MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2019.07.08
Medical Library 書評・新刊案内
聖路加国際病院 内科専門研修委員会 編
《評者》田中 純太(新潟大地域医療教育センター特任教授)
原点に立ち戻りながらも新しい「聖路加」スタンダード
最初に表紙を見て驚いた。初版から一貫して「聖路加国際病院内科レジデント編」であったのが「聖路加国際病院内科専門研修委員会編」に変わっているのだ。
そして,手に取ってまた驚いた。第8版よりも明らかに軽いのだ。比較してみると,実に50ページ近くスリムになっている。
表紙を開けてみよう。編集委員は2015年から2017年までの歴代「聖路加内科チーフレジデント」である。そして,編集責任者は3人だ。このうち「聖路加」の医師臨床研修プログラム責任者である木村哲也医師,内科専門研修プログラムディレクターの長浜正彦医師は,共に1990年代の「聖路加」でトレーニングを受けた精鋭である。また,高尾信廣医師は,単に「初版編集者」ではない。『内科レジデントマニュアル』では第7版まで編集に携わり,木村医師や長浜医師はもちろん,私自身をも厳しく指導してくださった「聖路加内科チーフレジデント」のレジェンドである。
さて,マニュアル本体のページをめくってみよう。ここでも第8版との明らかな違いに気付く。まず,目次がスッキリして見やすくなっているのだ。
そして,夜間や新入院時にレジデントが安全,確実に対処できる工夫にあふれている。
その一つが「疾患概念」「診断の要点」「初期対応のポイント」から「初期対応」へとコンパクトに整理していることだ。特に「初期対応のポイント」は囲みで箇条書きになっており,大切な項目がサッと頭に入る。また,各疾患の最後には留意すべき「入院指示オーダー」のポイントが提示してあり何とも心憎い。さらに,小さなことではあるが,薬品名も一般名で記載しており,ジェネリック製品が定着したこの時代にはうれしい限りである。
実際に1か月間,入院診療やオンコール,当直の際に本書を使用した。そして,初期対応に必要な情報が,まさに過不足なく盛り込まれていることにあらためて納得した。
そもそも『内科レジデントマニュアル』は,聖路加国際病院内科レジデントの教育を目的に編集している。したがって,2018年度から始まった新専門医制度を考慮すれば,医師臨床研修から内科専門研修に至るプロセスを網羅するために「聖路加国際病院内科専門研修委員会編」としたことは理にかなっている。そして,up-to-dateでより一般的な内容に絞った編集方針により,結果としてポケットサイズを重視したスリム化にも結び付いているのだ。
私は,高尾医師の指導下で24年前上梓した第4版の編集に当たった。その「序」には「正確な知識と的確な判断,そして冷静で確実な処置」が日常臨床で第一に必要なことであるとの高尾医師の言葉が書かれている。
初版の上梓から35年,原点に立ち戻りながらも全く新しい「聖路加」スタンダードにふさわしい一冊が登場した。
B6変型・頁480 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03613-9


坂井 建雄,河田 光博 監訳
《評者》篠田 晃(山口大大学院教授・神経解剖学)
プロメテウスが贈る美しき灯火
プロメテウス解剖学アトラス第3巻頭頸部/神経解剖に,待望の日本語第3版(原著ドイツ語第4版)が世に出ることとなった。清楚で美しい図譜が定評の「プロメテウス」は,生理機能や病態・臨床的意義の理解までもめざした詳細な解剖学アトラスである。今回の最新版では,特に神経解剖と歯科口腔領域で目を見張る拡充と改訂がなされている。通常,解剖学シリーズの神経解剖領域は,その構造と機能の複雑さ故に中途半端感が残り,他の神経解剖学アトラスや専門書に道を譲ることになる。今回の改訂では最新の情報が加わり,全体の構成が再編された。
特に序論が充実し,全体が見渡せるようになり,複雑な中枢神経系の構造の学習への心構えができる。中枢神経系の用語集と要約の大幅な増ページもうれしい。初学者・学生諸君のみならず教員や研究者にとっても知識の整理として大変助かる。第3巻の神経解剖の章自体で神経解剖学の専門書・専門図譜のレベルに達している。また医学にとって盲点となりがちな口腔領域の充実した増ページも見逃せない。歯の発生と歯科診療の項が新たに追加され,X線写真と局所麻酔刺入点の写真も加わった。歯科医をめざす学生はもちろん,医学生や若手医師にとっても臨床的理解が助けられ,口腔領域の解剖が一層魅力的なものとなったであろう。
