医学界新聞

2020.03.16



Medical Library 書評・新刊案内


6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド
臨床推論から症例報告の書き方まで

木村 大輔 編

《評者》内山 靖(名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学理学療法学講座・教授)

学生だけでなく臨床実習指導に携わる関係者に薦める一冊

 このたび,『6ステップで組み立てる理学療法臨床実習ガイド――臨床推論から症例報告の書き方まで』が,木村大輔氏を編著者として刊行されました。

 本書は,臨床実習を学ぶ際の①理学療法技術,②自己学習,③思考の3つの視点から,臨床実践での理学療法の流れに沿って,学生の行動を6つのステップに分割して整理されたものです。論理的に他者へ説明する手段として,三角ロジックを適用しながら極めて身近な話題を取り上げ,対話形式を交えて,事前準備,目標の抽出,仮説の立案,問題点の抽出と優先順位の決定,治療プログラム立案・実践,効果判定・今後の方針からなる理学療法の流れを解説しています。

 2020年4月から理学療法士の養成課程に適用される指定規則は101単位となりますが,そのうちの20単位が臨床実習に配当されていることからもその重要性は揺るぎないところです。臨床実習は,その過程でいくばくかの困難や自己への課題と向き合ったとしても,病める対象者の思いと臨床における理学療法士の真剣な眼差しは,学生にとって学内教育では経験できない自己を振り返る機会ともなってきました。多くの学生が,臨床実習を通して見違えるような知識の統合と職業意識ならびに自発的な学習意欲を身につけ,一段と成長した上で卒業していく様子を目の当たりにしています。

 臨床実習では,対人関係,これまでの知識の不足を一気に挽回しようとする過剰な学習,有病者に適用できる基本的技能,実践レベルでのコミュニケーション能力,周囲のペースやニーズに合わせながらの臨機応変な行動など,新たな学習課題が複合的に関連するために学生や指導者は相応のストレスにさらされています。この解決のために多くの努力が払われていますが,根幹的な課題の一つとして,既存の知識・技術・態度を統合する思考の整理について臨床の流れの中で学習することが重要になります。著者らは,早い段階でこの本質的な課題に気付き,正面から真摯(しんし)に向き合ってきた成果の一端が本書に凝縮されています。完成度の高い内容もさることながら,理学療法に対する熱い思いと学生に対する温かい眼差しをこれほど強く感じさせる書籍は珍しいと思います。著者らは,ロジカルシンキングに関心を持って同じ研究会に所属しているようで,日々の熱い討議が紙面を通じて伝わってきます。

 このような書籍に共通したジレンマとして,一定の理解や関心がある人はさらによくわかるようになり,そのための工夫の余地も大きいのですが,一定のレディネスに到達していない人には難解で,何を学ぶかがよくわからない点をいかに乗り越えるのかの課題が横たわります。その点からは,本書は学生ととともに,臨床実習指導に携わる関係者にお薦めするものです。また,学生が考えていることや,何がわからないかがわからなくなりつつあるシニアの臨床家や教員にぜひとも推薦したい一冊です。

B5・頁272 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04134-8


「おしりの病気」アトラス[Web動画付]
見逃してはならない直腸肛門部疾患

稲次 直樹 著

《評者》黒川 彰夫(黒川梅田診療所院長)

外科のみならず,内科,産婦人科,皮膚科の日常診療で活用したい必読書

 真っ先に目に飛び込んできた「特徴別疾患画像一覧」では,多くの医師たちが戸惑う疾患がインパクトのある100余枚の写真と動画で示されている。これらの画像だけでも頭の隅に置いておくか否かで明日からの日常診療が変わるのではないか。

 直腸肛門部の疾患は,日常診療で頻度の高いありふれた疾病であり,一般に「痔」と称して軽んじて扱う傾向にある。大学の卒後研修を含む医学教育においても,辛うじて下部消化管の外科の一部として教えられるが,実際の日常診療に役立つ内容ではない。それが,わが国における「肛門病学」の実態であり,直腸肛門部疾患を扱う専門医の間では,しばしば切実な問題として論じられてきた。しかも,今日まで初心者にも理解できる成書すら存在しなかった。肛門科医がみて役立つ立派な専門書や技術書は数多存在しているのにもかかわらずである。

 多くの医師は,直腸肛門部疾患に対する知識が患者さんの知識と同程度しかないことに気付いていない。結果,おしりの診断・治療の問題を,患者さん側から私たち専門医に持ち込まれて難渋する場合がある。

 今回の稲次直樹先生が著した『「おしりの病気」アトラス』は,直腸肛門部疾患を知ろうとする若き医師たちにとっては,これまでにない教科書となるであろう。

 I編の「直腸肛門部診療の基本」では,実際の診察の手ほどきが,問診表から順序よく,写真をふんだんに使ってわかりやすく述べられている。若き医師のみならず,ベテランの医師にとっても有益な内容である。

 II編の「直腸肛門部疾患アトラス」では,良性の痔疾患から始まり,注意すべき直腸肛門部の悪性腫瘍までが,臨場感のある写真を網羅しながら明確に解説されている。視診所見,病態,病理組織,鑑別診断,症状,治療方針そして経過が示されており,専門医にとっても非常に勉強になるので,この分野における必読の書となるであろう。

 巻末にある,III編の「内科医・内視鏡医が知りたかったQ&A集」,さらに付録の患者さんとの意思疎通やコメディカルの仕事に役立つ「おしり問診表」も興味深い企画となっている。

 実際に,表紙の帯で武藤徹一郎先生も述べられているように,この本は,稲次直樹先生にしか成し得なかった大作といえる。直腸肛門部疾患を知ろうとする医師の百科事典として後世にまで残ることであろう。また,外科の先生だけでなく,内科,産婦人科,皮膚科の先生方にも日常診療で利用されることを期待している。

 知り合って40年近く切磋琢磨して共に歩んできた友の一人である稲次直樹先生の著書は,私の日常診療の現場でも「座右の書」となるに違いない。医学,医療のみならず全人間的視野を持って人に接する人柄と心の奥に秘めた普遍的で高邁なphilosophy(哲学)を持った人が,稲次直樹先生であることを述べて擱筆(かくひつ)する。

A4・頁256 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03955-0

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