Gaming disorderから子どもの発達をどう守るか(中島匡博)
寄稿
2019.06.03
【寄稿】
Gaming disorderから子どもの発達をどう守るか
中島 匡博(中島こどもクリニック院長)
近年,親子が目を見合わせて会話をせず,幼児が独りでタブレットの動画等に夢中になる光景を目にする。小学生がゲームに没頭し,体をあまり動かさず,友達と群れて遊ばないことも日常的に見られるようになった。思春期世代では,インターネット(以下,ネット)につながる機器に長時間接し,睡眠不足や体調不良を訴えたり,家庭での学習時間の確保が困難となったりするなど,日常生活や学業への影響が見られ,ゲーム等のネット依存の可能性が高いと考えられる事例も経験する。ゲーム機やスマートフォン(以下,スマホ)等の電子メディア接触の長時間化や低年齢化が,顕著となっている。
電子メディアが子どもの生活や遊びの中に急速に浸透し,電子メディア接触による心身への影響と適切なかかわり方について理解を深めることの重要性が増している。
子どもの電子メディア接触の長時間化と低年齢化の現況
2005年頃から,夜遅くまでビデオを視聴した結果寝不足となり,体調不良を訴える子どもたちが当クリニックを受診するようになった。
ネット利用率は,1歳18.3%,3歳45.2%,5歳67.8%で,2~9歳のネット利用内容は,動画視聴85.3%,ゲーム60.0%,知育アプリ等30.4%で,ネット利用時間が平日1日当たり3時間以上の割合は,3歳11.6%,5歳11.0%で1),低年齢からのネット利用が見られる。スマホでネットを利用する者の割合は,小中学生で増加している(図1)1)。放課後にゲーム・ネット等で電子メディアに接して過ごす小学生の割合は,72.4%(2017年度),80.7%(2018年度)と,増加している2)。
図1 スマートフォンでインターネットを利用する者の割合(文献1をもとに作成) |
筆者が診察に当たった島根県益田市の乳幼児健診でのアンケート調査で,テレビ・DVD視聴が2時間以上の者は,1歳6か月児15.7%,3歳児20.6%(2017年度実施,益田市子ども家庭支援課乳幼児健診集計より引用)であった。益田市内の4か所の保育所,幼稚園のアンケート調査(2018年5~9月実施,1~6歳児,n=135人)で,電子メディア接触3時間以上の割合は,平日17.0%,休日41.5%と,休日での長時間接触を認めた。
厚労省は,ネット依存の疑いが強い生徒の割合を2012年度,2017年度に調査・公表した3)。図2に示したとおり,中高生ともに増加が見られる。
図2 インターネット依存の疑いが強い生徒の割合(文献3をもとに作成) |
電子メディアへの過剰な接触は子どもの心身に影響を与える
乳幼児期は,母(養育者)と子の触れ合いを通して,基本的信頼感を形成し,愛着形成につながる大切な時期である。また,学童期にかけての時期は,遊びや自然体験を通して運動能力やバランス感覚を体得し,人と人とのかかわりを体験する重要な期間だ。長時間の電子メディア接触で,五感を使う体験が減り,読書・運動・友人と遊ぶ時間等を失うことはdisplacement effectと呼ばれ,電子メディア過剰接触による問題として認識されている。ネット過使用は睡眠不足,視機能,肥満等への影響や,言葉の理解力の低下と,注意・実行機能等に関連する領域を含む脳への影響が示されている。
2011年には米国小児科学会が,2歳以下の子どもの電子メディア接触は,教育・発育に有益であるエビデンスは認められないと発表し,2017年に年長児が宿題をする時の電子メディア使用を禁じた。同学会は総スクリーンタイムの制限にも言及した。18~24か月児は禁止,2歳以上は1日1時間未満にすることを推奨し,5歳未満はコンピューターあるいはビデオゲーム使用を,慎重に考えるべきとしている4)。
ICD-11(国際疾病分類)では「gaming diso...
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