医学界新聞

2020.05.18



Medical Library 書評・新刊案内


6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド
臨床推論から症例報告の書き方まで

木村 大輔 編集

《評者》高橋 哲也(順天堂大教授・理学療法学)

実習の形態が変わる今タイムリーな良書

 理学療法士作業療法士養成施設指定規則が約20年ぶりに改正され,2020年4月の入学生から適用されるようになりました。特に実習に係る単位が理学療法では18単位から20単位へと増えたことが大きな特徴です。これまで理学療法士養成課程での臨床実習では,実習生にとって過剰な負荷となる課題が課されるなど,教育学を正式に学んだことのない指導者による理不尽な指導がたびたび問題となっていました。そのため,今回の指定規則改正は臨床実習の在り方に関する改正といっても過言ではありません。

 理学療法士養成課程の臨床実習は,見学実習,評価実習,総合臨床実習で構成されており,このうち評価実習と総合臨床実習については「診療参加型臨床実習が望ましい」と明記されましたが,「診療参加型実習で一人前の理学療法士になれるのか」との不安の声は根強いものがあります。これまでの方法は,「患者担当型実習」であり,じっくりと一人の患者と向き合う時間がありました。

 そんな中,『6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド』が川崎医療福祉大の木村大輔氏を編著者として刊行されました。臨床実習の形態が変わる今だからこそタイムリーな刊行で,読み進めるうちに,著者らの学生教育への熱い思いと指定規則改定後の臨床実習の在り方への提言に共感することができました。

 ベテラン理学療法士が抱く症例レポートや症例報告を課さない「診療参加型実習」への不安は,頭を抱えながらでも自ら症例報告を書いて身につく「理学療法の流れを理解する力」,「情報を整理する力」,「他人に説明する力」が「診療参加型実習」では身につき難いということに根幹があります。本書で著者らが示す三角ロジックは学生のつまずきや問題点を的確に把握するツールであり,6ステップは,ベテラン理学療法士が繰り返し経験することで身につける「パターン学習」の範を示しています。私も新人理学療法士のころ,何例も何例も脳血管障害を担当しました。まぶたを閉じれば,今でも評価パターンが浮かんできます。理学療法士の中にはパターンにはめることを嫌う人もいますが,まずは「習うより慣れろ」です。この6ステップを踏み,繰り返し患者さんへの理学療法を経験することで,臨床実習の形態変化などの不安はすぐ払拭(ふっしょく)できると思います。

 テンポのいい対話形式の挿入や,「ヒント」欄や「サプリ」欄がその都度,理解を補い,著者らから教育的指導を受けているような錯覚にも陥ります。気づけば,本書は学生向けでありながら,臨床実習指導者用の指南書であることがわかります。

 「診療参加型実習」は,一見楽なように思いますが,明確な山頂を示し,確かな登り方を教える方法ですので,場合によっては「患者担当型実習」より臨床実習指導者にとって難しいかもしれません。その難しさを知っている著者らならではの工夫がちりばめられた本書は,学生向けの本というよりも,これからの時代に求められている臨床実習指導者向けの本,加えて「診療参加型実習」を経て理学療法士となった新人を指導する新人教育担当者の本ともいえるでしょう。患者経験の少ない学生(「患者担当型実習」を経験してこなかった新人)が最も苦手とするロジカルシンキングを導く良書として,全ての施設にお薦めします。

B5・頁272 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04134-8


新・栄養塾

大村 健二,濵田 康弘 編

《評者》佐々木 雅也(滋賀医大教授・基礎看護学/滋賀医大病院栄養治療部長)

動的な栄養学の世界を第一線の臨床医が解説

 もう10年以上前の話である。日本臨床栄養代謝学会(旧:日本静脈経腸栄養学会)のNST専門療法士にかかわる委員会に初めて参加した際に,外科系の先生方の熱心な議論に圧倒された記憶がある。その議論の中心におられた先生方のお一人が,大村健二先生であった。小生は,内科系の医師が少ないとのことで委員に加えていただいたのだが,先輩の外科の先生方の前で,なかなか声があげられなかったのを覚えている。中でも大村先生は,専門とされる消化器外科学はもちろんのこと,生化学の知識が豊富であることに驚かされた。臨床医としての多忙な日々の合間を縫って,生化学の教科書を精読されているように感じられた。

