MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.03.02
Medical Library 書評・新刊案内
森本 義晴,太田 邦明 編
《評者》久保 春海(東邦大名誉教授)
加齢不妊に対してはARTと統合医療の併用が重要
2019年10月に医学書院から森本義晴(IVF JAPAN),太田邦明(福島県立医大)両先生の編集により『高齢不妊診療ハンドブック』が上梓されました。この本の帯にある「多くの不妊診療専門医が苦慮している高齢不妊患者さんに対してどのように治療していますか?」という問い掛けに対して,最新の治療方法として,検査,生殖補助医療技術(ART)手技から統合医療的アプローチまでを含め,高齢不妊患者さんを妊娠へと導くための秘訣をわが国の一流の専門医が伝授することを目的とした成書であります。体外受精・胚移植(IVF-ET)のパイオニアのひとりであるPatrick Steptoeが,世界初のIVFベビーを誕生させた直後の1978年に米国のカリフォルニア大サンフランシスコ校(UCSF)を訪れた時の講演会で,「IVF-ETによる加齢不妊治療は可能ですか?」という私の質問に対して,「IVF-ETは卵管因子による絶対不妊に対してのみ使用すべきものである」と答えられました。これは今から40年以上前のことですが,今やわが国では結婚,出産年齢の高齢化に伴い加齢不妊はART症例の半数以上を占める大きな命題になっています。
加齢に伴う生殖機能低下は,女性の場合32~33歳頃から徐々にはじまり37歳頃から急速に妊孕性が低下しますが,これは主として加齢に伴う卵母細胞数の減少と質の低下によると考えられています。一般にアンチエイジングというと60兆個の細胞で構成される肉体全体の加齢に伴う老化を予防する手段ですが,思春期以降の卵巣内に存在する約30万個の卵母細胞の老化を予防する方法はいまだにありませんし,ヒト卵子幹細胞はあったとしても,卵子に分化させる方法は未知であります。出生時の卵母細胞の数や加齢に伴う減少速度,質の低下には個人差があり,更年期までに残存する卵母細胞の数とその質には遺伝的素因と環境因子が深く関与しています。この環境因子を取り除く努力が加齢不妊に対する臨床の基本であり,本書に述べられているARTのEBMと統合医療の併用が重要であることは間違いありません。個体にかかる長期間の心理的ストレスや酸化,糖化による肉体的ストレスは,内分泌,循環器,免疫,神経系などの相互作用による精神・身体の恒常性の維持を困難にし,身体諸器官とともに生殖器官の機能的,器質的障害を発生するようになります。編者の森本先生は「ストレスをどう発見するのか,そしてどう取り扱うのか,さら...
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