日循が講演内容をTwitterで発信(第83回日本循環器学会学術集会の話題より)
2019.04.29
日循が講演内容をTwitterで発信
第83回日本循環器学会学術集会(会期:2019年3月29~31日,場所:パシフィコ横浜)において,Twitterを使い講演内容をリアルタイムに発信する取り組みがなされた。同学会情報広報部会を中心に企画されたもので,国内の医学系学会としては初めての試み。企画の経緯や事前の準備,当日の反響などについて報告する。
既に欧米の主要学会では,SNSを使って最新の学術的知見を発信する試みが先行している。学術集会の場でガイドラインの改訂内容が発表されると,参加者がTwitter投稿を通じて講演スライドを共有。そこから専門家によるディスカッションがSNS上で繰り広げられる,という光景が一般的になりつつある。これに触発された情報広報部会の部会長から委員までが「循環器学会でもチャレンジをしたい」と学会理事会に打診したのが,今回の取り組みの契機となった。
しかしその時点で学術集会の演題登録は既に締め切っており,著作権の問題など乗り越えるべき障壁があった。そもそも日本の医学系学会においてはTwitterの活用は進んでおらず,参加者のSNSに対する理解度もまちまちである。そこで広報部会の委員らは,以下のような対策を練った。
・(一般演題を除く)全演題において,演者に写真撮影の許諾を事前申請。
・スライド写真の撮影およびTwitterへの投稿は,情報広報部会委員ならびに情報広報部会が依頼する「サポーター」のみに限定(一般の参加者は写真撮影禁止。ただしテキスト形式での要約や公式投稿に対して自身の見解を投稿することは歓迎する)。
・Twitter利用指針を学会ウェブサイト上で公開し,プライバシー保護や著作権尊重などのコンプライアンスを明確化。
会期中のツイート数は約8000,公式アカウントフォロワー倍増
上記の対策を施し,演者の約9割から許可を取得して迎えた学術集会当日。撮影許可を得た参加者であることがわかるように,情報広報部会委員および情報広報部会サポーター約20人は,腕章を装着して臨んだ。
投稿の際は学会が定めたハッシュタグ(#19JCS)を用いることが推奨された。Twitterのタイムラインには,「自分の聞いていないセッションも内容を把握できるなんて! 確実に情報共有効率が違う」といった参加者の意見のほか,「楽しそうな空間がSNSを通して感じられ,最新の研究もわかり,とても勉強になってありがたい」など学会員以外からも賞賛の声が上がった。3日間の会期中にハッシュタグ付きのツイート総数(リツイート数も含む)は約8000に達し,公式アカウント(TwitterID:@JCIRC_IPR)のフォロワーも約2000人から4000人強へと倍増する結果となった。
シンポジウム”五カ年計画の成果と目標”
— 日本循環器学会 情報広報部会 (@JCIRC_IPR) 2019年3月31日
佐賀大学 野出孝一先生
予防・啓発についての循環器学会としての取り込みの具体例として、シンシンプロジェクト等各種キャンペーン、ツイッター活動、各学会との連携や日本版ナッジユニットの必要性についてご発表頂きました。#19JCS pic.twitter.com/zqUEvP1cg9
足元を全く見ずに、手を引かれながら階段を降りるすわん君。
— 日本循環器学会 情報広報部会 (@JCIRC_IPR) 2019年3月30日
これからベイサイドRun & Walkで2.5 km歩くはずだが、本当に大丈夫なのか??? pic.twitter.com/MYX9Qoy9MH
成功裏に終わった今回の取り組みの背景には,事前の周到な準備やインフルエンサー(Twitter上で影響力のある人)の積極的な関与に加え,今回の開催校である東大や事務局の強力なサポートが欠かせなかった。もちろん日循の学会規模に鑑みれば,Twitterでの投稿に参画したのは一部の医療者に限られているのも事実だが,学会のSNS活用に対して一石を投じたのは間違いない。既に救急医学会など他の学会に所属する医療者の間でもTwitterを活用した情報発信に意欲を示す声が上がっている。日本の学会におけるSNS活用は始まったばかりだ。今後さまざまな学会関係者の間で理解が深まり,学会運営のノウハウが共有されることを期待したい。
情報広報部会委員。左から水野篤氏(聖路加国際病院),石田万里氏(広島大),松本知沙氏(東京医大),野出孝一氏(佐賀大/情報広報部会部会長),福田芽森氏(慶大),岸拓弥氏(国際医療福祉大/情報広報部会副部会長) |
「情報広報部会サポーターとして参加して」小田倉弘典氏(土橋内科医院院長)
「このシンポジウムではここが聞きたい」「今の演題はここがイマイチだった」。学会で聞き歩きをすると誰しもこうした感想を抱き,反射的に「批評家」になる。しかしその批評はその場限りで封印され,あまりオープンにされることはない。今回の試みはそうした「無意識」的な感想の束を可視化させ,さらに統合しようとする試みである。大量のスライドとツイートがリアルタイムで洪水のようにタイムラインに流れてくる景色は壮観であり,そこに「いいね」が集まりコメントが付くと,感想の総和以上の「意志」のようなものが見え隠れする。批評家の東浩紀氏が提唱したような「一般意志2.0」を彷彿とさせる空間は,「もうひとつの学会場」として参加者の気付きや明日からの診療での行動変容に大いに寄与すると思われる。
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