医学界新聞

2019.07.01



Medical Library 書評・新刊案内


プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト

Anne M. Gilroy 原著
中野 隆 監訳

《評者》光嶋 勲(広島大病院国際リンパ浮腫治療センター特任教授/東大名誉教授)

学生だけでなく臨床医にも大いに貢献する新しい解剖学書

 評者は全身の失われた体表組織の再建を専門としており,最近はリンパ系機能の外科的再建術をはじめ多くの再建術を世界に発信してきた。このような再建外科に必須の手技と知識は,超微小外科手技,つまり手術用顕微鏡下の0.3 mm~1 mmまでの超微小血管・リンパ管や微小神経線維の吻合術と,全身の微細血管・リンパ管・神経などの分布や変異に関する微小解剖知識である。新しい術式の開発にはまだ未知の領域の解剖知識が必須であり,過去40年間常に解剖学所見を眺め,かつ臨床解剖学会を通じて解剖学者と頻繁に交流し続けている。そういった経過で,これまでいくつかの解剖学研究会で,本書の監訳者である中野隆先生から多くを学ばせていただいた。その臨床解剖学的知識のレベルの高さや学生に対する熱血指導など,中野先生は多くの臨床家からも解剖学者として常々尊敬され続けておられる。

 中野先生は今回労作である『プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト』を刊行された。評者はこれまで多くの国内外の解剖学書を開き,多くを学んできたが,久々に素晴らしい解剖学書が完成した。本書は名前の通り臨床医学の理解に必須の解剖学的知識に的を絞り,かつ解剖学の範疇にとどまることなく人体の構造を統合的に解き明かしている。ドイツのイラストレーターの芸術的なセンスとコンピュータの最先端技術を結集した図譜は,本物以上の緻密さと気品を感じさせる秀作であり,われわれを精緻で芸術的な人体解剖の世界へと誘ってくれる。

 本書において特に感心したところは,原書第2版から臨床医学的視点の導入が入っていることである。つまり,各章末の「臨床画像の基礎」においてX線,CT,MRI,超音波の画像が示されていることである。また「臨床医学の視点」としてコラムが随所に設けられている。さらに人体発生学の知識を含めたコラム「発生学の観点」も設けられている。章末の復習問題は臨床に直結した症例問題であり,臨床のいずれの分野においても極めて重要な問題である。問題の中にはかなりレベルが高いものもあるが,これを理解することで本邦の学生の臨床的な知識がかなり上がるであろう。これらの問題に挑戦することで,臨床医にとっても解剖学のグローバルスタンダードにとどまらず,臨床的に極めて重要な知識を学ぶことができる。監訳者注として中野先生の独自の注釈が入っているところも先生の臨床への見識の高さに感心するところである。本書の記載を精読すると,学生のみでなく臨床医家に対しても本書を学ばせたいという中野隆教授の医学教育者としての熱意が感じられてくる。本書が多くの医学を志す学生のみならず臨床医家にも大きな貢献を成すであろうことを確信している。

 国際超微小外科講習会招聘講演(中国大連)帰路にて。2019年5月5日

A4変型・頁608 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03687-0


頭頸部のCT・MRI 第3版

尾尻 博也,酒井 修 編

《評者》岡本 浩一郎(新潟大脳研究所准教授・トランスレーショナル研究)

頭頸部(眼科,耳鼻咽喉科・頭頸部外科,歯科・口腔外科関連)領域でイチ押しの画像診断書

 頭頸部領域の良い画像診断の本をお探しの先生に『頭頸部のCT・MRI 第3版』が“まさに旬”でお薦めです。

 2017年に頭頸部腫瘍のWHO分類が第4版に,2018年にAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)のCancer Staging Manualが第8版になりました。近年human papillomavirus(HPV)関連中咽頭癌が注目され,新しい疾患概念の理解も求められています。

 日本を代表する執筆者・編集者による本書は,それぞれの項目や疾患について読後に満足感の得られる本です。

 本書の構成を見ると,各章の最初にその領域の解剖や正常変異,疾患の理解に必要な機能や病態の解説,適切な検査法の記載があります。読者はまず必要な基礎的知識の確認と補完ができます。疾患も解剖学的部位ごとにまとめられ,画像所見から診断を考えるという画像診断医の視線が大切にされています。その中で画像診断の要点が示され,BOX形式の囲み記事も鑑別診断などが一目で把握できるように工夫されています。関連項目もすぐ本書の中で探して読むことができます。画像診断医にはありがたい本です。臨床医の画像の理解も深まります。

 第3版は2色刷りで見やすく,最新の豊富な画像と理解を助けるための図も一部カラー化されています。文献も初版から伝統的に充実しており,向学心旺盛な読者は有用で厳選された文献を知ることができます。文献リストの充実は執筆者の記載についての証しであり,執筆者・編集者,出版社の読者に対する気遣いと熱意が感じられます。

 私は放射線診断専門医として神経領域に加え頭頸部領域も担当しますが,2002年に頭頸部領域の教科書的な本格的専門書として最初に選んだのが本書の初版本でした。『頭頸部のCT・MRI』は初版から画像診断医のみならず,関連領域の臨床医などからも多くの支持を得ていますが,その特徴は初版から第3版まで受け継がれています。初版本が刊行された当時,頭頸部領域の日本語の画像診断の良い本が見つかりませんでした。画像診断報告書作成ではまず解剖学書で正確な解剖を確認し,疾患については眼科・耳鼻科・歯科領域などの教科書を読み,腫瘍性病変の病期はTNM分類のテキストを別途参照しなければなりませんでした。そのような状況で,『頭頸部のCT・MRI』を手にした時の頼もしさは今でもよく覚えています。

 初版が690ページ,第2版が約740ページと次第にページ数が増え,第3版は図表や記載内容の充実に伴い約860ページになりました。画像を重視するため上質な紙を用いており,第3版の重さは2.2 kgになります。これが電子書籍であればどこにでも持ち運べ,必要な時にいつでも読むことができます。今後の電子書籍化を願っています。

 まず,実際に本書をご覧いただき,その充実度と読みやすさをご確認ください。

B5・頁880 定価:本体15,000円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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