関節リウマチのメカニズムからみた骨免疫学(高柳広)
寄稿
2019.09.16
【寄稿】
関節リウマチのメカニズムからみた骨免疫学
高柳 広(東京大学大学院医学系研究科免疫学教室 教授)
骨は運動を可能にし,内臓を守る硬組織であり,運動器の一部だと考えられてきた。しかし,骨髄は造血幹細胞を維持するニッチ細胞を有し,必要に応じて分化を促し胸腺や末梢に細胞を送り出す一次リンパ組織でもある。
骨免疫学とは,骨による免疫制御,免疫系による骨制御をはじめとした骨と免疫の相互作用や共通分子機構を研究する分野であり,免疫組織としての骨に目を向ける契機を提供した学際領域である1)。すなわち,骨免疫学の視点なくしては,免疫系の全体像を解明することも骨代謝の全貌を理解することも難しい。
このように,近年重要性を増す骨免疫学を,関節リウマチ研究の発展を通して振り返ってみたい。
骨免疫学の発展の歴史
免疫系制御因子が骨代謝細胞を制御することは1970年代に報告されていたものの,免疫系と骨代謝の相互作用に注目が集まるようになったのは,T細胞による破骨細胞制御の論文2)に対して2000年にNature誌が“Osteoimmunology”(骨免疫学)という呼称を用いてからであった3)。つまり,破骨細胞研究は免疫系制御因子とともに発展してきたと言っても過言ではない。
免疫系の活性化に伴う骨破壊は,関節リウマチなどの自己免疫疾患,歯周病や骨髄炎などの感染症の際に頻繁に観察される。本稿のテーマとなる関節リウマチでは,骨破壊が起こる原因として,われわれを含む多くの研究グループが破骨細胞分化因子(receptor activator of NF-κB ligand;RANKL)が炎症滑膜で高く発現して破骨細胞を増やすことを示してきた4)。
他方,RANKL欠損マウスを作製すると,破骨細胞の欠損と同時にT細胞分化異常やリンパ節形成不全を呈することが明らかとなり,RANKLは破骨細胞だけでなく免疫系でも必須であることが証明された。また,関節リウマチの炎症滑膜にはT細胞が集積することが,従来より報告されていたため,T細胞に関連した研究結果を基に,活性化T細胞がRANKLを発現して破骨細胞を増やし骨を壊すという「T細胞RANKL仮説」が発表された5)。
一方で,この仮説に対しわれわれは,T細胞はRANKLの作用を調節するサイトカインを産生することで,RANKLのみによらない精妙な破骨細胞形成制御が行われていると考えた2)。
関節リウマチによる骨破壊
実際,当時判明していたほとんどのT細胞が培養系では破骨細胞分化を抑制した。では,どうやって関節リウマチ滑膜ではT細胞が集積し破骨細胞を誘導して骨を破壊しているのであろうか。次の課題は「破骨細胞誘導性T細胞」の同定であった。
さまざまなサブセットのT細胞を破骨細胞形成系に添加することで,Th 1やTh 2細胞はIFN-γやIL-4など破骨細胞分化抑制因子を出すために破骨細胞分化を抑制すること,唯一Th 17細胞だけが主に間葉系細胞にRANKLを誘導して破骨細胞分化を誘導できるサブセットであることがわかってきた6)。
T細胞による破骨細胞誘導の際には,滑膜線維芽細胞のような間葉系支持細胞の介在が必要であった。そこでわれわれは,炎症性骨破壊におけるRANKL産生細胞は滑膜線維芽細胞であると考え,「滑膜細胞RANKL仮説」を提唱した。十数年を経て,われわれは滑膜線維芽細胞特異的RANKLコンディショナルノックアウトマウスの作出に成功し,「滑膜細胞RANKL仮説」がついに証明された7)。
すなわち,関節リウマチの骨破壊は,①滑膜に浸潤したTh 17細胞が産生するIL-17などにより滑膜線維芽細胞にRANKLが誘導されると同時に滑膜炎が増悪,②滑膜マクロファージなどから産生されたTNF,IL-6がさらにRANKL誘導と破骨細胞前駆細胞の活性化を促し,過剰な破骨細胞形成が誘導されると理解できる。
加えて,骨破壊に大きく関与する滑膜には抗体産生細胞である形質細胞が浸潤しており,抗IgG抗体であるリウマトイド因子や抗シトルリン化タンパク抗体である抗CCP抗体価は骨破壊
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