医学界新聞

寄稿

2019.09.23



【視点】

一般病棟看護師に向けたロービジョンケアのすすめ

大音 清香(医療法人社団済安堂井上眼科病院名誉看護部長)


 ロービジョンとはどのような状態かご存じでしょうか。WHOでは,矯正眼鏡を装用しても視力が0.05以上,0.3未満の状態と定義されています。一方,日本ロービジョン学会では,視力数値だけでは表現しがたい視機能の低下により,仕事や学業,生活に不自由を感じる状態も含めてロービジョンと定義をしています1)。後者の広義のロービジョン者に対して,快適な状態を提供することをロービジョンケア(Low-Vision Care;LVC)と言います。

 近年,ロービジョンを引き起こす原因疾患は,人口構成や眼科医療の発展などによって大きく変化してきています。現在は,緑内障,網膜色素変性症,糖尿病網膜症が上位を占めていることから2),一般病棟でもロービジョンの患者と遭遇する可能性もあり,眼科のみならず看護師全般がLVCを習得する意義は深いと言えます。

 LVCは,端的に言えばロービジョン者(児)へのケアを指しますが,ケアを行う対象や症状によってそのかかわり方は大きく異なります。例えば,先天性か後天性かによって同等な視力値であっても視覚障害の感じ方やとらえ方には差が生じたり,眼瞼痙攣のように瞬時の視力数値は0.8だとしても,光への過敏反応から眩しくて開眼困難な症状が現れたりもします。さらには,外傷等により急激な視力低下をきたした場合や,生活習慣病に伴い徐々に視力が低下する場合など,状態はさまざまです。つまり,LVCにはロービジョン者の視機能状態を適切に把握し,障害の受け止め方に寄り添ったケアが必要となります。

 まずはロービジョン者が受診することを想定し,患者の移動の仕方や顔貌など,外観の様子を注意深く観察してみましょう。「今どうしたいのか?何を一番求めているのか?」を,患者の一挙手一投足から探り出すことが重要です。異変を感じた場合でも,ロービジョンの患者によっては視力低下により心身共に喪失感が著しい可能性もあるため,安易にサポートすることがかえって不信感を抱くことにもなりかねません。ロービジョンの患者への最初の声掛けは細心の注意が必要です。また一方で,視力を失い何もできなくなったことを訴え,過度なサポートを要求されることもあります。どちらの場合でも,看護師は冷静な観察と客観的な言葉掛けを行い,安全面を重視してロービジョン者に優先されるケアをアセスメントすることが求められます。

 視機能障害が生じた入院患者に対しては,コミュニケーションを図りながら生活面に支障が生じる可能性を念頭に置いておくことも必要です。①日常の便利グッズ(音声で知らせる時計・体温計・体重計や,白黒反転のまな板,食器など),②筆記具(文章を読み取りやすくするタイポスコープや色別シール,拡大読書器など)の紹介,③IT機器の活用3),必要に応じて④地域包括支援センターとの連携ができればケアに役立ちます。地域によって差はありますが,社会資源の有効活用のため,公共機関を通じてロービジョン者が活用できる支援策に関する情報を把握しておくことが望ましいと考えます。

 来年2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催年であり,ロービジョン者のスポーツへの関心も高まっています。ユニバーサルデザインの発想から,共に豊かな生活の在り方を考えていきましょう。

参考文献・URL
1)高橋広(編).ロービジョンケアの実際――視覚障害者のQOL向上のために,第2版.医学書院;2006.pp9-31.
2)井上順治,他.眼科病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請者の現況(2012年)――過去の調査との比較,眼臨紀.2014;7(7):515-20.
3)社会福祉法人日本点字図書館ウェブサイト


おおね・きよか氏
1973年富山県高岡看護専門学校卒。同年より昭和大病院看護部にて勤務の傍ら,82年明治学院大社会学部卒。97年昭和大医学部リハビリテーション科修了。博士(医学)。2005年より医療法人社団済安堂井上眼科病院看護部長,16年より現職。日本視機能看護学会名誉理事長,日本ロービジョン学会評議員。

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