医学界新聞

在宅生活志向(Home Oriented Care)の育成に向けて

寄稿 大草 智子

2020.03.23



【寄稿】

在宅生活志向(Home Oriented Care)の育成に向けて
鳥取大学在宅医療推進のための看護師育成支援事業

大草 智子(鳥取大学医学部附属病院医療スタッフ研修センター在宅医療推進支援室 副室長)


 近年,高齢化に伴う疾病構造の多様化に従い,医療依存度が高い療養者の増加が進み,本邦の医療・介護ニーズが大きく変化しています。当院が位置する鳥取県でも,地域医療構想として「必要な医療を適切な場所で提供できる体制の整備」と「希望すれば在宅で療養できる地域づくり」をテーマに掲げ,質の高い医療人材の育成,確保に向けた取り組みを進めています。

 しかし現状,それらの目標を達成できるほどの地域・在宅領域の就業者数には達していません。というのも鳥取県では,2006~2016年の10年間で約1800人の看護師が誕生しているにもかかわらず,そのほとんどが県内外の病院に就業するからです。さらに訪問看護に従事する看護師は,2016年現在,鳥取県全体の看護職員従事者数のわずか3.2%(316人),平均年齢47.9歳と,若手の就業が少ない状況にあります。

 こうした現状に陥っている理由として筆者らは,1)訪問看護に関心や興味があってもキャリアパスが未整備であること,2)在宅分野での勤務を希望する看護師の就業を支援する体制が不十分であること,3)医療的ケアを必要とする在宅療養者の増加によってサービスの質が多様化しているにもかかわらず,看護職がスキルアップする機会や時間が少ないこと,4)判断の重責,医療事故への不安感を抱えていること,などが影響していると考えています。

 そこで当院では上記の課題を解決するため,鳥取県地域医療介護総合確保基金事業の支援を基に「在宅医療推進のための看護師育成支援事業」を立ち上げ,鳥取大学病院内に設立した在宅医療推進支援室を中心に,「在宅医療推進のための看護師育成プログラム(Tottori-Home Oriented Care:T-HOC)」を2015年度より運用しています。HOC(在宅生活志向)とは,「家庭や地域を志向した看護ケア」を意味する当院の造語で,病院看護師と訪問看護師が協働して在宅生活志向の看護実践を行うという事業理念の下,HOCナースが地域包括ケアシステムの中で大きく羽ばたいて活躍してほしいとの願いを込めています。

本事業と育成プログラムの紹介

 本事業は,地域における看看連携と多職種連携を促進し,地域の看護職,鳥取県看護協会および医師会,自治体等とより一層の協働をしながら看護師育成を行うことを目的として立ち上げられました()。具体的なプログラム内容は,在宅医療・看護の質の向上と訪問看護人材の拡充を図るために,新人からキャリアを積んだ看護師まで幅広い層を対象にした3つのコースを設置しています()。これらは鳥取県の支援事業であることから,受講料は無料かつ就業しなが...

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