医学界新聞


問題解決能力の向上と医療職との連携強化をめざして

対談・座談会 末吉 総一郎,小迫 正実,森岡 将大

2020.04.06



【座談会】

これからの病院事務職の話をしよう
問題解決能力の向上と医療職との連携強化をめざして

森岡 将大氏(聖路加国際病院 医事課入院係)=司会
末吉 総一郎氏(聖隷福祉事業団 法人本部総合企画室)
小迫 正実氏(亀田総合病院 経営企画部)


 病院内にはさまざまな職種が勤務している。多職種によるチーム医療が重要性を増すなか,医療専門職のほかにも忘れてはならないのが病院事務職の存在だ。事務職はヒト・モノ・カネといった経営資源を司る事務部門(医事課や総務課,人事課など)で働くほか,近年では経営企画室や情報管理室といった経営直轄の管理部門で活躍する事例も目立つようになってきた。本座談会では,今後ますます活躍が期待される事務職の役割拡大に向けて,問題解決能力向上と医療職との連携強化の方策を議論した。


森岡 病院経営にはさまざまな課題があり,課題解決に向けて事務職が果たすべき役割も大きくなっています。本座談会では特に若手~中堅層に焦点を当てて,私たち事務職がどのように問題解決能力を高めていくかを議論したいと思います。

若手の当事者意識を育み,成果を可視化する

末吉 問題解決能力を高める前段階として,まずは当事者意識を持つことが大事ではないでしょうか。社会保障の財源が豊かな時代なら,指示された通りにオペレーションを回すだけでも良かったのかもしれません。しかし病床機能の再編が進む現在は,「適者生存」の時代に入っています。そうした環境の変化に対して,院長やベテラン事務職がトップダウンで方針を決めるのを待つのではなく,「組織としてどうあるべきなのか」「今後この病院をどうしたいのか」を若手~中堅層が当事者意識を持って企画・提案し変えていくことが求められています。

小迫 ベテラン事務職は医療制度や診療報酬に詳しいですし歴史的な経緯も把握しているので,経営課題に対してアクションを取るのは若手より上手な印象を受けます。一方で,「職員が働きにくい」とか「病院の都合で患者さまに迷惑をかけている」といった“現場の困りごと”は,若手のほうが気付きやすい。組織としてあるべき姿と現状のギャップについても,若手のほうが敏感な場合が多いでしょう。こうしたお互いの強みをうまく活かせる組織が良い組織だと思うのです。

森岡 若手としては,日々の業務をこなすだけでなく,主体的に情報を収集・発信して上司や組織を巻き込んでいく必要がありますよね。また組織としては,こうした若手の声をいかにして拾い上げるのかが重要です。

末吉 聖隷福祉事業団に入職後,最初に勤務した聖隷浜松病院で感心したのは,現場の声を組織として拾い上げる仕組みが存在することです。毎週開催される経営企画会議は主に事務系管理職が出席する場で,議題に制限は設けられていません。問題解決のために対策が必要であると現場スタッフが判断すれば,上長を通してその会議に諮ることができるのです。そしてその企画が通れば院長・事務長・看護部長の三役がそろう経営支援会議の議題となり,そこで承認が得られれば組織全体の支援を受けたプロジェクトになります。

森岡 現場の声を拾い上げる仕組みがあるからこそ,スタッフに当事者意識が生まれるわけですね。

末吉 はい。また,年度末に職場内・多職種間で構成された業務改善の取り組みが発表され,病院幹部による審査の上で表彰される制度もあります。成果を可視化し,表彰という形で病院としてその成果を認める仕組みも,現場の自信につながっていると感じます。

身につけておきたい2つのスキルと経験の「場」づくり

森岡 医療職と比較すると,病院事務職に必要とされる技能や経験,キャリアパスなどは明確ではありません。この点はいかがでしょうか。

小迫 若いうちにのようなスキルを身につけると将来的に役立つのではないでしょうか。ヒトや組織を動かす上では,診療報酬や医療知識などのハードスキルだけではなく,コミュニケーションやリーダーシップなどのソフトスキルも持ち合わせたほうが上手くいきます。

 病院事務職として身につけておきたいスキル(小迫氏作成)(クリックで拡大)

森岡 ハードスキルは,当該部署に所属することで自然と身につくものも多そうです。しかしソフトスキルについては,意識的に勉強しないと難しいかもしれません。

小迫 そうですね。ただ私自身,新卒のころはハードスキルばかりに注目していましたが,当時の上司が紹介してくれたビジネス書をきっかけにソフトスキルを身につけようと思えました。

 その上司が私に薦めてくれたのが,『伝え方が9割』(佐々木圭一著,ダイヤモンド社)でした。その本は,同じ内容でも伝え方次第で結果が変わることを教えてくれます。例えば好きな人をデートに誘うとする。「デートしてください」とストレートに言っても,相手が自分に興味がなければ断られる。でも「驚くほど旨いパスタの店があるのだけど,行かない?」と誘えば,乗ってくる確率は高くなります。このように伝え方ひとつにも工夫の余地があって,ソフトスキルとして原理原則を学べば,さまざまな仕事に応用できて,良い結果が出せるとわかりました。

末吉 私は法人の新人職員研修を担当しているのですが,最初に扱うテーマが「コミュニケーションの原則」です。そこでは,コミュニケーションは一方向ではなく双方向であることをグループワークなどを通して学んでもらいます。

森岡 若手事務職自身が,本を読んだり研修を受けたりすることは大事ですよね。ただそうは言っても,実践の機会がなければ学ぶ意欲も湧きません。例えば会議の議事録や資料の作成を手伝ってもらうなどを通じて,職場でソフトスキルが試されるような機会を上司や先輩が意識的につくることが必要だと考えています。

 そういう意味では,既存の病院の仕組みである各種の委員会を活かすことも有用です。委員会は医療職の考え方もわかるし,事務職のスキルアップの場としてとても適した舞台です。

小迫 私も新卒のとき,委員会や多職種とのプロジェクトを通じて,多くの視点を持つことができました。

森岡 先日委員会に参画する中で,集中治療室の看護師長が病床管理について悩んでいるという言葉が気になり,後で調べてみました。すると,それがデータとしても裏付けられていて,収入にも影響を及ぼしていることに気付きました。現在,医事課でデータをまとめて,その看護師長と一緒に委員会で改善策を検討しているところです。こ...

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