しかった」との経験から,子どもは好きだけれども小児看護は苦手……,という声を耳にすることがあります。

 子どもは「成長発達している」点が大人と大きく異なる点です。この点を踏まえ,今回ご紹介する考え方や接し方のコツを知ることで,小児看護の苦手意識は少なくなると思います。本稿が,緊急事態を見抜く視点を養う一助になれば幸いです。


■FAQ1

 子どもが泣いてしまいVSがうまく測れません。どうしたらよいですか?

 小児は,生理学的・解剖学的に機能が未熟です。また,予備力がなく,言語・認知能力は発達途中のため意思疎通が図りにくいです。さらに,問題(緊急度や重症度)のとらえにくさも課題に挙げられます。そのため,異常を早期に発見し迅速な対応をするには,VSの変化を注意深く観察することが肝要です。

 とは言え,泣いて嫌がる小児の安静時のVSを得るのは至難の業です。こんな時には,①子どもとの距離(物理的・心理的な距離)を見極めること,②プレパレーション(子どもの心理的準備を整える)とディストラクション(処置中に行う遊び)を用いることが重要なポイントです。

 物怖じせず医療者に近寄ったり,病院という環境に慣れていたりする子どもは,機嫌が悪くない限りVS測定に協力的です。しかし,そうしたケースはまれで,多くの子どもにとって病院は非日常の場です。聴診器や血圧計など初めて見る医療器具や,痛みを伴う処置をされるのではないかとの不安や恐怖を抱えています。そのため看護師には,その不安や恐怖に寄り添い,子どもが安心してVS測定に臨めるような心理的準備を整えるかかわりが求められています。

 例えば,持ち物や洋服から推察した子どもの好きなキャラクターの話をしながら距離を縮めつつ,聴診器や血圧計などを触らせ,子どもの年齢に合わせた言葉でVS測定の説明と許可を得ます(プレパレーション)。この時,医療器具をおもちゃに例えると子どもは理解しやすくなります。また,子どもが集中できる時間は短いため,測定中はおもちゃやDVD,声掛けなどで気を紛らわせ,測定が終了するまで飽きさせないようにすることが大切です(ディストラクション)。測定終了後は,検査の協力への感謝をたくさん伝えましょう。

Answer…VS測定時は,まずは子どもとの距離を縮め,遊びの中で医療器具に慣れてもらい,VS測定の許可を得ます。実施中は子どもの集中が途切れないよう気を紛らわせ,終了したら感謝の言葉を忘れずに伝えましょう。

■FAQ2

 救急外来を受診した子どもの母親が「何回も吐いているので早く診てください」と申し出てきました。先に診察へ回したほうがよいでしょうか。

 救急外来を訪れる小児の約8割は軽症と言われています。ただし,少数ですが緊急処置を要する病態の小児患者が混在しているのもまた事実です。そのため,主訴や保護者の言動に引っ張られることなく病態を系統的かつ客観的に評価し,治療の優先度と加療場所を決めていくトリアージを導入する施設が近年増加しています。

 今回は,下記の症例を用いて,実際にどのように判断していくのかを3つのポイントに沿って簡単に説明します。

症例 1歳7か月のA君は,3日前から嘔吐が出現。昨夜から経口摂取困難・排尿もないため受診となった。待合室では,看護師の顔を見て大声で啼泣するが流涙なく口唇乾燥あり。呼吸努力や異常呼吸音はないが呼吸は速い。口唇チアノーゼなし。四肢末梢冷感あり,皮膚に網状チアノーゼあり。

◆「ぱっと見て」外見・呼吸・循環が良いのか悪いのか,危急的状...

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