医学界新聞

寄稿

2019.04.29



【寄稿特集】

私の学会活用ノウハウ
受け身な姿勢じゃもったいない!ワクワク学会大作戦


 例年春の学会シーズンともなると,全国各地で学術集会が開催されます。ワクワクする数日間にするために,数多くの学会の中から参加する学会を選ぶ基準は? 学会期間中はどの演題を聴講して,質疑応答の際にはどのような質問をすべき? などなど試行錯誤された経験のある方も多いでしょう。そもそもすぐに最新の情報が入手できる時代に,学会に参加する目的を考える必要もありそうです。そこで平成最後の本特集では,学会の活用法に関してちょっとしたこだわりを持つ先生方に,そのノウハウをご紹介いただきました。

こんなことを聞いてみました
①私の学会活用ノウハウ
②学会での思い出や失敗談

椛島 健治 塩沢 裕介 西村  智
大須賀 覚 倉原  優


能動的学会参加のススメ

椛島 健治(京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授)


①学会の参加にはいくつか目的があるかと思いますが,僕にも自分の中で課していることが3つあります。

1)能動的な姿勢を貫く
2)今後の臨床研究や基礎研究に役立ちそうなアイデアを得る
3)人的交流を図る

 「能動的な姿勢を貫く」ということは,例えば,1日1回くらいは質問するということです(この心掛けを失うと僕はすぐに寝てしまいます)。そして,できるだけ良い質問をします。そのため以前は,学会参加前にプログラムと抄録に目を通し,どのセッションに参加するべきか,そして,その演題で何を自分が知りたいかを明確にしました。もちろん前列に座ります。その方が,より臨場感が増し,一つひとつの演題が心に響きやすくなります。

 もうひとつ重要なのがポスターセッションです。臨床の学会では,タイトルを見ずに臨床写真や病理写真を見て,診断名を付けたり,あるいは,このポスターで何を言わんとしているのかを推理したりします。僕はどの学会に参加しても全てのポスターに目を通すようにしていますが,それ故,学会が終わるといつもくたくたになります。

 次に,今後の研究に役立ちそうなアイデアを得る,という課題です。「学会に勉強をしに行く」という表現を若い先生がよく使いますが,僕はちょっと物足りないです。教科書や医学雑誌を読めばいくらでも情報が手に入る時代ですから「勉強」なら学会に行かなくてもできるし,医師たるもの常に勉強ですからあえて学会に勉強しに行くというのがピンと来ない。単なる勉強ではなく,自分がこれからやりたいことを積極的に見つける場として学会を利用すると良いです。学会というinputが増える状況が,アイデアというoutputを生み出す可能性の最も高い場だと思います。湧いてくるアイデアをパソコンにメモしていくことが,学会に参加している中で至福の時です。

 最後に,人的交流を図ることについてです。ポスターに書かれていることを読むだけなら,医学論文や雑誌を読むことと何ら変わりません。講演する演者やポスター発表者との,「どうしてこのような研究を始めたのか」「どの点で苦労したのか」,あるいは「自分はこんなことをやってみたいと思っているのだけど共同研究はできないのか」といった会話は,学会に参加しなければ不可能です。毎年同じ学会に参加していると次第に友人も増えてきますが,そういう知り合いと意見を交換するのもいいものです。自分の興味があることと共通の領域で働く人と知り合いになれるのは,人生における大きな財産です。

 以上が僕の学会活動にかける意気込みですが,実は,僕には「裏の」学会活動もあります。それは,その土地のうまいものを食べること,近くに温泉があればそこまで足を運ぶことです。そして最も楽しみにしているのが,早起きしてその土地をジョギングすることです。観光名所だけでなく,夜の歓楽街で酔いつぶれた人たちを眺めながら散策するのも乙なものです。ちょっと性格悪いでしょうか?

②僕の大学院時代は,学会参加は自腹でしたので,特に海外の学会に参加するときは選びに選んで参加するようにしていました。そして大学院3年時に選んだのが免疫のキーストーン・シンポジウム。午後にはスキーをする時間もあるとのことで,米国コロラド経由でそこからバスに乗り継いでなんとか憧れのキーストーンへ。すると受付の張り紙に,“Dr. Kabashima, please call to your laboratory as soon as possible.”とのメッセージが。ボスに国際電話をしますと,「君の投稿した論文について,reviewerからコメントが来たので,すぐに帰国してreviseの実験を進めるように」とのこと。飛行機のチケットを取り直して(さらに出費が……),またもともとは留学希望のラボで面接の予定でしたが,それもキャンセルして帰国しました。なんだか今回の特集の主旨にそぐわない内容ですね。でも,学会参加は,さらなる目標を達成するためのものであり,学会参加がゴールなのではない,というのは大切なことだと思います(専門医更新のポイントを稼ぐために学会へ参加する,というようなことは皆さんに限ってはないと思いますが)。

学会開催中に,大学の垣根を越えて若手皮膚科医との早朝ラン!


