医学界新聞

寄稿 小嶋 リベカ

2020.04.27



【寄稿】

子育て世代のがん患者とその子どもへの支援

小嶋 リベカ(国立がん研究センター中央病院緩和医療科/ホスピタルプレイスタッフ)


 子育て世代のがん患者は治療と並行しながら親としての役割も担うため,さまざまな不安や葛藤を抱くことが多い。当院が発表した研究1)によれば,本邦における未成年の子どもを育てるがん患者の全国推定値は年間5万6143人(平均年齢:男性46.6歳,女性43.7歳),その子どもは8万7017人(平均年齢:11.2歳)とされ,多くが小学生以下である。

患者(親)とその子どもへの支援の必要性

 当院では,初回入院患者のうち未成年の子どもがいるがん患者は,およそ4人に1人であり,ホスピタルプレイスタッフである私のもとには「子どもに病気をどう伝えたらよいのか」「子どもがどんなことに不安を覚えるのか」など,子育て世代の患者からの相談がしばしば寄せられる。これらの悩みは,入院や治療の副作用に伴う身体機能の低下によって,これまで親として子どもに当たり前に行っていたことができなくなる喪失感に起因することが多く,「子どもに申し訳ない」「余計な心配を掛けたくない」との思いを親(患者)が抱きやすい。そうした思いを背景に,子どもに病名を伝えるかどうかを躊躇することがある。とりわけ小学校低学年以下の子どもには病名を知らせていないことが多い(図12)

図1 病名を伝えられていない/伝えられている子どもの年齢区分別割合(n=237)(文献2より)

 一方,子どもの側においては,突然の親の不在や日常生活の変化,違和感のある会話が積み重なることによって,これまで当たり前にあった安心の喪失を感じやすくなる。これらの状況が病気の親との関係性に変化を及ぼし,子どもが心理的苦痛を抱えるケースもある。

 こうしたケースに対して医療者には,①患者(親)に向けた子どもとの接し方に関する情報提供,②子どもへの声かけが求められている。以下では,それぞれのポイントを紹介したい。

患者(親)への情報提供

 子育て世代のがん患者から受ける質問として,「子どもにどのタイミングで何を伝えたらいいか」「何歳から病気を理解できるか」「脱毛の理由をどう説明するか」などが挙げられる。これらの質問に対する唯一無二の回答はないが,医療者として参考となる情報を提供しつつ,治療中の「親子のかかわりあいを支援する」ことを目標に見守ることが大切である。もし,子どもの目の前で起きている親の病状(現実)について,親から十分な情報を与えられていない場合,病気の原因は自分ではないか,親がすぐに死ぬのではないか,などの認識(理解)を子どもが抱いてしまう場合がある。このように親の病状と子どもの理解との間にズレが生じてしまうと,親子間で互いに病気の話をすることが困難になり得る。子どもが少しずつ現実を理解し,親とのかかわりを深められるようにするために,医療者は次の4つのポイントを親に伝えておくとよい。

 第一に「質問に答える」こと。親が全てを一方的に伝えるのではなく,子どもの質問に応じながら語るとよい。第二に,「理解度に合わせて伝える」こと。「かぜとは違う病気で,悪いところをなくすために病院にお泊りするの」といった,子どもになじみのある言葉を使うとよい。具体例は,NPO法人Hope Treeのサイト(https://hope-tree.jp/)が参考になる。第三に,親子双方の「タイミングを選んで伝える」こと。例えば,患者(親)に何らかの変化(見た目,通院の頻度,生活習慣など)がある,あるいは子どもの誕生日や試験がある時などを考慮して伝えるとよい。最後のポイントは,伝えた後も「いつもどおり,子どもの生活リズムを維持する」ことである。子どもは,日常生活を主体的に送ることによって,家族の一大事の中であっても心身のバランスを保ちやすくなるのである。頭文字4つをとった「しりたい」で覚えやすい(図2)。

図2 親が子どもに病気のことを伝える際のポイント(しりたい)

 これら4つのポイントに加え,何よりも大切なのは,子どもが親から愛情を注がれていると認識できることである。医療者から患者(親)に情報提供する際はぜひ,そのことも言い添えることを奨励したい。

 あるケースを紹介する。5歳の娘から「病気は治る?」と質問されたがん患者(母親)がいた。母親は子どもに対して「心配してくれてありがとう。大好きなAちゃんともっと遊びたいから,治したいと思ってる。病気をやっつける注射をお医者さんに打ってもらってくるね。帰ってきたら,保育園で楽しかったことをママに教えてね」と語った。すると子どもは「私もママ大好き,お守り作る!」と笑顔で応じていた。

 子どもの思いや日常を尊重しつつ,理解度に合わせた治療の説明をしている表現から,子どもへ注がれる親の愛情も感じられる会話である。親子のかかわりが促進されるような支援を重ねていきたい。

子どもへの声かけ

 子どもは,親が入院している病院を訪れる時,親のそばにいたいという思いをもちつつも,「病院」という不慣れな空間に戸惑い,心地悪そうな様子を見せることがある。こうした子どもの不安を軽減するためには,医療者が「子どもをケアの輪に加える」ことを目標に接することが大切である。子どもが過剰に緊張せず親との時間を過ごすために,医療者から子どもに対して,ゲストを迎えるように「よく来たね」と声かけをすることは,支援のスタートとなる。子どもはwelcomeされ,周囲からその場の在り方を尊重されることで,親や医療者の存在を感じつつ,遊びやゲームなどをしながら自分の空間を構築し,さらに自分もケアの輪の一員であると感じられるようになる。子どもに出会った医療者の対応としては,図3で示すような5つのポイント(頭文字で「あいうえお」)を参考にしていただきたい。

図3 医療者が子どもに声かけする際のポイント(あいうえお)

 子育て世代のがん患者とその子どもが抱く揺らぎは計り知れない。がん患者や面会に訪れる子どもが過剰な不安を抱えないために,医療者が連携しながら情報提供や声かけを行うことが大切である。そうした支援は,がんによってひととき揺らいだ家族が新たなバランスを保つためへの一助となり得ると考える。

参考文献・URL
1)Cancer Epidemiol.2015[PMID:26651443]
2)科研費研究助成事業 研究成果報告書.子どもをもつがん患者への支援モデルの開発.2019.


こじま・りべか氏
英ローハンプトン大大学院プレイセラピーコース修了。British Association of Play Therapists認定プレイセラピスト,公認心理師,臨床心理士。2013年よりホスピタルプレイスタッフとして現職を務める。

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