これが私の進む道!! 2019(下川純希,吉澤ひかり,神間しほ莉,吉井健吾,大倉航平,西本遼輝)
寄稿
2019.10.14
【寄稿特集】
これが私の進む道!! 2019
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「自分にしかできないことは何だろうと,思っていたほうがいい。あなたというのは,この世にひとりしかいないんだから。(中略)自分だからこそできることを探してみてほしい」――。(『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』文春新書収載,山極壽一氏の言葉より)。
2018年度から新たに開始された新専門医制度では,研修医の皆さんは19の基本領域の中から自分の進む道を決めます。各領域に魅力を感じながらも,自分が将来やりたいことは何か,選択に迷う方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は,現在さまざまな分野で活躍する6人の先輩に,現在の診療科を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。進路に悩む後輩への“贈る言葉”が,自分なりの医師像を見つけるきっかけになれば幸いです。
こんなことを聞いてみました
①経歴 ②診療科の紹介 ③ここが聞きたい! a.この科をめざしたわけ b.現在の研修生活は? ④同じ道を志す後輩への“アドバイス” |
下川 純希 吉井 健吾 |
吉澤 ひかり 大倉 航平 |
神間 しほ莉 西本 遼輝 |
◆総合診療:「人・家族・地域」を診ていく専門家
下川 純希(山口大学総合診療プログラム専攻医)
①経歴:2015年山口大卒。沖縄県立中部病院で初期研修後,17年より現職。
②診療科の紹介:総合診療科に求められる役割は,病院や診療所,在宅など診療の場によってさまざまです。地域や各医療機関のニーズに合わせて働き方を変えられることが,むしろ専門性の一つとも言えます。
また,生物医学的側面に加え,社会的・心理的側面も含めた一人の人間としての患者を診る専門家でもあります。これからの日本の医療に必要不可欠な診療科であることは間違いありません。
③aこの科をめざしたわけ:「全人的に診られる医師になりたい」と思ったからです。もともと,「小児から高齢者までどんなことも何でも診る」という医師のイメージが,私の理想像としてありました。医療が高度専門分化していることを大学に入学して初めて知り,学生時代は心臓血管外科や循環器内科,小児科,整形外科に進もうかと考えていた時期もありました。「総合診療」という言葉を知って興味を持っていたものの,身近にロールモデルもおらず,イメージがなかなか湧きませんでした。
そこで,総合診療科をめざす人が集まる病院を研修先として選び,実際に同じような志を持つ同期や先輩,指導医と出会ったことで大いに刺激を受けました。「総合診療科に私の理想像があるはず!」そう直感し,総合診療医の道に進むことを決心しました。
b現在の研修生活は:恥ずかしながら,当初は総合診療科と総合内科の違いもよくわからずにいましたが,指導医との振り返りや全国各地の総合診療医との出会いを通じて,ようやくその専門性について理解を深めました。総合診療医は手術やカテーテルなどいわゆる手技的成長はわかりにくいですが,その一方で,対応する問題の幅の広がりから医師としての成長を感じています。それは老若男女問わず診療できる,難しい疾患を診断できる,働く場にかかわらず診療できるといったことだけではありません。
当院の総合診療研修プログラムを通じて,患者さんの思いを引き出す方法や家族の役割を調整する方法,他科や多職種と協働する方法など,医学知識・技術以外にも現場で必要となる術を学び,総合診療の基本的な理論的枠組みに沿った実践ができるようになります。一筋縄ではいかない場面に遭遇しても,さまざまな分野で得た学びから解決の糸口を見つけ出し,実際に何とか患者さんや地域のためになれたときは,本当に総合診療医でよかったと思える瞬間です。困難なことも何とか解決する引き出しを多く持っていること,それは私たち総合診療医の強みの一つだと思います。
④同じ道を志す後輩への“アドバイス”:「総合診療って何?」この答えを見つけようとしてもすぐには見つからないかもしれません。私もそうであったように,まずはロールモデルとなるような総合診療医と出会うことが大切です。もし身近にいなければ,総合診療医が集まる,日本プライマリ・ケア連合学会主催の「若手医師のための家庭医療学冬期セミナー」や「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」に参加することをオススメします。その中できっと総合診療の魅力に気付けるはずです。ぜひ,一緒に総合診療医としての一歩を踏み出しましょう!
◆産婦人科:病院で唯一「おめでとう」と言える科
吉澤 ひかり(淀川キリスト教病院産婦人科 後期研修医)
①経歴:2015年大阪市大卒。ベルランド総合病院で初期研修後,18年より現職。
②診療科の紹介:産科は妊婦健診,切迫早産などの入院管理,帝王切開,経腟分娩,産後出血対応などを行います。喜びもあり,時に集中力と瞬発力が必要とされる場です。婦人科は外来,良性・悪性腫瘍手術,化学放射線療法,緩和ケアなどを行います。
③aこの科をめざしたわけ:三児の母でありながら臨床医として活躍する格好いい女性医師から,「産科は病院で唯一『おめでとう』と言える科」と言われたことがこの科をめざしたきっかけです。もともと発展途上国の医療支援に興味があり,世界共通であるお産に関する技術を学びたいと思っていました。
一方で,初期研修中は麻酔科が楽しく,医師としてのQOLも高いように思えて選択を迷いました。産婦人科は流産や末期癌などの患者にうまく対応できるか不安でしたが,そのような患者に正しい医療知識を提供し寄り添えるのは産婦人科医だけと先輩医師に言われ,産婦人科に進むことを決意しました。
b現在の研修生活は:医師3年目に神戸大病院で後期研修を開始しました。産科・婦人科共に丁寧なカンファレンスがあり,じっくり学べました。放射線科や病理科との合同カンファレンスや,先天性心疾患など重篤疾患合併妊娠,全前置胎盤などによる出血ハイリスク帝王切開,肉腫や再発癌の治療など,大学病院ならではの経験もできました。研修は同期や学年の近い先輩が多く楽しい雰囲気でした。
4年目からは当院に勤務し,上級医に相談しながら責任を持って外来や病棟主治医を務めています。当院は年間約1200件の分娩があり,新生児部門は妊娠22週から入院を受け入れているため搬送も多く,帝王切開は頻繁にありますし,婦人科は腹腔鏡下手術も盛んです。当直は眠れないとつらいですが,それでも赤ちゃんとお母さんのためと思うとアドレナリンが出ます。
当直は月4回程度で,当直明けの朝はすぐに帰宅できます。土日勤務もありますが毎月2日間,平日に有給休暇が取れ,気持ちよく働けます。キリスト教病院のため中絶を一切行っておらず(他院に紹介しています),クリスチャンの私にも葛藤がありません。夏休みにはクリスチャ
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