臨床倫理コンサルテーションの役割と意義(長尾式子)
寄稿
2019.08.26
【寄稿】
倫理的問題の解決を支援する
臨床倫理コンサルテーションの役割と意義
長尾 式子(北里大学看護学部准教授)
臨床倫理コンサルテーション(Healthcare ethics consultation;HCEC)とは,患者,家族,代理人,医療従事者,その他の関係者がヘルスケアの中で生じた価値問題に関する不安や対立を解消するのを助ける,個人やグループによるサービスです1)。医療現場の個々の事例で生じる倫理的問題への支援の仕組みとしてこのHCECは北米で発展してきましたが,これに類する支援は今日,欧州やアジア圏でも行われています。HCECは,患者の終末期における医療ケアの意思決定,特に患者本人の意思能力が疑わしい,あるいは本人の意思が不明であるために意思決定をめぐって医療専門職と家族が対立する場合,代理意思決定者の適性が疑わしい場合などの倫理的問題に関する相談に応じていることが各国から報告されています2~4)。
整備が進む倫理的問題への支援体制
日本におけるHCECの現状はどうでしょうか。例えば,移植医療において医療ケアチームと異なる第三者が生体ドナーや脳死ドナーの適正,脳死判定のプロセスの適正評価や協議を担ってきました。また,重篤な疾患を持つ小児に対する治療方針の決定や,終末期にある患者への生命維持治療の差し控えと中止など,医療ケアチームで議論しても解決に至らない場合には,第三者であり,専門的な知識を有する者からの支援を得るという手続きを経ることが,これまでに厚労省や関連学会から示されています5, 6)。
そこで,病院等でのHCECの仕組みに着目してみると,臨床研修指定病院を対象に行った2004年の調査では,約25%の病院が倫理委員会や,新生児や終末期ケアなどを検討する個別の委員会などのHCECに類する仕組みを有しており7),2016年になるとその割合は臨床研修指定病院の約70%にまで増加しました8)。この10年でHCECを導入した病院が急速に増えたと言えます。
HCECの仕組みが急速に普及した背景には,先述の経緯から,①厚労省や学会などが臨床現場の倫理的問題を支援する仕組みについて指針などで言及したこと,②臨床倫理の取り組みが病院機能評価の項目に含まれたことが挙げられます。日本医療機能評価機構は臨床倫理に関する評価項目をバージョンごとに改訂しており,最新のバージョンでは「臨床における倫理的課題について継続的に取り組んでいる」という項目を挙げ,体制と実践の両者が評価の視点となっています9)。
次に,HCECの設置母体と取り組み方について紹介します。まず,HCECの設置母体には,①研究と臨床の両者を担う倫理委員会,②患者相談や医療安全と結合あるいは一部,③新たに設置した臨床倫理委員会があります。そして活動の形態には,個人,3~4人の少人数制,委員会制があります。活動の仕方は相談内容に応じて,①その場で助言をする場合,②ケアカンファレンスや多職種カンファレンスといった病棟カンファレンスで医療ケアチームの議論を促進・支援する場合,③意図的に臨床倫理カンファレンスを行い,判断を助ける議論を促進・支援する場合があります10)。
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