医学界新聞

対談・座談会

2019.11.11



【座談会】

卒前教育にアクティブ・ラーニングの技法を(後編)
日本の卒前・卒後の教育現場で成功させる方策とは

ゴードン・ノエル(米国オレゴン健康科学大学医学部内科学 教授)
大滝 純司(東京医科大学病院トータルヘルスケアセンター 副センター長)=司会
森本 剛(兵庫医科大学臨床疫学 教授)


前編よりつづく

前編のあらすじ:兵庫医大4年生を対象に行われる英語による臨床推論の授業は,2回目まで手を挙げて答えようとする学生が少なかった。そこでノエル氏が,3回目の授業で成人学習理論を伝えると,学生は何かを感じ取ったようだった。


ノエル 本授業では,学生の積極的な参加を促すため,森本先生はユニークな手法を使っていましたね。

大滝 発言した学生にチケットを渡していました(写真1)。「チケット制」を導入した目的は何ですか?

写真1 ノエル氏の発問に次々手が挙がる。発言した学生に教員(中央)が「チケット」を渡す。

森本 授業への参加を,学生にもわかるように評価するためです。本授業の開講当初から取り入れています。授業のアウトカムを考えると,英語によるディスカッションの活発さはペーパーテストやレポートでは測れません。学生の発言ごとに1枚,ときに優れた発言には2枚,チケットを私や他の教員が学生個人に渡し,学生は授業の終わりに出席番号と名前を記入して提出する仕組みにしました。

ノエル 授業の残り回数が少なくなると森本先生が,発言の少ない学生を最前列に座らせ,発表の機会が皆,均等になるよう配慮していました。

森本 はい。多くの学生は初回と2回目の授業は様子見の雰囲気でしたが,回を重ねるにつれ,手を挙げ発言することを楽しむように変化していきました。

発言を否定せず,褒めて参加の機会を広げる

大滝 さまざまな工夫が凝らされた本授業ですが,英語で臨床推論を行い発表することに,学生はどのような難しさを感じるのでしょう。

ノエル まず,問いをうまく立てられないことです。学生による症例提示の初回授業で,発表者は担当の症例を深く分析できておらず,患者の病歴やデータなど簡単な質問にも答えられませんでした。そこで私は,次の質問をすると学生に宣言しました。

●病歴から明らかになった,この患者の問題リストは何か?
●身体所見で見られた異常は何か? また,重要な陰性所見は何か?
●臨床検査や画像検査の結果はどうだったか?

 その結果,発表を聞きながら問題リストを書き出している様子が見て取れるようになったのです。

森本 ノエル先生の宣言をきっかけに,学生もより前向きに授業へ臨むようになりましたね。

ノエル ええ。そして迎えた3回目の授業のときです。学生の症例提示から私のスライドに切り替えようと学生に背を向けた後,次に質問をしようと振り返ると写真2の光景が目に飛び込んできました。

写真2 120人を収容する教室は活気にあふれ,中には起立して手を挙げる学生も。

森本 皆,一斉に挙手をしていた。

ノエル そう,学生は症例を理解し,先回りして思考するようになっていたのです。彼らは発表

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