 その後,その委員会の委員長を小生が引き継ぐことになった。その際,新しく委員に加わっていただいたのが濵田康弘先生であった。私と同じ内科系であったが専門領域が異なり,濵田先生は腎臓病学を専門とされておられた。濵田先生も生化学や生理学の知識が豊富であり,また当時から仕事の正確さが際立っておられた印象がある。

 大村先生と濵田先生は,いずれも私が尊敬する医師である。そして,そのお二人が執筆されたのが本書『新・栄養塾』である。

 栄養学という学問は,ダイナミックで動的な学問である。そしてその基礎になるのは,生化学であるのは言うまでもない。したがって,栄養アセスメントにおいても,血液学的な数値を単純に評価するだけでは意味がない。そこには,動的な栄養代謝病態が考慮されなければならない。また,栄養代謝には複数の臓器が巧妙に関連し,一つの生命体を成立させている。さらに近年では腸内細菌叢も,新たな臓器としての意義が論じられている。栄養学は,実に奥深い学問である。

 本書は,「I.栄養管理に必要な基礎知識」,「II.臨床栄養 実践編」,「III.臨床栄養 病態編」「IV.栄養管理のスキルアップ」の4章から成る。特に,基礎知識としての解剖・生化学・生理学の解説が充実している。しかも,単なる栄養学の成書に留まらず,まさに動的な観点から栄養代謝を解説されているのが特徴である。また実践編は,実際に臨床の第一線で活躍されている医師ならではの目線で解説されている。補講として,「トランス脂肪酸」など4項目が取り上げられ,いま知っておきたい項目が追加解説されている。

 このように,本書はひとりで読んでいても,教科書を読んでいる時のような飽きがこないし,むしろ楽しい気持ちになる良書である。

B5・頁288 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04135-5


プロメテウス解剖学アトラス
胸部/腹部・骨盤部 第3版

坂井 建雄,大谷 修 監訳

《評者》樋田 一徳(川崎医大主任教授・解剖学/金沢大客員教授・眼科学/阪大特任教授(客員教授)・超高圧電子顕微鏡センター)

美しいこと,真実の表現

 今世紀に入って間もなく,ドイツで美しい解剖学書が世に現れた。

 “PROMETEUS LernAtlas der Anatomie”。それから3年,早くも邦訳が出版される。書店に足繁く通う学生から早速,“ギリシャ時代から解剖学があったのですか?”と,驚きと共に問われたのを覚えている。“解剖学は医学の基本,医学の祖はヒポクラテス”と教えられている。新刊書に目ざとい若者をひきつけたのも宜なるかな,書名のインパクトは大きかったのだろう。本書命名の意図と意気込みを感じる。全3巻の大著は原著・邦訳ともに各巻それぞれ版を重ね,ここに原著第4版第2巻 ――Innere Organe――の邦訳,『プロメテウス解剖学アトラス 胸部/腹部・骨盤部 第3版』が出版された。

 大判であるが,厚みとのバランスは携行しやすく,このサイズと重さが実習台の傍らで安定性を与えて読みやすいことは,実習経験者の誰もが認めよう。本を開くと,しっかりとした紙質に印刷された図と説明文が適度にレイアウトされ,学識の体系化に美しさも感じる。最近では立体的情報に時間を加えた動画が臨床で主流になっているが,書物である限り平面であることはやむを得ない。加えて本書の扱う胸部・腹部・骨盤部は人体の容積の多くを占め,図も説明文も表現が難しい。しかし本書は,CT・MRI・PET・超音波などの画像診断に相当する単なる断面図のみならず,その断面から深く描画上で解剖し,立体感を美しく表現している。それにより,実質臓器や管腔臓器の内と外,臓器を覆う胸膜や腹膜,それらによって形成された胸腔・腹腔・骨盤腔や臓器の相互位置関係など,学生が特に理解に時間を掛ける部位,臨床現場や国家試験・共用試験で問われる重要な部位を丁寧に見事に図説している。医学生の意見を取り入れ執筆された原書の背景もここに現れている。

