医学界新聞

寄稿 関根 道和

2020.04.06



【寄稿】

富山県認知症高齢者実態調査から考える健康長寿へのアプローチ

関根 道和(富山大学地域連携推進機構地域医療保健支援部門長)


 富山県認知症高齢者実態調査は,富山県が実施する,65歳以上高齢者の無作為抽出による実態調査である。1980年代当時,富山県の高齢化は「全国より10年早い」といわれ,すでに認知症高齢者の増加が保健医療,家族,地域に影響を及ぼす社会問題となっていた。そこで,在宅・入院・入所を含めた富山県の高齢者の生活実態と認知症有病率の把握を目的として,1985年に開始された。筆者は,富山大学の地域連携事業の一環として同調査に協力している。現在までの結果の概要を紹介したい。

実態調査から見えてきた富山県の将来像

 実態調査は現在までに計5回(1985年,1990年,1996年,2001年,2014年)実施されている1)。2014年調査における総対象者は1537人(抽出率0.5%),分析対象者は1303人(同意率84.8%)であった。調査は2段階に分けて行われる。第1次調査では改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)によって認知機能を評価し,第2次調査では第1次調査で認知症が疑われた高齢者を対象に訪問調査を行い,精神科医が認知症の有無を判定した。

 これまでに行われた調査結果の推移を分析すると,認知症有病率は1985年調査では4.7%であったが,2014年調査では15.7%と約3倍に増加した1)。また,年齢調整有病率も同期間に4.9%から9.6%と,約2倍に増加したことから,有病率の増加は人口の高齢化という理由だけでは説明できない。欧米諸国における認知症の発生率は増加していないとの報告もあることから2),有病期間の延伸が主な理由と考えられる。

 少子超高齢社会が進み高齢者を支える人口が減少している日本の将来において保健医療体制のあるべき姿や規模を考える上では,認知症高齢者の将来推計有病率や有病者数を把握することは有用である。そこで筆者らは,1985年調査から2014年調査までの年齢階級別の有病率を用いて,年齢階級別の将来推計有病率を算出した。また,年齢階級別の将来推計有病率と富山県の将来推計人口から富山県全体の将来推計有病率と有病者数を算出した。その結果,2025年には有病率20.1%,2035年には有病率27.4%に増加することが導かれた(図11)。将来予測に基づく地域の保健医療体制の構築が急務である。

図1 富山県の認知症有病者数と有病率予測(文献1より)

認知症疑いの約7割に認知症での受診歴なし

 早期発見・早期対応の潜在的な有効性を評価するために,HDS-R得点と認知症受診歴の有無との関係を評価した1)。すると,認知症が疑われるHDS-R 20点以下の71.8%に認知症での受診歴がなかった。この結果は,地域には未診断・未治療の認知症高齢者が多数存在することを意味しており,早期発見・早期対応のためのさらなる施策の必要性が示唆される。

 また,早期発見・早期対応における家族の役割を明らかにするため,対象者本人の「物忘れ」の認識および同居家族による対象者の「物忘れ」の認識の組み合わせと,HDS-R得点との関係を評価した3)。その結果,本人も家族も認識がない場合は27.0点,本人の認識はあるが家族の認識はない場合は24.9点,本人も家族も認識がある場合は15.5点,本人の認識はないが家族の認識がある場合は13.0点であった()。横断調査であるが,本人の物忘れの認識は家族より早く,家族が本人の物忘れを認識する頃には認知機能が低下している可能性を示唆した。地域の高齢者やその家族への認知症啓発活動などにより,家族にその認識がなくても,本人が物忘れを認識した段階で早期に対応ができるような意識付けが重要と考えられる。

 本人と家族の「物忘れ」の認識の組み合わせとHDS-R得点(文献3より)

幼少期から高齢期までの一生涯を通じた認知症予防

 実態調査の結果から認知症のリスク要因を評価したところ,社会経済的要因として10年以上の教育歴......

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