ルーチン検査から診断を絞る(本田孝行,青木洋介)
対談・座談会
2019.06.10
【対談】
貴重なデータを見逃していませんか?
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本田 孝行氏(信州大学医学部病態解析診断学教授/同大医学部附属病院長)
青木 洋介氏(佐賀大学医学部国際医療学講座・臨床感染症学分野教授/同大医学部附属病院感染制御部長) |
血算,生化学検査,凝固・線溶検査,尿・糞便検査および動脈血ガス分析。これらルーチン検査を漠然と行い,その有用性を見過ごしていないだろうか。「ルーチン検査を味方にしなければ決して名医にはなれない」と,ルーチン検査の解釈の重要性を語る本田孝行氏は,患者の病態を把握するため,十数年にわたり信州大学方式と呼ばれるRCPC(MEMO)を推進し,このほど『検査値を読むトレーニング――ルーチン検査でここまでわかる』(医学書院)を上梓した。
本対談では「ルーチン検査値を丁寧に解釈することが患者診療の基本」と話す感染症医の青木洋介氏と共に,これまでのルーチン検査への認識を改めて見直す。
青木 私たちが医学生の頃は,ルーチン検査の有用性について学ぶ機会がたくさんありました。しかし,検査手法の選択肢が増えた今では,その重要性を見失いがちなのかもしれません。
本田 ルーチン検査は低コストかつ有用性が高いものの,新しい検査の発達により深く解釈されなくなっています。
青木 それでもルーチン検査値の丁寧な解釈が患者診療の基本であることに変わりはありませんね。
まずは本田先生の考えるルーチン検査とは何か,教えてください。
本田 私の必須と考える検査項目は,血算,生化学検査,凝固・線溶検査,尿・糞便検査,動脈血ガス分析に,CRP(C-reactive Protein)を加えたものです。学生には日常臨床で最も接するルーチン検査の読み方を,RCPC(Reversed Clinico-pathological Conference)形式で講義します。
青木 検査値の読み方をRCPC形式で講義する教員は今,どれくらいいるのでしょう。
本田 自治医大名誉教授の河合忠先生が考案された教育技法により,検査値を読むこと自体は多くの大学で実施されています。しかし,ルーチン検査を正しく読むためには,時系列を踏まえて読むことが重要です。この力を養うための講義は不足しているように感じます。
青木先生は日々の感染症診療の中で,ルーチン検査を意識するのはどのようなタイミングでしょうか。
青木 感染症コンサルテーションを受ける患者には感染症ではないと思われる方も含まれますので,そのときには感染症なのか,腫瘍なのか,あるいは膠原病なのか,疾病のカテゴリー分けにルーチンの検査値を活用しています。『Fever of Unknown Origin』(Informa Healthcare)の14章にも,血算,白血球分画の上がり方,生化学,タンパク質電気泳動,尿検査,フェリチンの情報が,感染症なのか,腫瘍なのか,はたまたそうではないかの鑑別に有用とされており,まずこれらの鑑別を行ってから特殊検査を行うべきと記載されています。
ローテクノロジーを駆使してハイクオリティな医療を
本田 感染症医の方はよく,「感染症は良くなるか,悪くなるかのどちらかで,同じような病態をずっと示すものは存在しない」と話します。検査値も全くその通りで,CRPが10 mg/dL前後を示し続ける場合,急性細菌感染症は考えにくいです。急性細菌感染症の場合は時系列で検査値を追うと,上がり下がりが早いことに気付かされます。
青木 もちろん感染症以外の疾患も数値が動き続けるとは思いますが,例えば膠原病は感染症に比べると,より長い時間stableのことが多いですよね。
本田 ええ。検査値が変動するスピードで疾患が絞られる場合もあります。
青木 末梢の白血球数が6000/μLでも,下がりつつある6000/μLなのか,戻りつつある6000/μLなのかで対処が大きく異なります。どちら向きの経過かを時系列で読み取ることが必要です。
本田 ルーチンの検査項目はわれわれが医師になる以前から変わっていません。30年以上も前からルーチン検査の有用性が認識され,各項目に取って代わる検査が現れなかったためです。それに加え,近年はルーチン検査のコストが下がり,繰り返し実施できるようになりました。時系列データで得られる情報の価値はコストに十分見合うはずです。
青木 入院患者には必ずルーチン検査を実施するのに,昨今は結果をあまり詳細に考察せず,確定診断のための特殊検査にばかり目が行く方が多いように感じます。
本田 特殊検査の多くはカットオフ値を持つので,解釈が簡単だからでしょう。一方で特殊検査に比べルーチン検査は,診断するための病態を判断しますので「この検査値が上がっているからこの病気だ」と瞬時に判断しづらく,上手に扱うには少し学習が必要です。
青木 ここ数十年の間に生まれた多くの特殊検査には,現在は使われていない手法も数多く存在します。新しい検査手法にやみくもに手を出すのではなく,一度立ち止まって検査手法の有用性と意義を考えてみるべきです。
本田 非常に重要な視点です。
青木 サイエンティストやエンジニアが開発する新しい検査は,臨床医のようなプラクティショナーにどう役立つかはっきりしないまま使われだすことが少なくありませんね。ハイテクノロジーだからクオリティが高いとは限らない。ローテクノロジーだけれどもハイクオリティの医療が必ず存在し,その
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