救急外来にも帰宅時支援を(寺本千恵)
寄稿
2019.06.24
【視点】
救急外来にも帰宅時支援を
寺本 千恵(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻地域看護学分野助教)
近年,日本を含むOECD諸国では救急外来を受診する患者(以下,救急患者)が増加している。特に,高齢の救急患者は多く,高齢化の進展に伴い,今後も増加が見込まれる。
救急患者のうち7~8割は帰宅することが可能な患者(以下,救急帰宅患者)が占めている1)。これらの救急帰宅患者は,帰宅後のADL低下,要介護状態,30日以内の死亡,予定外の入院,救急外来への再受診(以下,再受診)リスクが高いことが知られている2)。救急外来での診断・治療の進歩に伴って,継続的な医療を要する状態の患者が入院せずに帰宅する場面の増加が推測される。帰宅後の再受診等のリスクを軽減する支援方法の検討が必要である。
支援が必要な入院患者に対しては,2018年度診療報酬改定で「入退院支援」加算が拡充された。入退院支援では,身体的・社会的・精神的背景を含めた患者情報の把握や退院困難な要因の有無を入院前から評価し,早期に対応することが重視される。救急帰宅患者の再受診等のリスク軽減に対しても,入退院支援のように,初回受診時に帰宅後の生活を見据えた短時間でのアセスメントと,患者・家族の生活上の困難を軽減させるかかわりや,必要に応じて地域の医療・福祉サービス等につなげる「帰宅時支援」が重要となるだろう。
海外では帰宅時支援実施の例が既に複数ある。豪ニューサウスウェールズ州でのAged Care Services in Emergency Teams(以下,ASETs)を例に紹介する。
ASETsは患者の健康アウトカムの改善と,入院・再受診を減らすことを目的に,2002年より配置が始まった。現在では州内の全公立病院・救急外来に配置されている。ASETsは高齢者ケアの経験がある看護職等を含む多職種で構成され,救急受診をした70歳以上の高齢者のマネジメントを展開している。ASETsは,患者や介護者/家族を含めたHolisticなアセスメントを実施し,ケアプランを立案。救急受診中の意思決定プロセスの支援や,救急外来からの移行先(地域,高齢者施設,病棟,外来等)との調整をする。
実際に,シドニーの公立病院へ見学に行くと,ASETs(その日は看護職)は,救急外来の診療スタッフとは独立した存在として全ての高齢の救急患者と接触していた。また,診療する医師たちも患者・家族に対し,チェック項目を確認しながら,診断・診療の理解度の確認,フォローアップ資源の確認・調整,困ったときの対処法など,口頭+書面での患者教育を実施していた。これらの活動により,多くの高齢の救急患者は,受診時から本人・家族が納得しながら治療・処置が進められ,帰宅後も適切なフォローアップを受けられるだろう。
現在日本では,トリアージナースを配置し救急外来の来院患者に対するトリアージの加算が付けられている。このトリアージを帰宅時の支援にも生かせないだろうか。帰宅前にも「帰宅する前の“トリアージ”(アセスメント)」を実施する看護職等を配置し,関係機関との調整等を行う。すると,救急帰宅患者の帰宅後の生活の困難を軽減でき,移行先で病状悪化前の対処行動を促し,予定外の入院や再受診等を減らすことが可能だと考えられる。それにより医療費の削減につながるだけでなく,より重症な患者の救急外来での受け入れとタイムリーな対応が可能になるだろう。今後も研究を蓄積し,日本の医療制度の中でも救急外来での帰宅時支援システムが構築されるよう進めていきたい。
◆参考文献
1)Berchet C. Emergency Care Services――Trends, Drivers and Interventions to Manage the Demand. 2015.
2)J Emerg Nurs. 2015[PMID:25618557]
てらもと・ちえ氏
2008年広島大医学部保健学科看護学専攻卒業後,順天堂医院救急プライマリケアセンターで看護師として従事。17年東大大学院健康科学・看護学専攻博士課程を修了後,現職。
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