URAとめざす研究活動の活性化(高橋真木子,稲垣美幸,白井哲哉)
対談・座談会
2019.10.21
【座談会】
研究推進支援のプロフェッショナル
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高橋 真木子氏(金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授)=司会
稲垣 美幸氏(金沢大学先端科学・社会共創推進機構准教授/URA) 白井 哲哉氏(京都大学学術研究支援室URA) |
近年,リサーチ・アドミニストレーター(URA,MEMO)と呼ばれる,研究推進支援の専門職が大学等に配置されるようになりました。2018年度の調査1)によると,1200人を超えるURAが日本全国で活躍しています。
読者の研究者の皆さんとの接点には,研究費申請のサポートや,医工連携・産官学連携などの融合研究のコーディネート,大型プロジェクトのマネジメントなどがあります。とはいえ,まだ「名前は聞いたことがあるけど,詳細はわからない」という人が大多数かもしれません。
本座談会では,知的資源の源として社会に貢献する研究活動が強く求められる大学・研究機関において,期待に応えるために配置された新たな専門職・URAを取り上げます。3人の異なる立場のURAの議論から,研究成果の最大化をめざすに当たってのヒントを探ってみましょう。
高橋 URAと言われてもピンとこない人が多いので,簡単な自己紹介から始めましょう。
私は理学部生物系の大学院修了後,研究機関で研究マネジメントの仕事に就きました。複雑な研究成果の伝え方,産学連携をめざした知的財産化など,研究活性化のためにはマネジメント業務の専任者が必要だと思い,URAという職名がない時からURA的な仕事をしてきました。その後URA制度発足に携わり,現在はURA機能の在り方,大学研究力強化に資するマネジメントを研究対象とする傍ら,URAシステムの定着と充実をめざしています。
稲垣 私は博士号取得後,1年程度の博士研究員を経てURAになりました。現所属の金沢大でURA導入時に声を掛けられたのがきっかけです。主な業務は,プレアワードと呼ばれる研究費獲得支援です。と言っても申請書チェックだけが仕事ではありません。大学のビジョンに沿った研究費の情報を仕入れ,獲得に向けた折衝を大学執行部や研究者と行うこともあります。
白井 私もかつては生命科学の研究者でした。研究を進めるには研究環境整備が必要だとその時に感じたことから科学技術社会論に専門を移し,生命科学におけるELSI(ethical,legal and social issues)の研究者としてURA的な仕事も行いました。その後,京大にURAが配置されるタイミングで移籍し,今に至ります。京大にはURAが多数所属しているため,分業が進んでいます。私の仕事の一つに広報業務があります。研究や大学の広報支援の他にURAそのものを広報することも仕事です。広報は研究を推進させるための重要なツールです。多くのステークホルダーに対して正しいことをわかりやすく伝えるのは難しいことですが,自分の専門の科学技術社会論の知見を実践で生かせる場だと思います。
高橋 今日はこの3人の議論でURAとは何かを知っていただき,読者の研究者の皆さんとのさらなる協働を考えたいと思います。
表 金沢大・京大のURA制度の比較 |
研究費獲得から社会還元まで共に歩む
高橋 URAを一言で表せば「研究推進支援の専門職」です。研究を実際に行う職種である研究者から見れば,研究「推進支援」が具体的に何か疑問に思うでしょう。研究者にとって最もイメージしやすい例は何だと思いますか。
稲垣 研究費獲得支援ではないでしょうか。金沢大でURAの活動が始まったきっかけは,テニュアトラックで採用した若手研究者の支援でした。その最もわかりやすい仕事が,研究費獲得支援です。独り立ちするには,まず自分で研究費を取らなければなりません。
高橋 自分の研究に適した研究費獲得は,全ての研究者の課題ですものね。
「週刊医学界新聞」の読者である医学部の先生について,他分野の研究者との協働の経験を通じて特徴的だと感じるところはありますか。
白井 自身で研究費を獲得するまでのパスに特徴があると思います。理工系の学部では早ければ学部生で研究室に入り,修士課程では研究費申請に触れることもかなりあると思います。対して医学部出身の先生は,臨床を経て博士課程に進学して初めて,基礎研究活動の一環で研究費獲得が必要となるケースが多いです。研究費の種類や申請方法などをより丁寧に詳しくお伝えする必要があると感じています。
稲垣 その上,研究に加えて臨床も行うので,研究室全体がとかく忙しいとの課題があり,研究室外からの支援がより一層効果的だと感じます。ただし,医学部の研究者のポテンシャルはかなり高いので,少しの支援で大きな成果が得られるとの実感があります。
