医学界新聞

寄稿

2019.06.24



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
科学的な文章を書くためにおさえておきたいスキル

【今回の回答者】倉茂 好匡(滋賀県立大学理事兼副学長)


 論文を執筆するときには,「誰がどのような読み方をしても,1通りの意味にしか読み取ることができない」書き方をしなくてはなりません。また,論文全体を通して「論理構造がしっかりしている」必要もあります。ところが,看護系の学術雑誌に掲載されている論文を点検してみると,「意味が2通りに読み取れる文」が散見されます。また,文章としての論理構造がはっきりせず,特に「段落の作り方」に問題のあるものも目立ちます。それどころか「表現上の欠陥がある文」までもが交じっている論文も存在します。言い換えれば,「1通りの意味にしか読み取れない文」と「表現上の問題がない文」を作成し,それらを組み合わせて「段落構造のはっきりした文章」にしていけば,その論文は「論理構造がかなりしっかりしているもの」になるのです。

 なお,文とは「句点(。)から句点までのひとまとまり」のことです。また文章とは「複数の文で構成されたもの」です。したがって,上の段落は「6つの文で構成された文章」になっています。


■FAQ1

「意味が2通りにとれる文」とはどのようなものですか? それを修正するにはどうすればよいのですか?

 「意味が2通りにとれる文」の典型的な例を次に示します。後の説明のため,文節に区切っておきます。

例文1
 新しい|看護師の|ユニフォームが|ある。

 「新しい」という語は連体修飾語です。つまり,この文節よりも後ろにある体言(名詞)を修飾します。ところが,日本語の文法では「その文節より後ろにある名詞を修飾する」ことしかわからず,「どの名詞を修飾するか」を文法的に判断することはできません。そのため,例文1の場合には「新しい看護師」ということを述べたいのか,それとも「新しいユニフォーム」ということを述べたいのか,この文からは判断できません。

 これを修正するためには,修飾される候補となる文節(被修飾語)が1つになるように工夫します。いくつかの方法がありますが,その修正例を2つ示します。

例文1の修正例①
 新人看護師専用のユニフォームがある。
例文1の修正例②
 看護師のユニフォームが新しくなった。

 修正例①では「新人看護師専用の」という文節の被修飾語候補は「ユニフォームが」しかありません。修正例②でも「看護師の」の被修飾語候補は「ユニフォームが」しかありません。

Answer…修飾語の位置を意識して,誰がどのような読み方をしても意味が1通りにしか読みとれない文を作ることを心掛けましょう。

■FAQ2

「表現上の欠陥がある文」とはどのようなものですか? それを修正するにはどうすればよいのですか?

 「表現上の欠陥がある文」とは,文中に使用されている語の「本来の使用法」を無視して使用してしまっている文のことです。残念なことに,小説やテレビドラマなどでは「当たり前」のように使用され,しかも容認されてしまっています。しかし,厳密な書き方が求められる「科学的作文」では,この種の表現は認められません。典型的な例を次に示します。

例文2
 Z国に派遣された医師団は亡くなる場合もある。

 例文2は,医療系ドラマのセリフの中にあったものを改変したものです。そして,ドラマのセリフとして聞き取るならば,その意味することは理解できます。しかし「語の本来の使用法」から考えると,「亡くなる」ことができるのは「人間(この場合は医師)」です。「医師団」という組織が「亡くなる」ということはあり得ません。このことに注意して修正すると,例えば次のようになります。

例文2の修正例
 Z国に派遣された医師団の医師のうち,これまで2名の医師が現地で亡くなった。

 似たような問題のある例文をもう1つご紹介します。

例文3
 インフルエンザの流行が広がっている。

 「広がる」という語は,本来は「領域が広がる」のように「面積や幅」を意味するものに対して使用されるものです。ところが「流行」という語には「面積や幅」の意味は含まれていません。「広がる」ことのできるものを加えた文に修正しなくてはなりません。

