医学界新聞

インタビュー

2019.09.23



【interview】

臨床現場で生きる看護実践をめざして
ジェネラリストを育てる

佐藤 憲明氏(日本医科大学付属病院 教育支援室/看護師長)に聞く


 社会のニーズの変化に伴い看護師の役割が拡大する中で,各領域の専門的な知識や高い実践能力を持つスペシャリストの養成が求められる。一方で多様な対象に対して柔軟に看護を提供できるジェネラリストは,臨床現場において不可欠な存在だ。ジェネラリストの存在があってこそ,認定看護師・専門看護師などのスペシャリストが個々の専門性を発揮できる。

 急性・重症患者看護専門看護師の資格を取得し,スペシャリストとして看護実践を重ねてきた佐藤氏。現在は病院全体の看護師教育に携わり,ジェネラリスト育成に取り組んでいるという。めざすべきジェネラリストの姿と育成に取り組む理由について話を聞いた。


――佐藤さんが育成をめざすジェネラリストとはどのような看護師ですか。

佐藤 患者のポテンシャルを最大限に引き出すために,身体の中で起きていることやその原因を考え,患者にとってベストなケアを実践できる看護師です。患者が示す症状や現象に対して実践すべきケアの方針について仮説を立てるために,患者をしっかりと観察しアセスメントする力は,あらゆる看護師に必要な能力だと考えます。

「自分で考える」能力を身につける

――なぜ看護師には仮説を立てるアセスメント力が求められるのでしょう。

佐藤 患者に安楽を提供したり,患者のポテンシャルを引き出したりと,その人に適したケアを行うためには,ケアの裏付けとなる臨床データをきちんととらえることが重要だからです。患者の身体の中で何がどういった機序で起きているのか,患者がよりよく回復していくためにはどうするべきなのか。まずは患者の病態を正確にとらえアセスメントすることで,目の前の患者さんにとってのベストなケアにつながります。

――ジェネラリストを育成するに当たり,課題は何ですか。

佐藤 単に臨床データの数値だけで正常か異常かを判断したり,「発熱しているから解熱すべき」と起きている症状だけを切り取ってすぐにケアに結び付けたりと,患者の病態を十分に把握できていないことがあります。適切な看護を行うために,正確に患者の情報をとらえることができる看護師を育成することが課題です。

――十分に患者の病態を把握できていないとは,例えばどのような状況でしょう。

佐藤 ある看護師が「○○さんの熱が高いので解熱薬が必要でしょうか」と医師に薬剤の必要性を提案したとします。高熱で苦しむ患者さんを見て「何かしてあげたい」と思っての行動です。しかし,30分前には抗菌薬をすでに投与していたとしましょう。この場合,抗菌薬投与後の解熱に関しては,抗菌薬投与後の体温の推移について過去の記録からも推測し,抗菌薬の投与直後であることを医師に伝えた上で対応を相談することが本来は望まれます。このようなケースでは,適切に患者の情報をとらえられているとは言いがたいのです。

現象の意味付けによって最善のケアをめざす

――なぜ多くの看護師は患者の情報を統合したアセスメントを不得手とするのでしょうか。

佐藤 患者に生じた症状とその治療やケアに対する意味付けを行う知識や能力が育っていないからだと思います。

 先ほどの例のように,経験の浅い看護師は発熱の症状に対し,解熱させなければという意識が先走って薬剤の使用を急ぐ傾向があります。薬剤の使用だけで解熱に至ったという誤った成功体験をした看護師は,次に出合う同じ症状に対しても同様の対処を試みることが増えます。こうした一連の対応過程が,必要な情報をとらえる能力やアセスメント力に影響を及ぼすのです。

――症状とケアを正しく意味付けし,患者にとって最善のケアを尽くす経験を積む訓練が必要なのですね。

佐藤 はい。患者の利益となるケアに最善を尽くした実践を行い,その成果を得ることで,看護師は自分の看護に効力感を得ることができます。患者の看護には身体的側面だけでなく,心理的側面も考慮したアセスメントとケアが必要です。患者の心理的側面をひもといていくことはケアの根拠も明確となり,治療計画を立てる医師との情報共有にも役立ちます。