高橋 同感です。特に産学連携は,圧倒的に医学部の先生に強みがあると思います。産学連携を意識したとき,シーズを生み出す研究者と,ニーズに直接接する事業家(臨床医)の視点を兼ね備えているからです。
産学連携の最終到達点は,研究者自身が通常かかわることがない市場や新規事業です。そのシーズとなる研究成果を考えて知識生産に当たることが研究者に求められますが,接点がなければ難しい。しかし医学系の産学連携,つまり治療法開発では,事業家である研究者自身が臨床で芽吹かせられるシーズを踏まえて研究できるのです。臨床を行う先生にはぜひ,その強みを生かして研究を行ってほしいです。
白井 臨床上の課題解決のために研究をしている研究者は,産学連携だけでなく,倫理や法律等の諸課題解決へのモチベーションも高いですよね。ガイドライン化や倫理・法的問題の解決を切り抜けなければ,研究成果を患者さんへ届けることができませんから。
ただし,諸課題を解決して研究成果を社会に還元するために知らなければならないことがあまりにも多く,どんな超人でも一人で全てを行うのは困難です。現に,社会還元というゴールまでの道をまっすぐに描ける研究者は限られています。そのときURAが,最短距離になる道を示して途中にマイルストーンを建てる。そうすることで今着手すべきことが明確になります。頭の整理を一緒にしたり,倫理問題などへの必要な対応を定めたり,相談できる専門家集団へのアクセスを取り計らったり。URAができることは,ゴールに至るまでのあらゆるステップにあるのです。
研究費申請支援を次の支援のステップに
高橋 具体的な活動や研究者との役割分担のイメージができたところで,URAの役割の全体像を,大型の総合大学である京大を例にもう少し整理してみましょう(図1)。研究機関ごとの違いがあるとはいえ,大きくくくるとほとんどのURA業務は①研究者支援,②大学経営・戦略,③URA活動基盤整備に集約できそうです。
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図1 URAの位置付け(白井氏提供資料より一部改変) |
白井 ①研究者支援は,URA制度確立の目的「研究者が研究活動に専念できる環境の実現」を果たすための大変重要な業務ですね。URAの仕事として想起しやすい「外部資金獲得支援」はこれに当たります。その他にも,研究成果の広報や産学連携や国際共同研究推進の支援,プロジェクトの進行管理も含まれます。
稲垣 URAが少ない大学では分業せず各人がこれらの幅広い業務に従事しますが,外部資金獲得支援の優先順位が高くなっていると思います。
高橋 研究プロジェクト企画や申請書作成支援をURAの主業務として求める機関が多いと,私たちの調査でもわかっています3)。
白井 近年は,②大学経営・戦略に関する業務を担うURAが増えてきました。自大学が持つ研究力を評価して学内予算の研究への配分率や学内ファンドの設計を検討し,大学全体の経営戦略・研究戦略を定めるのに貢献します。URAは研究者支援を行うことで,研究者の研究の流れや方向性,学内の研究状況を深く知るので,それを生かした業務と言えるでしょう。
高橋 欧米のURAは研究面から組織経営にかかわることが求められるので,欧米式に近づいたと言えるかもしれません。③URA活動基盤整備は白井さんが携わっている業務ですね。
白井 ええ。地味だけれど重要な仕事です。研究資金情報の整備やURAの育成の他,URAを周知するための広報等がこの枠内の仕事です。
稲垣 URAの認知度向上はURA全体の課題です。②の仕事を通して大学執行部とのかかわりが大きくなる一方,研究者との接点が①を除いて少ないのは否めません。加えてURAが実際に担当する業務が多岐にわたる上,担当業務の範囲も大学ごとに異なることが,URAが何者かの認知を難しくする原因になっているかもしれません。これでは,一緒に仕事をする研究者とのコラボレーションが始まらなかったり,1回限りで終わってしまったりと,研究支援体制を整えても本当のシナジーは生まれません。URAの認知度が高くない現状で,白井さんは京大でどんな工夫をしていますか。
白井 研究者との接点作りに科研費への申請を活用しています。研究領域を問わずほとんどの研究者が申請するので,科研費申請支援は多くの研究者にURAを知ってもらう機会となっています。
高橋 大学によっては科研費の申請が義務化されています。研究者自身が忙しいのも相まって,科研費申請に支援を必要とする方は多数いるでしょう。
白井 それに科研費申請支援には,URAの認知度を高める以上のメリットもあるんです。URAは支援を通じて研究内容を知ることができます。それだけでなく産学連携や成果発信などの研究周辺の活動に取り組むモチベーションや悩みなど...
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