「友達作りの場」「自分を売り込む場」としての
学会活用法

塩沢 裕介(ウェイクフォレスト大学医学部癌生物学アシスタントプロフェッサー)


①皆さんは「学会」と聞くと何を思い浮かべますか? おそらく「研究成果を発表し,最新の知見を得る場所」という感じではないでしょうか? これらが学会に参加する一番の目的であることは間違いないですし,僕も勉強するために学会に参加します。でも普段は,それらとはちょっと違う目的も持って会場に向かいます。そこで,本稿ではこの「学問をする以外の学会活用法」についてお話ししてみたいと思います。

 研究者生活が長くなってくると,原稿執筆や論文査読,学会の座長などを依頼されることが増えてきます。この手の仕事は面倒くさいですが,立派な業績になります。そして,こういう仕事を依頼する側からすると,全く知らない人に声を掛けることはまれで,ある程度名前を知っている研究者だったり,知り合いだったりに依頼することが多くなります。また,学生や若手の研究者にとっては,学会でできた知り合いを通して将来の就職が決まるなんてこともあります。これらのような理由から,研究者としてキャリアを構築していくためには,自分の専門分野で「名前や顔を知られている」というのは重要なスキルになってくるのです。

 じゃあ「良い論文を書いて有名になれば良いじゃないか」という意見も出てくるかと思います。しかし,このやり方だと時間もかかるし,若手の研究者にはなかなかチャンスが回ってきません。そこで,学会を「自分の顔を売る場」として活用するのが良いのではないかと考えているわけです。

1)できるだけ小規模な学会を選ぶ

 このように学会をネットワーキングの場ととらえているので,僕は大規模な学会には基本的に参加しません。あまりに規模が大きすぎると,人と出会うのがなかなか難しいからです。一方,小規模な学会(特に僕のいる米国の場合)では,食事の時間や懇親会などの場で強制的に人と交わるように設定されています。大規模な学会でもそのような機会がないわけではないですが,ネットワーキングという意味合いで活用するのは難しいかもしれません。

2)知らない人と話す

 僕は自他共に認める人見知りなのですが,この時ばかりはたくさんの人と話すように頑張ります。例えば食事の時間は,一緒に学会に参加した人ではなく,毎回知らない人の隣に座りますし,懇親会でもとりあえずそばにいる人に話し掛けます。話が盛り上がるかどうかは別として,この「知らない人と話す」ということが将来の何かにつながると信じ,勇気を振り絞ってやっています。

 このような出会いから,今でも連絡を取り合う研究者仲間ができました(たまに会うと一緒に飲みに行くこともあります)。またさらには,学会で知り合った友達から仕事の依頼がたくさん舞い込むようにもなりました。

3)質疑応答のマル秘活用法

 まあそれでも,やっぱり初対面の人と話すのは苦手だとか,海外の学会では外国の人と話すのは難しいという方もいると思います。そのような方には今回特別に(特別ですよ!),僕がやっている,もうひとつの「自分の顔を売る方法」を伝授しましょう。

 それは,口頭発表の質疑応答の時間に何度も質問することです。質問は他人の口頭発表を聞いている間に考えることもできますし,会話のキャッチボールをする必要もありません。何度も質問することを繰り返していると,会場にいる人たちが「誰だ,コイツ?」となり,思っている以上に顔を覚えてもらえます。質問の最初で所属と名前を言えば,それらも自然に覚えてもらえます。名前と顔を覚えてもらうという目的においては,質問するのは口頭発表をすることなんかより何倍も効果的なのです。

今から7~8年前,Prostate Cancer FoundationのYoung Investigator Awardに選ばれて壇上で表彰された時のひとこま(若い! そして,まだ髪が短い!)。
 このように僕は,学会を「勉強する場」としてだけでなく,「友達作りの場」や「自分を売り込む場」としても活用しています。人としゃべったり,質問したりするのはとても勇気がいります。でも,やってみて損はないことだと思うので,皆さんも次の学会ではちょっとでも誰かに声を掛けたり,質問をしたりしてみてください。そして,もしどこかの学会で僕のことを見掛けたら,気軽に声を掛けてください。ぜひ友達になりましょう!

②特に自分の中で思い出深い学会は,渡米して3年ぐらいたった頃に初めて英語での口頭発表を行った大規模な学会です。その頃は渡米して間もないこともあり,まだ自分の英語とプレゼンテーションに全く自信がなく,直前までビクビクしていました。それを見かねた当時のボスが「裕介,心に剣を持って挑みなさい」と助言してくれたのです。おそらく「自信と勇気を持って頑張れ」ということだったのでしょう。そのおかげで良い意味で吹っ切れて,自信を持って発表に挑むことができましたし,プレゼンも大成功に終わりました。またその時に「気持ちさえ入っていれば英語の上手い下手は関係ないんだな」ということにも気付きました。それ以来,プレゼンに挑む時は常に心に「剣」を持ち,「気持ち」で話すように心掛けています。ですから皆さんも英語なんてあまり気にせず...

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