医学界新聞

インタビュー 須藤久美子

2019.09.23 週刊医学界新聞(看護号):第3339号より

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――看護部長を務められていた当時,セル看護を開発した背景にはどのような課題があったのでしょう。

須藤 セル看護の導入以前は,看護師を増員しても退職する看護師が後を絶たず,現場からは常に看護師不足の声が上がっていました。転機は,米ヴァージニア・メイスン病院への見学です。後にセル看護の原案となる徹底したムダ取りを行う看護体制を見て,直感的に「これだ!」と思いましたね。期待に胸を膨らませて帰国をしました。

――導入の際には「看護のやりがい」に注目したようですね。

須藤 ええ。看護師を増員しても,環境が変わらなければ何も変わらないことには気付いていましたので,やりがいを持って看護業務に取り組んでもらうためにも,当事者意識を喚起できるような実践的な目標に変えようと思ったのです。

――「看護のやりがい」は人によってさまざまだと思います。実践的な目標策定のために意見をどう集約していったのでしょうか。

須藤 多数の看護師と話し合い,①自分で提供したサービスで他者に喜んでもらったとき,②自分が成長したと感じたとき,③「本質」に触れたときの3場面が,やりがいに直結する重要なファクターだと結論付けました。これら①~③を最も実践できるのが「患者のそばにいること」であり,それがセル看護の原点となったのです。ただし,「セル看護=病室の中で看護師が業務を行うこと」は本質ではありません。

――具体的にはどういうことでしょう。

須藤 例えば,患者さんの立場になったとして,ナースコールや声を使わずに看護師を呼ぶ場面を想像してみてください。目線を合わせるか,手を挙げて呼ぶくらいしか方法が無いと思います。つまり,看護師の立場から見れば,患者さんのそばにいても関心を寄せていないと重要なサインに気付けないのです。セル看護の導入時,多くの看護師が口をそろえて「患者に寄り添いたい」と話すものの,長い時間,病室にいられませんでした。「この患者さんは,トイレに行きたいのかな」とか,「痛みが出てきたのかな」とか,担当患者さんに関心があれば,患者さんの出すサインに気付こうとの意識から,ずっとそばにいられるはずと私は考えています。

――「患者に関心を寄せること」は看護の本質と言っても過言ではないですね。

須藤 その通りです。セル看護の導入により看護師の居場所がベッドサイドへ移動したことで,呼応するように他職種全員が患者さんのそばへ集まるようになりました。よく「セル看護導入時に医師からの反発はなかったのか」という質問をされますが,力になりたいと思う患者さんのそばで,多職種が議論するのは当然の光景であり,この点に異論を唱える職種の方はいないはずです。まずは看護の原点に立ち返り,患者さんにとっての価値とは何かを自分自身に問い掛けてみてください。

(了)

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