 本書は,日本解剖学会で教育と研究に長く指導的立場にあり高名な解剖学者,坂井建雄特任教授と大谷修名誉教授の監訳により,10名の現役解剖学者が翻訳を担っている。したがって邦訳の正確さはもちろん,わかりやすく美しい日本語表現で統一されていることも,原著者の意をくんだ訳者らの学生への愛情を感じ,人体解剖への読者の理解をさらに深めている。

 改元2年目の今年,新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっている。病態把握には画像所見が不可欠で,無症状でも胸部CTは異常所見を認めることがあり,8割に両側陰影,半数以上は肺野末梢まで分布するという。本書のp.138(胸部断面図),p.162(CT画像),pp.154-5(組織構造),pp.158-9(力学機能)を併せて読めば,急速に肺野末梢まで侵襲する臨床病理像の医学的意味を深く理解でき,患者さんを救う確かな基盤となろう。

 美は真実を物語る。“真実の表現”は“美しいこと”に尽きることを本書によってあらためて実感した。プロメテウスはわれわれに知恵を授け,人体構造と生命の深い理解を求めている。基礎が臨床に直結する医学のあるべき姿を示された原著者と監訳者・訳者各位に,心から敬意と感謝を表したい。

A4変型・頁498 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03927-7


《ジェネラリストBOOKS》
薬の上手な出し方&やめ方

矢吹 拓 編

《評者》秋下 雅弘(東大大学院教授・老年病学)

処方薬の断捨離に活用したい1冊

 超高齢社会を迎えて患者の多くが75歳以上になる中,生活習慣病や老年症候群などで多病の高齢者は多剤服用となることが多く,薬物有害事象や服薬管理上の問題を生じやすい。国の統計では75歳以上の約4割が5種類以上,約4分の1が7種類以上の内服薬を1つの薬局から調剤されている現状がある。

 そこで重要なキーワードが「ポリファーマシー」である。ポリファーマシーは,単に薬剤数が多いこと(多剤服用)ではなく,薬剤が多いことに関連して薬物有害事象のリスク増加,服薬過誤,服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態,つまり「多剤服用+(潜在的な)害」を指す。したがって,ポリファーマシーの是正では,一律の薬剤削減をめざすのではなく,処方適正化という観点から,患者の生活機能や生活環境などを考慮に入れて包括的に処方を見直し,多職種で対策を講じることが求められる。

 本書は,おそらく全国で初めて「ポリファーマシー外来」を掲げて,医師・薬剤師協働による処方適正化に長年取り組んできた編者が,処方適正化の実践を平易に解説した書籍である。個人差の大きい高齢者において,処方に絶対的な正解は存在しない。試行錯誤しながら最適の処方を探し続ける作業が求められるが,それには論理的思考と多様な意見の擦り合わせが大切である。そこでとても参考になるのが,本書のカンファレンスである。いずれもポリファーマシー対策の手だれである計7名の出席者による11症例のカンファレンスは臨場感にあふれ,処方内容をブラッシュアップしていく思考プロセスがよくわかる。もう1つ役に立つのが,各領域の専門医による薬の始め時・やめ時である。領域によっては始め時が省かれているのもまた面白い。専門医だからこそわかるやめ時であるが,その筋のガイドラインにはまず書かれていない。そして当然最初に目を通しておくべき「処方上手の10カ条」と患者とのコミュニケーションには,編者らが本書に込めたエッセンスを味わうことができる。

 かかりつけ医およびかかりつけ機能を担う薬剤師の方には,実践書としてぜひ本書を読んでいただきたい。また,全体的に実にわかりやすく書かれているので,看護師をはじめとして医療介護にかかわる多職種にも十分に理解できる内容であろう。とにかく処方はこのままで本当にいいのだろうかと日頃から疑問をお持ちの方,一歩進んで,処方薬の断捨離をどう進めたらいいのだろうとお考えの方には,ぜひともお薦めの1冊である。

A5・頁322 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03959-8

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