医学界新聞

2019.08.05



Medical Library 書評・新刊案内


作業で創るエビデンス
作業療法士のための研究法の学びかた

友利 幸之介,京極 真,竹林 崇 執筆
長山 洋史 執筆協力

《評者》鈴木 誠(東京家政大教授・作業療法学)

臨床家が研究を始めることを後押ししてくれる良書

 作業療法に研究は必要なのでしょうか?

 脳血管障害によって立位で調理をすることが難しくなった対象者に対する作業療法を想定してみます。作業療法士は,この対象者の下肢筋力を測定してレジスタンストレーニングを行い,行動様式を評価して行動練習を行い,筋力や行動を補うための福祉用具の処方や環境調整を行うのではないかと思います。

 そもそも,なぜ,立位で調理をすることが難しくなった対象者に対して,作業療法士は下肢筋力を測定するのでしょうか? その判断の基をたどっていくと,脳血管障害によって下肢筋力が低下することや,立位に下肢筋力が影響を及ぼすこと,またレジスタンストレーニングによって下肢筋力が向上することが,研究によって明らかになっているからなのです。つまり,研究によって得られた実践の指針を参考にして,現在の実践が組み立てられているということになります。しかし,現実の臨床場面は,現在の研究によって得られた実践の指針では説明できないことが無数にあります。

 この対象者が作業療法士に質問をしたとします。「立って調理をするためにはどのくらいの足の力が必要なのですか?」「このトレーニングを続けたら,来月にはどのくらい力がついているのですか?」「この行動練習を続けたら,どのくらいの期間で調理ができるようになるのですか?」「他に選択できる練習方法はあるのですか?」

 これらの問いに,現在の作業療法はどのくらいの答えを用意することができるのでしょうか?

 対象者の問いに作業療法士が答えられるようになるためには,多くの症例研究を積み重ねて多様な疾患や障害に応じた介入方法を探索するとともに,前向きコホート研究やランダム化比較試験によって作業療法の効果や予後を科学的に実証していかなくてはなりません。

 作業療法は,研究を必要としているのです。

 本書の著者らは,「これからの作業療法のありかたは,研究によって示されるべき」と冒頭で宣言しています。研究を推進することこそが,未来の作業療法を形作るという強い決意を感じます。この決意に裏打ちされるように,本書では一貫して作業療法を実践する臨床家の視点から研究の意義が描かれています。研究とは何か,エビデンスとは何かという根本的な問いに始まり,質的研究,横断研究,コホート研究,ランダム化比較試験などの研究を進めるための考え方が丁寧に解説されています。

 研究は,過去の作業療法と未来の作業療法をつなぎます。本書は,臨床家が研究に一歩踏み出すことを後押ししてくれる良書です。多くの作業療法士が本書を手に取ることによって,研究に裏付けられた新しい実践の指針が次々と生み出され,作業療法が発展していくことを願っております。

B5・頁336 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03662-7


マウス組織アトラス

岩永 敏彦,小林 純子,木村 俊介 著

《評者》阪上 洋行(北里大教授・解剖学)

研究室に必備のマウス組織アトラス

 マウスは,実験動物として古くから利用されてきたが,1980年代前半に外来性の遺伝子を導入し発現させるトランスジェニックマウスが,続いて80年代後半にES細胞を用いた標的遺伝子の相同組換えによるノックアウトマウスの作製技術が確立されたことにより,確固たる地位を築いた。さらに,近年のゲノム編集技術の進歩により遺伝子改変マウスはより安価かつ短時間で手に入る時代になり,その重要度は

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