医学界新聞

寄稿

2019.07.22



【視点】

高血圧・循環器病予防に療養指導士の看護の手を

宮松 直美(滋賀医科大学臨床看護学講座 教授/日本循環器病予防学会 高血圧・循環器病予防療養指導士部会長)


 「高血圧・循環器病予防療養指導士」認定制度は,循環器疾患の予防推進を目的として,看護師,保健師,薬剤師などの多職種を対象に,2015年に日本高血圧学会と日本循環器病予防学会により開始されました。現在は日本動脈硬化学会も加わり,3学会での公認資格になっています。今後さらに参加学会が増える予定です。このように,単一学会による認定制度ではなく,循環器疾患の予防と管理を担う複数の学会による認定制度であるところが他の療養指導士制度と異なる大きな特徴です。

 心不全,虚血性心疾患,脳血管疾患などの循環器疾患はわが国の主要死因であり,同時に要介護状態の主要な原疾患です。そのため2018年12月,「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中,心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(以下,脳循対策基本法)が制定されました。これにより,循環器疾患の1次予防(発症予防),2次予防(重症化・再発予防),3次予防(社会復帰,要介護予防)が推進されると期待されます。

 本稿では,脳循対策基本法の制定を受け需要が高まる高血圧・循環器病予防療養指導士において,特に看護師に求められる役割について述べたいと思います。

患者の生活を維持するために看護師ができる療養指導とは

 循環器疾患の発症には高血圧症や脂質異常症などの基礎疾患や,喫煙,多量飲酒などの生活習慣が関連します。これら基礎疾患の予防と治療継続,生活習慣改善による発症予防が重要です。また循環器疾患罹患後も適切な治療継続や生活習慣改善により,重症化や再発を予防し対象者・患者の生活の質を維持することが大切です。

 看護師は日常的に患者の血圧や検査データを評価しますが,アセスメントや介入の技量には個人差があります。本認定制度の講義や事例演習により,例えば,臓器障害による目標値の違いや,血圧管理不良の原因に応じた対処方法などを知ることで,より正確な病態評価と根拠に基づく支援ができるようになります。

 循環器疾患の予防と管理においては,医師,看護師,保健師,薬剤師,管理栄養士,理学療法士などの多職種が各自の専門性を生かした働き掛けを行いながら,長期にわたり患者を支えます。個々の事例への看護介入に加えて,こうした医療チームのコーディネートも看護師の重要な役割の一つです。本認定制度では,看護師としての療養指導能力の向上はもちろん,循環器疾患の予防と管理のために多職種が共通して理解しておくべき知識を習得します。他の専門職の視点を知ることにより,多職種連携のコーディネート能力を身に付けることができるのです。

 循環器疾患や脳血管疾患の有病率は高く,高血圧症や脂質異常症などの基礎疾患の推計患者数は数千万人にも上ります。現在までに450人余りの高血圧・循環器病予防療養指導士が誕生しましたが,療養指導を必要とする対象者・患者に対して十分な数とは言えません。脳循対策基本法制定により,これまで以上に日本の循環器疾患対策を力強く推進することが看護師には求められます。医療機関,保健センター,介護施設などあらゆる場に,療養指導を必要とする対象者・患者がいます。これらの人々に十分な支援を提供するため,高血圧・循環器病予防療養指導士の資格取得をぜひご検討ください。

●高血圧・循環器病予防療養指導士の受験資格など,詳細は高血圧・循環器病予防療養指導士の公式ウェブサイトをご参照ください。Q&Aなどわかりやすく解説しています。


みやまつ・なおみ氏
2004年阪大大学院医学系研究科博士後期課程修了。博士(保健学)。滋賀医大臨床看護学講座准教授を経て,05年より現職。専門は成人看護学。日本循環器病予防学会理事,日本高血圧学会評議員を務める。

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