――最善のケアが実践できると,患者だけでなく看護師にとっても良い効果が生まれるというわけですか。

佐藤 そうですね。ただ,医療現場では最善のケアを尽くしても,期待する結果に至らないケースもあります。私自身葛藤を感じることも多くありましたが,経験の浅い看護師はよりその傾向が強く,無力感に陥ることがあります。このようなときはその患者に携わった関係者とともにデブリーフィングを行う必要があります。

知識と経験を結び付ける学習アプローチを

――それでは,佐藤さんがジェネラリスト育成に向けて現場で行っている教育実践方法を具体的に教えてください。

佐藤 意味付けを実践的に訓練できるようシミュレーションなどの実践型の教育を行います。患者の病態を正確にとらえて,適切なアセスメントを行う能力は,一朝一夕に身につく力ではないため,看護師自身が経験した実践を正確に振り返る取り組みも,力を入れていることの一つです。

――なぜ実践型の教育に力を入れているのですか。

佐藤 施設内の看護師の継続学習では,講義を受ける機会は充実しています。しかし座学による一方的な講習だけでは,実践能力の獲得は難しく,実践知を高めることが臨床看護師の教育に欠かせないと考えているからです。

――具体的にはどのような場面での教育アプローチを想定しているのでしょう。

佐藤 例えば脳卒中による視野狭窄がある患者さんを例に挙げましょう。患者には見えづらい範囲があるために,看護師は立つ位置や食事を置く位置にまで配慮する必要があります。視野狭窄の症状と実際のケアを結び付けるために,患者さんの視野を想像したアプローチを考えるよう指導します。

 知識を習得するだけ,あるいは臨床でケアを経験するだけのどちらかに偏るのではなく,臨床で出会う患者さんのケースを想定しながら理論付けて学習することで,実践するケアに根拠を持ち,効果的なケアに活かせるようにしています。

――実際にそれらの教育を受けた看護師の反応はいかがでしたか。

佐藤 臨床現場での実際の事例をもとにシミュレーション教育を行ったときには,「患者さんへのケアは,病態を踏まえて考える必要があるとわかった」といった反応がありました。病態理解がケアの基盤になると伝わっているようです。継続して実践を積み重ねていけば,ジェネラリスト育成につながるという手応えを得ています。

――意味付けできるジェネラリストとしての看護師を増やすため,今後新たに取り組みたいことは何ですか。

佐藤 ジェネラリスト育成の一つのめどとなる3~4年目までの看護師に,実践するケアの意味を理解できているかの自己評価アンケートを取りたいと考えています。実践できる看護技術は1年目のときよりも格段に増えているでしょう。しかし全てのケアに意味付けができるわけではないと予想しています。個々の到達レベルを把握することで,苦手な分野や学習・経験が不足している内容がわかります。これにより,意味付けされたケアを実践する能力を養うためのアプローチが今以上に明確になると思うのです。

――今後の活動における目標をお聞かせください。

佐藤 患者に最適なケアを提供し,看護を楽しめる看護師を一人でも多く育てることを目標に,今後もジェネラリストの教育に貢献していきたいです。

 私自身は専門看護師資格を持つスペシャリストとして,組織内での教育機能も担っています。どんな場面でも活躍できる柔軟な能力を持ったジェネラリストを育成し,特定領域の専門性に長けたスペシャリストとの協働によってよりよい看護を提供できる環境づくりをめざしたいです。

(了)


さとう・のりあき氏
1991年聖隷学園浜松衛生短大看護学科卒。日医大病院にて高度救命救急センターや心臓血管外科での勤務を経て,2019年より現職。学生時代より,看護師として自身の専門性を高めることを目標に掲げ,1999年に救急看護認定看護師資格を第1期生として取得,2008年に急性・重症患者看護専門看護師を取得した。監修本に『よくわかるナースのための医師指示の根拠』(学研プラス)など。「看護師はケア実践のリーダーとしてケアに根拠を持ち,医師などの他職種にそれを対等な立場で伝えられる必要がある。そのために看護師には知識か経験かのみに偏らない病態の理解が必要だと,専門看護師課程の中で学びました」。

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