神経解剖が対象とするのは中枢神経だけではない。脳を理解しようと思えば,末梢神経や感覚器や効果器,そしてそれらとの関係について学ばなければならない。頭頸部は特に顕在意識化された脳の高次機能の入出力の要である。こころを構成する認知や情動や能動について深い理解をめざすならば,この領域の詳細な有機的関係の理解が鍵を握っている。これらが一体化した第3巻は21世紀の脳科学・神経科学の礎を担っているといっても過言ではない。
現実に出会う自然現象には無数の情報が含まれ本来複雑である。見えていても見えないものばかりである。科学的解析プロセスはその描写から始まるが,そのままでは真実の不完全な鋳型である。描写から説明文のついた図譜,シェーマ(図式)への過程で整理がなされ理解に至る。しかし同時に大切な真実が削ぎ落とされていることを忘れてはならない。そういう意味で,われわれは常にご遺体や体そのものに立ち返る必要がある。
図譜というものは,真の人体の描写とシェーマを結び付ける位置付けにある。描写に近い図譜もあれば,シェーマに近い図譜もある。「プロメテウス」の美しさは,描写の側面とシェーマの側面を持ち併せ,両者を上手くつなぐ整合美にあると言える。特にこの巻の神経解剖は,精緻な図譜とシェーマの絶妙な組み合わせにより,構造と機能が一体のものであるとわかる。これが解剖学図譜を芸術の域に高め,読者を惹き付けて止まぬゆえんである。翻訳版はともするとその過程で原著のエッセンスを失う危惧がある。英訳を介するとなおさらである。今回はドイツ語原著から直接の翻訳であり,神経解剖学や歯科解剖学のそうそうたる面々が訳者として参加している。日本語の説明文は,損なうどころかさらに理解を助ける言葉がちりばめられている。
プロメテウスはゼウスの反対を押し切り,哀れで愚かなる人類に人体が理解できるよう,未来を照らす神の灯火を与えてくれた。解剖学図譜の至高の大傑作である。
A4変型・頁610 定価:本体11,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03643-6


郡 健二郎 監修
安井 孝周,林 祐太郎,戸澤 啓一,窪田 泰江 編
《評者》松原 昭郎(広島大大学院教授・腎泌尿器科学)
信頼の定番ポケットアイテムがより使いやすくより身近に!
「泌尿器科診療ですぐに役立つポケットサイズの専門書がほしい」。これは泌尿器科医として初めの一歩を踏み出す全てのレジデントに共通する願いであろう。本書は,名門・名市大泌尿器科とその関連施設に勤務する百戦錬磨のベテラン医師たちが,この要望に応えるべく丹精込めて手ほどきした泌尿器科診療の奥義書である。発売当初から信頼のツールとして好評を博してきた本書が8年振りにリニューアル,磨きをかけてパワーアップし,わずか11 mmという驚きの薄さに生まれ変わった。
レジデント目線の必要な情報が全てこの一冊に
ページをめくってまず気付くのは,きめ細やかで豊富な情報量である。症候と鑑別診断,検査法,処置,代表的疾患はもちろん,処方例,周術期管理,患者説明,トラブル対処法,緩和医療,各種スコア・質問票,さらには保険点数までカバーされている。また,各項目別に目を向ければ,例えば検査では必要物品や器具の使い方,手順まで一挙手一投足に丁寧に解説してある。ここまで至れり尽くせりの全てそろった書籍は他に類を見ない。しかも,改訂版では項目ごとに新たなページで始まるよう編集され,知りたい場所に素早くアクセスできるよう工夫されている。
豊富な図解とフローチャートで直感的かつ確実な理解
ビジュアルな点も,駆け出しの医師にとってはありがたい。初版でも日常診療に欠かせない知識は項目ごとに整理整頓され,シンプルなレイアウトで端的にまとめられていたが,改訂版ではこれに図解やフローチャートが随所に盛り込まれ,よりわかりやすくなった。持続勃起症の治療を例に挙げれば,「シャント造設術を行う」という記述にとどまっていた初版から,改訂版ではイラストを交えた作成方法が丁寧に解説されている。また,チェーン尿道膀胱造影のような上級医からの口伝だけでは曖昧になりがちな画像の見方などは,図解によって確実に理解できるよう改良されている。
他の書籍にはない経験に裏打ちされた勘所や注意点が満載
本書の出色は枚挙にいとまがないが,特に際立っているのは全ての情報が生きていることであろう。泌尿器科診療の最前線で活躍する63人もの経験豊富なドクターが自らの経験に基づいた診療の極意をポイントとしてくまなく伝授するとともに,苦い思いをして初めて得られる要注意事項を惜しみなくちりばめている。これによって何が重要なのか,落とし穴はどこにあるのかが手に取るようにわかるのである。これはもう単なるマニュアルではない。あらゆる場面で力をくれるバイブルと言えるだ...
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