ベッドサイドで学ぶ集中治療(則末泰博)
インタビュー
2019.05.13
【interview】
ベッドサイドで学ぶ集中治療
思考過程と判断の根拠を言語化するために
則末 泰博氏(東京ベイ・浦安市川医療センター救急・集中治療科/集中治療部門部長・呼吸器内科部長/センター長補佐)に聞く
急性期の重症患者を対象とする集中治療の現場では,患者を救命すべく最善の治療が日々行われている。しかし,懸命に治療を行っても命を救えない患者がいることも現実である。生死の現場に立ち会うことの多い集中治療医には,どのような能力や心構えが必要か。
米国の集中治療の現場で研さんを積み,医師としてあるべき姿“Second nature”を実践すべく努力を続ける則末泰博氏。帰国後から自施設で工夫を凝らして行う研修医教育の内容や,集中治療医として身につけたい倫理観について聞いた。
――患者さんの生死を左右する集中治療の現場では,多職種による迅速な連携と判断が求められます。現在,どのような治療体制をとっていますか。
則末 当科は,ICUに常駐している集中治療医が,ICUに入院する全ての重症患者の治療管理を行うクローズドICUを採用しています。心臓血管外科の術後患者,脳神経外科の患者,内科患者など,全てのICU患者に集中治療チームがかかわり,患者への責任を主科と共有します。
さらに,欧米のクローズドICUと同様,集中治療チームの医師のみがオーダーを出せるよう限定しています。このシステムでは,各専門科が患者に何らかの介入をしたいと考えたとき,集中治療チームとコミュニケーションを必ず取る必要が生じるため,チームワークがより強固になり安全性も向上するメリットがあります。日本で一般的に考えられているクローズドICUとは少し異なるかもしれません。
――具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
則末 日本で言うところのクローズドICUは,救命センター型の集中治療室を指すことが多く,世界的に見れば実は特殊です。この場合,救命センターの中にさまざまな診療科の専門家をそろえ,他科の医師を介さずに単独の科で治療を行うことが一般的です。
ベッドサイド回診は研修医の最も学び多き場所
――的確なアセスメントとプランには患者さんの情報収集が必要です。意識的に取り組んでいることはありますか。
則末 当科では毎朝,各科の医師たちと合同でベッドサイド回診を行っています。実際に患者さんを目の前にすると,カルテに記載された検査値や画像所見だけで治療方針を決めるカンファレンスの情報と比べ,患者さんの印象が全く違って見えることが多々あります。カンファレンスだけでの判断は,まるで目隠しをしながら横断歩道を渡るような,大変危険なものだと私は思っています。
――実際に患者さんをそばで診るベッドサイド回診の特に有用な点は何でしょうか。
則末 患者さんの外見,表情,動き,呼吸パターン,人工呼吸器グラフィックなど,リアルタイムの情報をベッドサイドで見ながらプレゼンテーションし,プランを多職種で共有できる点です(写真)。必要に応じてその場で患者さんから話を聞くこともできます。
写真 ベッドサイド回診の様子 |
患者の外見,表情,動きなどを見ながら,多職種による情報共有を進める。 |
研修医には,コミュニケーションの方法から回診中の身体所見の取り方まで含めて教えていますね。
――人工呼吸管理中で話せない患者さんから情報を収集するときはどう対応しますか。
則末 気管挿管されている患者さんとコミュニケーションが取れないと思い込んでいる方は多いかもしれません。ですが,そのようなことはありません。鎮静を中断し,yes-noクエスチョンで尋ねることで,患者さんのうなずきと首振りによってコミュニケーションを取ることができます。文字盤を使う方法もあります。
――多職種がアセスメントにかかわる場合,限られた時間内で端的に情報を伝
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