例文3の修正例
 インフルエンザの流行している地域が広がっている。

Answer…「語の本来の使用法」を無視して文に使うと,「表現上の欠陥がある文」になってしまいます。たとえよく使われる表現でも注意しましょう。

■FAQ3

「段落の作り方」の原則を教えてください。

 科学的作文では「段落とは,1つの話題について書かれているもの」という原則があります。そのため,段落の冒頭には主題文(トピックセンテンス)が置かれ,その段落内では「冒頭に述べたトピックに関することだけを述べる」必要があります。

 ところが,看護系の論文を読んでみると,「段落の途中で話題が変わってしまっている」ものをしばしば見かけます。次の例を見てみましょう。

例文4
 健診センターで行われる健康診断では,看護師はさまざまな用務に就く。採血業務はその中でも代表的なものである。ところが,健診センターにおける健康診断は平日の日中にのみ行われることが多い。そのため,平日のみに営業する健診センターの看護師は,平日の日中のみ勤務すればよい。すなわち,夜勤や準夜勤のない勤務形態である。

 段落の冒頭に置かれている文がトピックセンテンスになるのですから,この段落のトピックは「健康診断で看護師が行う用務について」です。したがって,この段落では「健康診断のときに,看護師はどのような用務に就いているのか」についてのみ述べるべきです。ところが上記の例文では,段落の第3の文以降では「健診センターの営業時間および勤務形態」を話題にしています。つまり,段落の途中で話題が変化してしまっています。このように,段落中での話題が変化してしまうことを,私は「段落中での話題のブレ」と呼んでいます。

 この段落を話題ごとに2つの段落に分けてみましょう。次の修正例を見てください。

例文4の修正例
 健診センターで行われる健康診断では,看護師はさまざまな用務に就く。健診センターに勤務する看護師は,身長・体重・視力・聴力・血圧などの測定や採血,尿検査,心電図検査などに従事する。医師が行う診察の補助も行う。検査前の問診も,看護師の大切な用務の1つである。
 ところが,多くの公的な健診センターは平日の日中にのみ健康診断を行っている。このため,この種の公的健診センターに勤務する看護師は,平日の日中にのみ勤務する。すなわち,ここに勤める看護師は,休日勤務や夜勤・準夜勤を行う必要がない。

Answer…冒頭に段落の内容を明示する「トピックセンテンス」を置き,段落内はその話題についてのみ書くようにしましょう。1つの段落に2つ以上の話題を入れると,話題のブレが生じてしまいます。

■もう一言

 論文を執筆する際に心掛けるべきことは,この3つだけではありません。単純な構造の文を書くことのみならず,段落内の論理関係をチェックすることや,段落間の論理関係をチェックすることも行わなくてはなりません。

 また,章を作成する際には,各章で「書くべきこと」と「書いてはいけないこと」を厳密にチェックしなくてはなりません。例えば「結果」という章を作成したなら,この章に「結果から導かれること」を書いてはいけません。この内容は「考察」の章に書かれるべきものです。

 「科学的作文法」に関するテキストを読み,そこに書かれている方法で自分の文章を点検してみてください。もし「作文法」に関する勉強会が開催されるのなら,それに参加して自分の文章をブラッシュアップするのもよいでしょう。論文を書き慣れている研究者に,自分の文章を点検していただく必要もあるでしょう。

 いずれにせよ,「科学的作文法」を習得してから文章を書くと,文章を書くことに慎重になり,「気軽に文章を書く」ことができなくなります。文章を書くための時間が長くなるでしょう。でも,それはあなたの作文力が向上してきている証拠なのです。


くらしげ・よしまさ氏
1992年北大大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。専門は地形学。専門の教育研究に従事する傍ら,科学的作文法に関する学生指導を勤務校などで実施。近著に『論文・レポートが変わる! 看護学生のための科学的作文レッスン』(医学書院)がある。

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