医学界新聞

寄稿 成田 瑞

2020.02.03



【視点】

当事者と共に歩み考える日本のメンタルヘルス政策

成田 瑞(米国ジョンズ・ホプキンス大学統合失調症センター博士研究員)


 2019年12月18日に京大先端国際精神医学教室と日本医療政策機構(HGPI)共催で「国際潮流と日本のメンタルヘルス政策」グローバル専門家会合が開催された。HGPIは世界的に評価の高いNPOシンクタンクだが,脳から精神保健全般にスコープを広げるに当たり,米ジョンズ・ホプキンス大における脳神経医学/精神医学のリーダーシップを持つ澤明教授に企画協力を仰いだ。そして医療政策専門家,医療職,省庁,企業,当事者(患者さん)等のステークホルダーが政策提言をめざしてグローバルな視点で意見交換を行った。

 第一部では,メンタルヘルスの国際潮流がトップアカデミアによって整理された。さまざまなステークホルダーが集まるこうした会議では,エビデンスに基づいた意見交換が必須である。エビデンスの質の違いを認識した上で,政策立案においては良質なエビデンスに立脚する姿勢を徹底すべきだと強調された。

 現在の精神医学の診断基準は臨床的視点からの操作的なものであり,治療薬の科学的視点とは必ずしもマッチしない。エビデンスに基づいた,現在の診断基準からさらに踏み込んだ当事者の層別化が望ましい。そして薬物・心理・行動・社会的要素など多数のアプローチにより最適化された治療を届けることの重要性が指摘された。

 以上のように研究の重要性は本会合の共通認識といえる。ただし研究を進める際は当事者のニーズを最優先とし,分野を超えて連携すべきと確認された。ライフコースの視点では,治療などの診断後支援だけに偏るのでなく,リスク保持者に対する予防などの診断前対応も重要となる。この考えは,災害時において診断前から十分なサポートを提供することと同じコンテクストである。また,児童思春期に焦点を当てた社会・学校・医療機関の相互連携が期待される。

 以上の国際潮流よりトップアカデミアから,わが国に不足しているバースコホートや,逆に長所になり得る高齢化社会ならではの発信への注力と,政策立案者へのglobal burden of diseaseに見合った予算編成が提案された。

 第二部では日本のメンタルヘルス政策の次の打ち手が多様な立場から検...

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